(2017年8月取材)
■答えてくれた人 塩田雅也くん(3年)
■部員数35人(1年生10人・2年生15人・3年生10人)
太陽電池の発電量測定時間を短縮することでより正確な測定を
2011年の東日本大震災により、原子力発電に代わる再生可能エネルギーに注目が集まっています。その中でも期待されているのが、特にここ8年で変換効率を急激に上げたペロブスカイト太陽電池です。しかしこのペロブスカイト太陽電池は、まだ研究データも少なく、また複数条件での測定のもとでは、電流電圧特性に行きと帰りで違いが生じるヒステリシスという現象も観測され、正確な特性の評価が必要とされています。
一般に太陽電池の発電量は温度に敏感なため、光照射が長すぎると発電セルの光による温度上昇が起き、正確な測定ができません。ヒステリシスの影響等を正確に測定する必要があるペロブスカイト電池は、測定回数が必然的に多くなってしまうので、測定ミスを減らし、できるだけ測定時間を減らして光照射時間を減らす工夫が必要です。
そこで、このような問題を解決するために、光照射と回路の切り替えを自動化し、測定時間を短縮することで、より正確な測定ができるシステムを作りました。
測定装置の仕組み
具体的には、下図のような回路図に対し、光照射回路のスイッチと電気評価する回路をつなぐスイッチをリレーに変え、マイクロコンピュータArduinoによって自動的に制御できるようにしました。
リレーとは、電気信号によってon/offを切り替えることができるスイッチで、マイクロコンピュータは予め作成した順序通りにリレーに電気信号を送り、on/offを切り替えるためのものです。ただしマイクロコンピュータだけでは、リレーを切り替えるほどの電気信号を送れないため、トランジスタを挟むことによって、電気信号を増幅させます。
トランジスタはベース(B)、コレクター(C)、エミッタ―(E)の三端子からなり、B-E間の電流をトランジスタ固有の電流増幅率で掛けた値の電流がC-E間に流れます。従って前者をマイクロコンピュータに、後者をリレーと電源に接続すると、マイクロコンピュータが発する微弱な電気信号をリレーが反応できる信号へと増幅します。
今回は電流増幅率が最低値25倍のものを使い、またB-E間が1.00mAとなるように抵抗を使って回路を調節しました。
次に、マイクロコンピュータがどのように電気信号を発するか制御するプログラムを作成しました。電気測定の制御はスライドに示したような流れとして、それに従ってプログラムを組みました。
また、太陽電池はシリコン型のものを、光源はハロゲンランプを、電流電圧の測定器具はサイエンスキューブを使用しました。
実際に設計通りに動くのか?
このようにして作成した回路の動作を確認するために、まずはマイクロコンピュータからトランジスタで増幅されるまでの電流値が設計通りに1.00mAになっているか実験しました。
結果、回路の動作時と非動作時のいずれにおいても、トランジスタが動作するための上限値と下限値の範囲内に収まるだけでなく、設計値の1.00mAと測定平均値の相対誤差-1.33%と、十分な精度で一致しました。
次にリレーを流れる回路の電流が設計通りに24mAとして流れているか実験しました。
結果、回路の動作時と非動作時のいずれにおいてもリレーが動作するための上限値と下限値の範囲内に収まるだけでなく、設計値の24mAと測定平均値の相対誤差1.46%と、十分な精度で一致しました。
さらに、全体の太陽電池の電流電圧特性の測定を通して、自動制御がうまく作動するか実験しました。
結果、スライドに示す通り、プログラムは正常に動作しました。
さらに精度を上げるために
そこで、先ほどの3つの実験のから生じた3つの疑問点について追加実験しました。
最初にマイクロコンピュータを流れる電流の設計値と測定平均値の相対誤差、-1.33%の原因を探りました。そこで回路を構成する抵抗の抵抗値、マイクロコンピュータの電圧、トランジスタの電圧を測定し、その測定平均値をカタログ値と比較した結果、カタログ値からの相対的なズレがトランジスタと抵抗で大きく、これで誤差を説明できることがわかりました。
次にリレーを流れる電流の設計値と測定平均値の相対誤差+1.46%の原因を探りました。そこで回路を構成する12V電源の電圧、リレーの抵抗値、トランジスタの電圧を測定し、その測定平均値をカタログ値と比較しました。結果、カタログ値からの相対的なズレが12V 電源とリレーで大きく、これで誤差を説明できることがわかりました。
最後に、全体の測定を通して得られた電流電圧グラフに不安定な箇所が存在した原因を探りました。まず不安定な箇所に再現性があるか確認するため、実験を5回繰り返したところ、どの実験においてもグラフの角が欠けるような箇所が見られました。
そこで今度はマイコンやリレーに頼らず、手作業でスイッチをon/offにして測定を行ったところ、手作業でもこのような箇所が生じることが判明しました。したがって不安定な箇所が生まれる原因は自動制御システムではなく、シリコン型太陽電池の特性からきていることがわかりました。
したがって上記の実験と追実験によって、リレーとマイクロコンピュータを使用することで、太陽電池の電流・電圧測定を自動化するシステムを構築し、正常に作動させることができると結論づけました。今後は、リレーの数を倍に増やし、さらに詳細に測定ができるようにしたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
同じ班の現2年生と、昨年の春に物理と現代の社会問題に関わりのあるものをブレインストーミングで考えた結果、太陽光発電にたどり着きました。その時、私は測定の効率を上げる方法、2年生はペロブスカイト太陽電池についてと、分かれて研究を進めていくことになりました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
昨年の春に決め、11月の県大会に向けてと、12月から4月まで行いました。その後は、スライド作成、発表練習を行いました。月曜から金曜の週5日(休日、祝日を除く)の放課後に6時または6時30分まで2時間ほど活動を行っていました。
■今回の研究で苦労したことは?
12月から行った、相対誤差の原因を探す作業です。原因と考えられる場所×スイッチ6個分なので、多かったです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
システムの作成を行うために、必要となるリレーやトランジスタなどを準備し、はんだづけを行い、一から作製したところです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「Arduino ビギナーのためのモーター・リレー・ブザー制御入門」
https://www.elekit.co.jp/product/docs/addpage_file160.pdf (2016年9月参照)
・「太陽電池の出力特性と評価」
http://eko.co.jp/solar/sol_apps/0304.html (2016年8月参照)
・「たのしい電子工作 Arduino電子工作をはじめよう」高橋隆雄(秀和システム)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
続けるかどうかはわかりませんが、リレーを増やし、測定条件を倍にしたいとは思っています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
SSH探求部には物理班の他に、生物班、情報班があります。物理班は2年生がペロブスカイト太陽電池の研究を進めています。
■総文祭に参加して
発表はやはり緊張しましたが、1か月ほど練習をしてきたおかげで、12分以内に発表を収め、よい発表ができたと思っています。しかし、質疑応答では、うまく答えることができなかったため、もし、また発表をする機会があるならば、今回のようにならないためにも、質疑応答の練習をもっと行いたいと考えています。
◆みやぎ総文2017の他の発表をみる <みやぎ総文2017のページへ>