(2017年8月取材)
■部員数 17人(1年生7人・2年生3人・3年生7人)
■答えてくれた人 鈴木拓久くん、伊井誠之介くん(3年)
ガウス加速器で運動量とエネルギーの保存則は成り立っているのか?
私たちはガウス加速器の実験を見て、鋼球が猛スピードではじき出される様子を不思議に思い、その性質について「物理チャレンジ2006」の問題をもとに実験しました。まず、ガウス加速器の動画をご覧ください。
鋼球3つに対して、画面左側から別の鋼球を衝突させた場合、入射した鋼球と、射出した鋼球はほぼ同じ速度です。射出球は、画面右側の木片を倒すほどの勢いはありません。ここで左端の鋼球をネオジウム磁石球に変えて同じく鋼球を衝突させると、射出した鋼球は勢いよく飛び出し、木片を倒します。このような入射球に対する射出球の加速実験をガウス加速器と呼びます。
衝突時に何が起こっているのか調べるために、スロー映像も撮影しました。入射球側のスロー映像を見ると、回転運動で入射した後、並進運動で後退していることがわかります。次に射出球側のスロー映像を見ると、並進運動で射出した後、ある地点から回転運動も加わっていることがわかります。
このような運動に対して、運動量とエネルギーの保存則は成り立っているのか疑問に思い、以下の3つの実験を行いました。
入射球・射出球・3個球の運動量はどうなっているか
まず、運動量の保存についての実験です。各球の衝突前後の速度を計測しました。図のようなビースピ(赤外線センサを使った速度測定器)、鋼球、磁石球を設置し、さらに入射球の速度も測定するためにビースピを左端にもう一つ加えて実験しました。
この時ビースピが測定する値は左から入射球の速度、射出球の速度、少し後の射出球の速度となります。射出球の衝突直後の速度は、ビースピ2か所間の加速度が一定とすると、その減速率から逆算できます。したがって、衝突直前と直後の入射球・射出球の運動量を求めることができます。
またこの実験で、射出された鋼球を除いた入射球を含む3個球は衝突後、一体となって滑った後に止まりました。衝突後の3個球には摩擦力しか働いていないとすると、その初速度は動摩擦係数と静止するまでの距離から逆算できます。
そこで、3個球の動摩擦係数を測定する実験を行いました。図のようにレールとビースピ2つを斜面に設置し、3個球を滑らせます。3個球は斜面を滑り降りるときに位置エネルギーを運動エネルギーに変換して加速するので、2つのビースピ間で速度の差が生じます。しかし、失われた位置エネルギーよりも得られる運動エネルギーは少なく、その差が動摩擦力のする仕事によるものです。ここから動摩擦係数が計算できるので、3個球の衝突直後の速度が求められました。
ここで先ほどの2つの実験によって衝突直前の入射球の速度、衝突直後の射出球と3個球の速度が求められ、下図のようにそれぞれの運動量が求められました。
したがって、衝突前後の運動量の総和は、多少の誤差を除いて運動量は保存されていると結論付けました。
射出球と3個球の運動エネルギーを調べる
ここからはエネルギーの保存についての実験です。上記2つの実験結果をもとに、射出球と3個球の運動エネルギーの合計を計算しました。
また、磁力によるエネルギーについて実験しました。ここでガウス加速器の仕組みについてもう一度着目します。
入射球が3個球に衝突し、その運動エネルギーが散逸せずに射出球に伝わるとします。衝突前に入射球は磁力に引き付けられつつ衝突し、衝突後に射出球は磁力に逆らって飛び出しますが、入射球は磁石に接するまで近づくのに対して、射出球は磁石から鋼球1個分離れた状態から飛び出します。したがって、入射球が受ける磁力がした仕事より射出球が受ける磁力がした仕事のほうが弱く、この仕事量の差が運動エネルギーとなって射出球の加速につながっています。
磁石の仕事量は?
そこで磁石球と鋼球が直接つながっている場合と、鋼球が1つ間にある場合で距離別に磁力の測定を行い、磁石がする仕事量の差を求めました。
ここでバネばかりを使って鋼球を引き離し、鋼球が離れた時の値を記録しようとしましたが、瞬間の値を記録するのは困難だったので、写真のように滑車とおもりを使って実験しました。
結果、磁石からの距離による磁力のグラフは下図のようになり、磁石から鋼球を開放するための仕事の総量(磁石の位置エネルギー)を、グラフの面積から求めました。面積はグラフを厚紙に写し、その重さを測定することで求めました。
他に消費されたエネルギーはどうなったか
さらに他に消費されたエネルギーとして、入射球の回転エネルギーと、3個球に摩擦力がした仕事を下図にある公式によって求めました。
これらのエネルギーをすべて考慮すると、表のように衝突前と衝突後のエネルギーの総量が求められました。
これからわかるように、衝突前と衝突後のエネルギーにズレが生じていました。まず磁力を測定した際に、おもりを使用したため、正確に磁石による位置エネルギーを測定できなかったことが原因であると考えました。水や砂を使ってより細かく測定すれば、正確な値が求まると考えます。また、入射球の衝突によってエネルギーが失われたため、そもそもエネルギーが保存していないことも考えられます。
磁性の向き変えたらどうなるか
この3つの実験から、衝突前後の4つの球の運動量は保存されていることが確認できました。また磁力による位置エネルギーが運動エネルギーに変換されることで鋼球が加速されていると考えました。磁気におけるクーロンの法則によると、2つの磁石間に働く力は磁極間の距離の二乗に反比例します。そこで入射球は衝突直前に磁力による位置エネルギーが運動エネルギーに転化され、速さが最大限に増し、衝突後に運動量保存の法則によって、射出球はより速い速度で飛び出すのだと結論付けました。
またこれらの実験の際、ネオジウム磁石はいつも同じ場所に傷跡があることに気づきました。このことから磁石球にもN、Sの磁性があることが分かります。では磁性の向きを変えて衝突させるとどうなるのか疑問に思い、角型ネオジウム磁石を用いて発展実験を行いました。
まずはネオジウム磁石球と同じ磁性の向きに角型ネオジウム磁石を設置し、実験すると、磁石球の場合と同じように射出球は勢いよく飛び出しました。
次に角型ネオジウム磁石の磁性を入射する方向と90°回転して設置して実験したところ、鋼球は射出されませんでした。この磁石の配置では図のように斥力と引力が同時に働くため、磁力による位置エネルギーが弱く、鋼球の射出する力が磁石の引力を超えなかったためと考えました。
また角型ネオジウム磁石の実験についても運動量を計算したところ、このデータを見る限りでは保存されていませんでした。
今後の展望として、なぜ角型ネオジウム磁石では運動量が保存されていなかったのか、また磁石を固定した場合の射出球の速さについて調べられればと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
富山科学オリンピック物理部門の出場にあたり、「物理チャレンジ2006」の過去問をやったところ、ガウス加速器が出ていたのに興味を持ちました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
週2回、毎回2時間で1年程度です。
■今回の研究で苦労したことは?
実験の動画を撮影することです。カメラアングルなどの見せ方に苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
動画で実際に射出した鋼球を見せたところです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
物理オリンピック日本委員会「物理チャレンジ2006 実験問題」
■今回の研究は今後も続けていきますか?
僕たちは3年生で、もう卒業なので続けることはありません。将来は、高性能なコンピュータや高価な機械を使用した研究を行ってみたいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
主に化学の教科書に載っていても授業でやらないような実験を行っています。時には、物理や生物の実験も行います。
■総文祭に参加して
全国のレベルの高さを知り、後輩たちには、賞をとれるようなすばらしい研究をがんばってもらいたいと思いました。
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