(2017年8月取材)
■部員数 15人(1年生7人・2年生8人)
朝の改札口はなぜ混雑するの?という疑問
私たちは毎日電車で通学しています。しかし、最寄り駅は毎朝混雑していて、早く駅から出ることができません。そこで、大勢の人たちが一つの出口から早く出終わるためにはどうすればよいかということに関心を持ち、研究を始めました。
まず仮説として、人が早く出られないのは出口付近に人が集中し、ぶつかり合ってしまうからだと考えました。
したがって、出口までの人の流れを分けるような壁を設置すれば衝突が減り、全員が早く出られるのではないかと考えました。
さらに、この壁は出口に近すぎると出口付近で人を詰まらせてしまい、出口から離れすぎると分けた流れがもとに戻ってしまうため、その間のどこかに効果を一番発揮する設置位置があると仮説を立てました。
ビー玉を人に見立てたモデル実験の実施
本研究は、この二つの仮説を検証するために、ビー玉を使ったモデル実験を行いました。
ビー玉の直径を人の肩幅に見立て、対象となる現象をモデル化しました。このためスケールは1/30となり、1/30スケールの前橋駅の模型を作成しました。
さらに今回の仮説を検証するための「壁」を長さ200㎜で作成しました。
また、後の実験で使用する「出口の角度」、「出口から壁までの距離」を図のように定義しました。
模型に5°の傾斜をつけ、重力によってビー玉が出口に向かうようにしました。
この時、出口から700㎜の位置にビー玉150個をせき止める板を立て、板を取り除いてから最後のビー玉が出口を通り抜けるまでの時間を計測しました。一つの実験につき、30回計測しました。
これが実際にビー玉を流した映像です。
最初の実験は、壁の有無と、出口から壁までの距離による計測時間の違いを調べました。
結果です。
出口から壁までの距離が300~500㎜の時には、壁がある方が平均時間が小さくなりました。
しかし、100㎜~200㎜の間では、壁がない方が平均時間は小さくなりました。
また、度数分布表から、壁がある場合の出口から壁までの距離とかかった時間について-0.532と負の相関が確認されました。さらにこの表から、壁を設置するとデータのばらつきが大きくなり、早く出られるときと出られないときがあるのがわかります。
しかし、この実験では、出口付近の角でビー玉が密集してしまったり、跳ねてしまったりと、人間らしくない動き方をしていました。
このモデルをより現実の現象に近づけるために、出口の角度を先ほどまでの135°から165°へと変更し、人間らしい動きをするように工夫しました。
この角度で先ほどと同じ実験をもう一度行いました。下が実験時の動画です。
適切な距離に壁を作ることは効果があった
結果です。
壁と出口の距離が300㎜の場合に平均計測時間が一番小さく、壁がない場合はもちろん、それより出口との距離が近くても遠くても計測時間は大きくなりました。
したがって、最初に立てた壁を設置して流れを分ける方が出るまでにかかる時間が減り、また出口から近すぎず遠すぎないところに最も効果を発揮する壁の位置がある、という二つの仮説は正しいと結論付けました。
さらに条件を加えた実験に挑戦
まず、ビー玉の数が計測時間へどのように影響するか調べるため、先ほどのビー玉150個の1/2倍の75個と、2倍の300個で実験しました。
また、壁の出口からの位置は300㎜で固定し、壁がある場合とない場合についてそれぞれ計測しました。
結果です。
300個の場合は150個の場合と同様に、壁を設置することにより平均計測時間が小さくなりました。
いっぽう、75個の場合は逆に壁がない方が小さくなりました。したがって、先ほどの結論は十分に混雑していないと成り立たないことがわかりました。
さらに、最初にビー玉をせき止める位置を変えて実験を行いました。
先ほどまでは出口から700㎜の位置でビー玉をせき止めてから流していましたが、これを100㎜から800㎜まで100㎜ずつ、それぞれについて計測しました。
結果です。
600㎜以上せき止める位置が出口から離れている場合に、壁は効果を発揮しました。
それ以下の場合ではあまり差はありませんでした。
さらに結果を度数分布表で表すと、壁がある場合の距離と時間の相関係数は-0.411となり、弱い負の相関が認められました。
次に、壁の長さを変えて実験を行いました。
これまでの壁の長さは200㎜で、実際のスケールに換算すると6mというとても長い壁となります。
したがって、もっと短い壁でも効果があるのか調べるため、200㎜、100㎜、50㎜の壁で実験しました。
結果、壁の長さにかかわらず、壁がない場合と比べて計測時間が小さくなりました。また相関係数は-0.39392となりました。
ここで先ほどまでの実験結果に統計処理を施し、統計的に有意な差があるか調べました。
この方法で、エクセル関数を使用して求めました。
結果です。
全ての実験結果において平均値間に差はないと仮定した場合の確率が5%を大幅に切り、これらの実験において壁がある場合とない場合の平均計測時間に有意な差があることが認められました。
なぜ壁が混雑緩和に有効なのか?
また、ビー玉が流れる距離を変えた実験から、壁がどのようにビー玉が出口から出る時間を小さくするかについて新しい仮説を立てました。
壁を設置することによってビー玉が壁にあたり、散らばります。これによってビー玉間の速度に差が付き、一度に出口付近に集まるビー玉の数を減らせるために出口付近で詰まることを予防し、時間短縮になると考えました。
この仮説を検証するために、先ほどの実験の動画の各時間における出口付近に集まるビー玉の数を、壁が有る場合のない場合について数えました。「出口付近」は図の黄色部分の範囲として定義します。
結果、壁の効果が見られた600~800㎜と他の場合を比べて、ビー玉が出口付近に集中する時間が散らばっているという証拠は得られませんでした。
しかし、この実験では出口付近で詰まっているビー玉と流れているビー玉を同じように計測しているため、正しく検証できなかった可能性があります。
そのため、今後はスローモーション映像を使って一定時間内にこの範囲に入るビー玉の数を計測するなど、違う方法で時間的な散らばり具合を計測したいと思います。
これまでの実験から、ビー玉の数が多いとき、すべてのビー玉が出口から早く出るためには、壁の設置が効果的だと結論付けました。
また、壁を設置する位置はある程度出口から話した方が効果的であり、この壁は短くても効果を発揮すると結論付けました。
今後は、このモデルを使ってさらに現象を解明するとともに、実際に人間で実験したいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
電車通学をする際、駅から出るときに混んでいて出づらくて困っていました。そこで、混雑時に出口から早く出るにはどうしたらいいかという疑問を持ち、今回の研究に至りました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日2時間で1週間に3日を約1年間続けています。
■今回の研究で苦労したことは?
より正確な数値で考察するために何回も計測することが大変でした。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
人間の動きをビー玉によって単純化したことです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「とんでもなく役に立つ数学」西成活裕(角川ソフィア文庫)
・「身体測定・体力測定」 成人身長 http://www.h-nc.com/cat31/
・「できるやさしく学ぶExcel統計入門 難しいことはパソコンにまかせて仕事で役立つデータ分析ができる本」羽山博(インプレス)
・「実験計画と分散分析のはなし【改訂版】」大村平(日科技連出版社)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今後はビー玉一つひとつの動きを調べて、さらに実験内容を深めていきたいと思います。
■ふだんの活動では何をしていますか?
たいていはそれぞれ自分の研究を行っていて、文化祭のときなどは簡単な体験実験などを行っています。
■総文祭に参加して
他校の優れた研究発表を見ることで大いに刺激を受けることができました。今回学んだことを今後の研究に活かしたいと思っています。
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