【ポスター/化学】宮城県仙台第三高校 自然科学部化学班
(2017年8月取材)
■部員数 17人(1年生6人・2年生9人・3年生2人)
銅本来の色の銅樹の生成にはビタミンC水溶液が必要
私は、資料集で金属樹を眺めていて、他の金属樹はきちんと光沢を持っているのに対して、銅だけは黒ずみ、光沢を失っていることが気になりました。
そこで、まず銅本来の色・光沢を持つ銅樹を作成しようとしました。そして、ビタミンC水溶液を添加することで、錆びていない赤金銅樹を作成することに成功しました。
ここで、100枚以上の銅樹を作成したところ、偶然、通常とは形の異なる銅樹があるのを発見しました。通常の銅樹は樹枝状ですが、この銅樹は直線状で、光をよく反射します。
そこで、
1.この形の異なる銅樹はどんなものなのか
2.どのような条件下でできるのか
3.どのような原理で生成されるのか
の三つの観点について調べることにしました。
「結晶が成長するスピード=銅イオンが供給されるスピード」の時、異方性銅樹ができる
まず、形の異なる銅樹はどんなものなのか、解明を試みました。文献からよく似たものを発見し、コンピュータシミュレーションのデータを確かめると、粒子の運動に対する制限の有無によって銅樹の形が変わることがわかりました。この状況を「異方性(=物理的な性質が方向によって異なること)が働いている」と言います。そこで、この異方性が働いている銅樹を「異方性銅樹」と命名しました。
電子顕微鏡を用いて表面の状態を調べると、通常の銅樹に比べて平らで滑らかであり、よく光を反射するため光沢を持つことがわかりました。さらに調べたところ、結晶が成長するスピードと銅イオンが供給されるスピードが釣り合っている時に、異方性銅樹ができることがわかりました。そこで、具体的にどのような生成条件であれば再現できるかを調べました。
ガラスろ紙とビタミンCで、異方性銅樹はなぜできるのか
下図のように、ビタミンCの濃度・添加量とろ紙の種類の組み合わせを変えて実験してみました。すると、27%の飽和水溶液を0.5ml加え、ガラスろ紙を使用した時に異方性銅樹が再現できる、つまり結晶の成長スピードと銅イオンの供給スピードが釣り合うことがわかりました。
続いて、生成原理を解明するために、生成のポイントとなる、ガラスろ紙とビタミンCについて調べました。なぜガラスろ紙でできるかを調べるため、定性ろ紙とガラスろ紙を電子顕微鏡で見比べたところ、ガラスろ紙は緻密な構造を持っていることが確認でき、それが異方性銅樹の生成に必要であることがわかりました。
続いて、ビタミンCの添加量について調べました。
塩化銅(II)水溶液にビタミンCを加えていくと、写真のように緑色→茶色→白色沈殿と変色します。それぞれで銅樹を生成させたところ、異方性の銅樹は茶色の溶液でしかできないことがわかりました。この茶色の溶液では、銅イオンがビタミンCの成分であるアスコルビン酸と錯イオンを形成していることがわかっています。
ここまでの実験から、異方性銅樹は粒子の運動が制限されて生成されること、そして、ガラスろ紙を使用し、銅イオンとビタミンCが錯イオンを形成している時に異方性が働くことがわかりました。
これらのことから、異方性銅樹は、ガラスろ紙の緻密な立体構造と、銅イオンとビタミンCによる錯イオンの立体構造によって粒子の運動に制限がかかることによってできたのではないかと考えました。今後は、他の金属樹でもどのように異方性が働き、形状が変化するのか、試してみたいと思います。
■今回発表した研究を始めた理由や経緯は?
元々、中学生の夏休みの研究で電気分解について研究し、そのきっかけで目に見えないイオンの動きというものにとても興味が湧きました。そのことを顧問の先生に相談したら、金属樹の中の銀樹というものをみせて見せていただき、その時の金属樹の美しさに感動してテーマを金属樹にしました。
具体的なテーマ設定は金属樹を試しに作りながら考えていくことにしたので、明確に決まるまでには時間がかかりました。
■今回の研究にかかった時間は?
高校1年生の春から高校2年の終わりまでです。平日は放課後の5時~7時までで、休日は土日のどちらか活動していました。学会がある時など忙しい時は両方でした。
■苦労した点は?
なかなか研究テーマが決まらなかったことと、最初の頃は思うような成果が出なかったことです。
また、実験しているのは好きなのですが、元々文章を書くことが苦手だったので、それをまとめて論文を書いたり、ポスターを作成したりする時には苦労しました。そしてポスター発表と質問の受け応えにもとても苦労しました。要点がわかるように、何が言いたいのか伝わるように人に話すことと、相手がどういう意図でその質問をしているのか知るのがなかなか難しいです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
私が作製した銅樹を観てほしいです。できれば実物を見てみてほしいですが、機会がないと思うのでカラー写真などがあれば、普通の銅樹と比べて少しじっくり見てみてほしいです。本当に苦労してできた、本当にきれいなものだと私は思っていて、私の誇りでもあります。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「銅箔の色調変化の研究」門口尚広 (宮城県仙台第三高等学校;2015年)
・「銅(I)水酸化物と光沢銅樹の生成~その銅樹, ちゃんと光ってますか!~」大村啓貴、針生崇史 (宮城県仙台第二高等学校;2012年)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
続けるとしたら、今回発見したきれいな銅樹を作れる方法で他の金属樹を作製してみたいです。金属光沢が増すのか、それとも別の形の銅樹が得られるのか、どのように成長するのか気になります。
■ふだんの活動は?
わくわくサイエンスという、子供相手に実験教室をしたり工作を一緒にしたりという活動に参加します。他にも化学グランプリなど化学の技能を競う大会にも参加します。
■今回の総文祭に出場した感想
研究をしている生徒が集まる場で発表できて、とてもわくわくして楽しい思い出になりました。自分の研究に熱心で科学に興味がある、多くの人と交流できて嬉しかったです。あとは後輩が来年出場できていい経験ができるよう頑張ってほしいです。
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