【ポスター/化学】千葉県立船橋高校 自然科学部化学班
(2017年8月取材)
■部員数 27人(1年生7人・2年生11人・3年生9人)
光触媒の活性度を向上させることはできないか?
光触媒をご存知でしょうか。光をあてることで酸化還元反応を起こし、有機物を分解するものです。医療分野で殺菌のために使われたり、建築分野で曇らないガラスの作成に使われたりしている技術です。
光触媒は、紫外線が当たると電子を放出して正に帯電します。そこで安定な元の状態に戻ろうとして、有機物から電子を奪います。この時に、有機物が分解されるという仕組みです。
私達は、初めは光触媒の代表的な物質である酸化チタン(TiO2)で、光触媒作用を利用した色素の分解や物質の合成などを行っていましたが、先輩が行っていた、可視光に応答するTiO2を作る研究を受け継ぎ、鉄を「担持」したTiO2を作成することにしました。すると、より強い紫外線である254nmの波長の光で、従来のTiO2とは異なる光触媒活性が見られました。そこで、この光触媒活性の変化を調べることにしました。
はじめにTiO2の作成方法を説明します。
図のような物質を混ぜ合わせ、攪拌して沸騰させると、鉄を「担持」したTi(OH)4ができます。これを加熱・濾過・焼成することで鉄を担持したTiO2ができます。「鉄を担持する」というのは、酸化チタンの構造の中に鉄が入っている状況のことを言います。
加えた塩化鉄(Ⅲ)溶液の濃度(mol/L)によって種別を表記することにします。例えば、濃度が1mol/LのTiO2は1mol、加えていないものは0molとします。
光触媒としての有用性を測るために、有機物(ここではメチレンブルー)がどれだけ分解されたかという分解率を調べました。
分解率は、「紫外線を照射した後のメチレンブルー溶液の吸光度の減少率」を利用して求めました。吸光度とは、その物質が吸収しやすい波長の光を当てて、その光がどれくらい吸収されるのかを示す値です。吸光度を測定することによって濃度を求めることができます(濃度が大きいほど吸光度は大きい)。物質が分解されればされるほど光は吸収されず、通過して検出されます(吸光度が小さくなります)。つまり、紫外線を照射した後の吸光度の減少率が大きいほど、メチレンブルーの分解率が大きいことになります。
鉄を加えることで低温焼成で活性の高い酸化チタンを作製できるようになる
まず、TiO2の焼成温度を変えて、合計40種類の条件で有機物の分解率を求めました。TiO2は、鉄を担持していない0molと担持した1mol、光は254nmと365nmの波長の光とLED、焼成温度は300~700℃で100℃刻みで設定しました。結果はグラフの通りです。
254nm(グラフの赤い点)で特に顕著ですが、0molでは高温で分解率が高くよく働いている一方で、1molでは低温でよく働いていることがわかりました。
通常のTiO2は、焼成温度が高い方が活性度が高いと言われますが、鉄を担持したTiO2は普通のTiO2の光触媒とは違った過程で分解されていると考えられます。そこで、さらに実験を進めました。
今度は、鉄を担持する量を0.2mol刻みで変えることで、どこで変化が起こるかを調べました。結果が下の図です。
0molと0.2molの間に大きな差があり、0.2mol、0.4molは特異な形をしていて、0.6mol以上では概ね同じ形であることがわかると思います。
以上から、少しでも鉄を加えると反応過程が変わり、0.2mol~0.6molの過渡的な状態を経て、0.6mol以上では0molの時とは完全に異なった反応過程で有機物を分解するのではないかと考えられます。
この実験の追加実験として、活性が高くなっている(=分解率が高い)0mol 700℃焼成と、1mol 300℃焼成を比較しました。前の実験では、どの条件でもメチレンブルーが分解されきってしまい差が出なかったので、濃度を上げて再度実験しました。結果が以下の通りです。
鉄を担持させたTiO2は、鉄を担持しないTiO2よりも高い触媒活性を、より低い温度で達成したということがわかります。
さらに光触媒の分解能力も向上する?!
次に、鉄を担持した低温焼成による光触媒(1mol 300℃)と、鉄を担持しない高温焼成(0mol 700℃)による光触媒の機能を、有機物の種類を変えて、紫外線波長254nmと365nmで比較しました。
結果は以下の通りです。
メチルオレンジでは、365nm と254nmのいずれも1mol 300℃の方が分解率が高くなりました。1mol 300℃における254nmと365nmの分解率の差は、0mol 700℃のそれよりも大きかったので、鉄を担持することで、254nmでメチルオレンジを分解する能力が向上したと考えられます。
ローダミンでは、どちらのTiO2でも高い分解率が見られましたが、1mol 300℃と0mol 700℃で明確な差はみられませんでした。これは、分解率が高すぎるためであると考えられます。
そこで、ローダミンの濃度をさらに高くして行った実験の結果です。濃度を上げると、鉄を担持したTiO2が、254nmで分解率が高くなることが確認されました。
以上の実験を通じて、鉄を担持させることによって、より低い焼成温度でより高い触媒活性を持つTiO2を作成することができました。特に、濃度の高いローダミンで顕著であったように、色素によっては担持させるか否かで分解率が大きく変わるものもあり、有機物の種類によっては、鉄を担持したTiO2の方が通常のTiO2よりも効率的に有機物を分解できる性質を持つのではないかと考えられます。
■研究を始めた理由・経緯は?
きっかけは、1年次に参加したSSHの課題研究入門講座で、「酸化チタンの光触媒作用」をテーマに選んだことです。初めは酸化チタンで、光触媒作用を利用した色素の分解や物質の合成などを行っていましたが、その後、理数科の1学年上の先輩が、部活ではなく授業の課題研究で「金属イオンを担持させた可視光応答型の酸化チタン」を作成する研究を行っているのを見て、2年次になってから、自分達も同じテーマにチャレンジすることにしました。
いろいろと試行錯誤していくうちに、自分達が合成・焼成した「鉄化合物を担持させた酸化チタン」が紫外線に対して特異な応答を示す傾向が見られたので、可視光応答型の酸化チタンを目指すのではなく、紫外線に対する応答性を詳しく調べることにしました。その研究結果が、今回発表したものです。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1年次8月~2年次9月は1週間の内の2~3日、1日当たり2~3時間。2年次10月~3年次7月は平日はほぼ毎日、1日当たり3~4時間。休日も不定期ですが研究に取り組みました。
■今回の研究で苦労したことは?
実験の回数が非常に多くて大変でした。また、鉄化合物を担持した酸化チタンを作成するのに、1回ごとにとても時間がかかりました。さらに、時折焼成した酸化チタンの出来が悪く、変な結果が出ることがありました。その際、再現性が確認できるまで繰り返し実験をする必要があったのも苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
最近の研究動向として、酸化チタンに金属化合物を導入する場合、通常は可視光応答型の酸化チタン(太陽光の多くを利用できる酸化チタン)の合成を目指してのことが多いようです。しかし自分達は、紫外線に対する応答に目を付け、それを詳しく調べました。その際、地上に到達する太陽光に含まれる365nmだけでなく、地上に到達しない254nmの紫外線に対する応答も調べました。これは自分達の独自の視点だと考えています。
自分達が考えた製法で鉄化合物を担持させた酸化チタンを作成すると、焼成温度が低い場合に光触媒活性の高い酸化チタンが得られました。これは、通常の酸化チタンとは異なる反応過程で有機物を分解している可能性もあります。鉄化合物担持無しの酸化チタンと比較して、鉄化合物担持有りの酸化チタンの方が分解しやすい色素(有機化合物)がありました。これは、応用の可能性があると思います。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「光触媒のしくみ」藤嶋昭 他(日本実業出版社)
・「入門光触媒」野坂芳雄、野坂篤子 (東京図書)
千葉大学工学部の無機固体化学専門の先生に研究内容を見ていただき、アドバイスをいただきました。
■今回の研究は今後も続けていきますか?
3年生なので、この研究は続けませんが、後輩に託したいと思います。
■ふだんの活動では何をしていますか?
文化祭における演示実験やSSHの行事等での実験工作展をしています。その他に年2回の部誌の発行、SSH関連の科学講座などへの参加もしています。
■総文祭に参加して
研究発表や全国の高校生との交流など、とても楽しかったです。研究発表も含めて、総文祭の様々な行事から多くを学ぶことができました。他校の研究を聞いて、レベルの高い研究が多いと感じました。ハードスケジュールでしたが、やりがいのある充実した3日間でした。
※船橋高校の発表は、ポスター部門の文化庁長官賞を受賞しました。
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