みやぎ総文2017 自然科学部門

プール清掃時に保護した水生昆虫の観察から飛翔のメカニズムを発見!

【ポスター/生物】熊本県立東稜高校 生物部

(2017年8月取材)

左から 森山海路くん(3年)、辻優人くん(3年)、稲田一葉くん(2年)、本田瀬名くん(2年)
左から 森山海路くん(3年)、辻優人くん(3年)、稲田一葉くん(2年)、本田瀬名くん(2年)

■部員数 21人(1年生7人・2年生8人・3年生6人)

■答えてくれた人 本田瀬名くん(2年)

 

水生昆虫の飛翔前体温上昇行動

学校のプールに住んでいるような水中昆虫は、水中と空中という全く異なる環境で生活しています。しかし、水中昆虫が水中から空中という別の環境へ移る際、つまり、飛翔する際のメカニズムは明らかになっていません。陸上で生活する昆虫では、ミツバチや一部のガの仲間が体温を上昇させていることはよく知られています。しかし、水生昆虫においては、タガメ等において飛翔前に甲羅干しをして体温を上げているように見える等の報告はありますが、実際に体温を測定した報告はありません。

 

そこで、私たちは、水中昆虫も飛翔前に体温を調整しているのかを調査し、水中昆虫が水中から空中へ移動する際の行動を解明することにしました。

 

水中昆虫の飛翔のパターンを再現する

研究では、身近な場所で採取した5種類の水中昆虫の飛翔前の体温変化について調べることにしました。

 

体温変化は、昆虫の背面側からサーモグラフィーカメラによって測定しました。

 

 

測定を可能にするために、あらかじめカメラをセットした水槽で水生昆虫の飛翔を再現することが必要になりました。比較するため、一定の気温条件で、無風で直射日光が当たらず、人の手が直接触れない環境で実験を行いました。

 

飛翔パターンは、飛翔に至る過程によって大きく3つに分けることができます。

 

一つ目が「登り飛翔」です。これは、水面から突き出た茎を登って飛び立つパターンで、水を張った水槽に割りばしを立てることで再現しました。

 

二つ目は「上陸飛翔」です。これは、岸に這い上がってから飛び立つパターンで、水中からすくい上げた昆虫をバットに敷いたコルクボードの上に置くことで再現しました。

 

三つ目は「水面飛翔」です。これは上陸なしで水面から直接飛び立つパターンで、水を張ったバットから飛び立たせることで再現しました。

三つの再現実験の中で、登り飛翔では昆虫がわずかな振動で水中に落ちてしまって測定ができなかったので、上陸飛翔と直接飛翔の場合のみ測定を行いました。

 

まずは乾燥、それから体温上昇

上陸飛翔の測定から、通常、上陸するとまず体を乾燥させていることがわかりました。その後、陸上昆虫と同じく、飛翔に向けて体温が上昇していました。体温が上昇している際には、体が振動している様子が目で確認できたとともに、ほとんどの場合、振動音が聞こえました。これは、内部飛翔筋という胸部の筋肉を収縮させている音だと考えられます。

体が乾燥してから体温が上昇する理由は、乾燥する際に汗が蒸発するときと同じように気化熱によって熱が奪われるためだと考えています。また、体温上昇時の振動音は陸上昆虫では確認できず、水中昆虫のみにおいて確認されました。そこから、棲む環境によって昆虫の体の構造に違いがあるのではないかと推測しています。

 

水面飛翔の測定においても、飛翔前の体温上昇を確認することができました。

体温上昇は飛翔のための準備運動

上陸飛翔の測定の結果からは、体が大きい個体ほど飛翔前の体温上昇が大きいという面白い現象が見つかりました。

 

比較的体が小さいハイイロゲンゴロウとマツモムシは、体が大きいクロゲンゴロウと比べて飛翔前の温度上昇が大きくなっていました。これは、体が大きいほど、飛翔に必要となるエネルギーも大きくなり、その準備である体温上昇も大きくなっているからだと考えられます。また、体が小さい種の方が、飛翔頻度が高いこともわかりました。体をうまく乾燥させられないため体温を上げにくい水面飛翔でも、体の小さいハイイロゲンゴロウが飛翔できる理由も、飛翔に必要なエネルギーが小さいからかもしれません。

 

 

さらに、体の大きさだけでなく雌雄の違いについても考えました。

コガタノゲンゴロウは雌雄の差はほぼ見られませんでしたが、ハイイロゲンゴロウは雌の方が体温が高くなっていました。雌雄の体の大きさはほぼ同じです。ただし、雌の方が多く飛翔しているため、体温の違いは飛翔しやすさに由来していると考えています。そもそも飛翔のしやすさに違いがあるのは、雌雄で生活スタイルが異なるからではないかと予測しています。

 

今後はよりよいデータを収集し、精度を高めたい

本研究では、測定の難しさからデータ数が少なめであるという問題がありました。そのため、今後はさらにデータ数を増やしていきたいと思います。特に今回、登り飛翔では昆虫が飛翔に至らなかったため、測定ができませんでした。登り飛翔を観察するためには、昆虫が警戒しないような環境を一層整える必要があります。また、今回は陸上昆虫と水中昆虫の体温そのものを比較することが困難でした。その理由は、陸上昆虫は腹側から体温を測定したのに対し、水中昆虫は殻の厚い背側から測定を行ったという違いがあったからです。そのため、今後は水中昆虫も腹側から体温測定を行えるように工夫していきたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

2016年4月に水泳部がプール清掃作業をしたとき、私たち生物部は排水路に流される水生昆虫を保護しました。そのとき、飛んで逃げる水生昆虫がおり、体温を赤外線放射温度計で簡易測定したところ体温上昇を確認しました。これがきっかけとなり、水生昆虫の飛翔前体温調節についての研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2016年4月に実験を開始しましたが、熊本地震のため、実際の研究がスタートしたのは6月です。6~9月の4か月が研究期間で、1週間あたり18時間程度実施しました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

水生昆虫に、実験室の中でできるだけ自然な状態で飛翔行動をさせることを心がけて実験しました。しかし、体温測定できる状態で飛翔させることが難しく、いろいろな実験装置を試行錯誤して開発しました。昆虫が測定者を警戒して飛翔しないことも多く、実験者の影響を与えないようにすることも苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

水生昆虫を飛翔させるための飛翔装置を作成しました。水中から突き出した植物の茎に見立てた割り箸を、どの角度で立てたがよいか、様々な角度で試してみて、垂直が一番いいとわかりました。昆虫を移動させるときに、人間の体温が影響しないように茶こしですくい上げて移動させた点も工夫しました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「熱血昆虫記」バーンド・ハインリッチ(2000) どうぶつ社

「福岡県の水生昆虫図鑑」井上大輔・中島敦(2009) 福岡県立北九州高等学校魚部

「改訂版 図説日本のゲンゴロウ」森正人・北山昭(2002) 文一総合出版 

「兵庫県西部と島根県東部におけるコガタノゲンゴロウの記録」大庭伸也ら(2010).きべりはむし,33(1): 14-15.

「飛翔前に体温調節をする甲虫しない甲虫.熊本生物NO.56」東稜高校生物部(2015) :136-137.

 

■今回の研究は今後も続けていきますか? 

 

研究していく中で新たに生まれた疑問もあるので、今後も研究を続けたいです。具体的には、今回の研究では、昆虫の体温を背面から測定しました。しかし、深部体温が現れやすいのは腹面です。そのため、今回のデータはやや正確さに欠けると考えています。そこで、昆虫の体温を腹面から測定して、より正確なデータを得て、水生昆虫の体温調節について明らかにしていきたいと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

自動撮影カメラを使って校内にどんな動物がいるのかを調査したり、プールにいる生き物の調査や、自然豊かな場所に合宿に行って、日頃と違う生き物の採集・観察をしたりしています。

 

■総文祭に参加して

 

入賞はできませんでしたが、審査員の先生、他の学校の生徒さんや大人の人から多くの質問をいただきました。特に、私たちと同じように昆虫を研究対象にしている方々と意見を交わすことで、違う視点からの新しい発見や疑問を得ることができたので、今後の研究活動に活かせそうです。貴重な経験になったと思います。また、他校の、見たことも聞いたこともない興味深い研究を、直接聞くことができました。いろいろな研究に触れることができて、面白かったです。

 

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