【ポスター部門/物理】鹿児島県立曽於高校 科学部
(2017年8月取材)
■部員数 15人(1年生:5人・3年生:10人)
■答えてくれた人 杉本蓮太くん(3年)
2013年の総文祭自然科学部門の鹿児島県立頴娃高校の発表の中で、連結磁石の蛇行運動についての話がありました。それは、3つのネオジウム磁石球を勾配をつけた滑走路上を滑らせると、ある傾斜角以上では蛇行運動をしますが、それ以下では蛇行運動しないというものです。
蛇行運動をする場合は、図のように滑走路から進行方向後方から離れていきます。私たちは、この磁石が離れる順序に疑問を抱きました。
連結磁石の蛇行運動を観察
まず、連結磁石が蛇行運動する様子を観察しました。実験では、連結させた球体ネオジウム磁石と勾配を付けたアルミ製の滑走路を使用しました。傾斜角が30°の際には蛇行運動は見られず、45°と60°の際には蛇行運動が見られました。
連結磁石が進行方向後方から離れ、その後、後方が衝突してから前方が衝突していました。勾配が急になるほど、滑り下りるのにかかる時間は短くなりました。
蛇行運動の要因は磁石の形状や滑走路の素材なのか?
連結磁石が蛇行運動をしている際に、連結磁石が横に転がりながら移動していることが観察されました。
そのため、磁石が球形であることが蛇行運動の要因になっているのではないか、と考えました。そこで、直方体の連結磁石を使用して実験を行いました。すると、球形の磁石の場合と同じく蛇行運動が起きました。そのため、蛇行運動の要因は磁石の形状によるものではないことがわかりました。
蛇行運動に最も影響を与えている部分は何か?
今回の実験に使用した滑走路は輪切りにするとコの字型をしています。この滑走路を磁石が滑り下りる際に、誘導起電力が発生することが蛇行運動の原因であると予想しました。
そこで、滑走路の側面と底面のどちらで発生する誘導起電力がより大きな要因となっているのかを明らかにするための実験を行いました。
実験のために、側面と底面をそれぞれ絶縁体である木材のものに交換して連結磁石を滑らせました。底面を木材に交換した場合には蛇行運動が見られたのに対し、側面を木材にすると蛇行運動が見られなくなりました。ここから、蛇行運動により大きく影響を与えているのは側面であると考えました。
どのような誘導起電力が生まれているのか?
蛇行運動が滑走路の側面に発生する誘導電流によって起こることがわかったので、さらに現象を理解するために、誘導電流がどのタイミングでどんな大きさで発生しているのかを詳しく調べることにしました。
実験1:磁石の片方の磁極が通過するときの誘導起電力は?
まずは現象をシンプルにするために、勾配を小さくして蛇行運動が起こらない状態を作りました。横向きにしてS極が側面から離れないように滑り落ちる際の誘導起電力をオシロスコープで計測しました。
すると、二つの等しい大きさで方向が反対のピークが観測されました。S極が計測地点へと近づくときにS極と反発する方向に誘導起電力が起こり、S極が遠ざかる際にN極と引き合う方向に誘導起電力が起こっていることがわかりました。これは、磁界が変化するとその変化を妨げる向きに力を生み出す向きに誘導起電力が起きる、レンツの法則によって説明することができます。
実験2:磁石の両方の磁極が立て続けに通過するときの誘導起電力は?
次に、連結磁石を蛇行運動が起きない勾配の滑走路で滑らせて誘導起電力を調べました。すると、大きなピークが一つ観測されました。この結果は、N極と反発する方向に実験1よりも大きな誘導起電力が起こっていることを示していました。
連結磁石にはS極とN極があり、S極が観測点を通過していくときと、N極が観測点を通過していくときに、それぞれ実験1と同じように誘導起電力が発生します。
それが重ね合わさることにより、このように誘導起電力が生まれていると考えられます。ただし、S極と反発する向きの誘導起電力が小さすぎて、実験では観測されなかったと考えました。
また、他にわかったこととして、実験1よりも実験2の際の方が、滑り下りる速度は遅くなっていました。ここから、磁界の変化は少なくなり、誘導起電力が小さくなることが予想されますが、実際には大きくなっています。しかしこの矛盾も、二つの磁極によってそれぞれ起こる誘導起電力が重ね合わされて大きくなっていると考えれば、つじつまが合います。
実験3:磁石の両方の磁極が間隔を空けて通過するときの誘導起電力は?
次に、連結磁石の長さを3倍に長くして実験を行うと、下図のように、磁石の個数に関わらず、連結磁石の中心付近で最大の誘導起電力が発生する、という結果が得られました。
これは、S極とN極が通り過ぎるときに生まれる誘導起電力が重ね合わされているという考察を裏付ける結果となりました。
蛇行運動のメカニズム
連結磁石が滑走路を滑り下りる際、進行方向後方に位置している極と反発する向きの大きな誘導起電力が発生します。連結磁石が滑走路を滑り下りる際は、二つの異なる磁極が通過するために、誘導起電力は2度、逆方向に発生します。それらが重なり合うとより大きな誘導起電力となります。このことで蛇行運動が起きるため、必ず進行方向後方から側面を離れることがわかりました。こうして矛盾を解消することができました。
■研究を始めた理由・経緯は?
鹿児島県の研究発表大会で紹介された、連結磁石の蛇行運動の現象解明を行いたいと考えたから。この大会の発表では現象の紹介だけで、現象解明はされていませんでした。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日2時間で6か月程度
■今回の研究で苦労したことは?
はじめに立てた仮説と逆の運動をしたため、少しずつ条件を変えたり、現象解明のために新たに実験を考えたりしなければいけなかったことです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
オシロスコープで電流を測定し、波形を用いて発生した磁極の説明を行った点です。また、高校物理の範囲内で現象解明を達成できた点も注目してください!
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
「導体との相互作用による磁石の運動」 鹿児島県立頴娃高等学校
■ふだんの活動では何をしていますか?
他の部員が「カマキリの体内に寄生するハリガネムシ」「ガウス加速器の揺らぎについて」研究を行っています。
■総文祭に参加して
発表内容がわからない部分もありましたが、全ての学校の研究発表がおもしろく、説明を聞いて驚きや感動ばかりでした。私たちの研究発表について、様々な質問やアドバイスを受けることができ、研究をより深めて生きたいという思いも生まれました。
鹿児島県の代表として総文祭で堂々と発表し、そのことを奨励賞という形で評価していただけたことが非常に嬉しく、私たちを支えてくれた人への恩返しをすることができたと感じています。全国の高校生と過ごした3日間はとても充実した、思い出に残るものでした。
※曽於高校の発表は、ポスター・パネル部門の奨励賞を受賞しました。
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