みやぎ総文2017 自然科学部門

空気マグネシウム電池の改良に挑戦、20倍以上の性能向上に成功!

【ポスター/化学】埼玉県立坂戸高校 科学部

(2017年8月取材)

左から 濵野柊歩くん(2年)、續木諒くん(3年)
左から 濵野柊歩くん(2年)、續木諒くん(3年)

■部員数 22人(1年生8人・2年生7人・3年生7人)

■答えてくれた人 續木諒くん(3年)

 

マグネシウム空気電池の開発と電池性能の研究

エネルギー量は大きいけれど、不安定さが問題…

高校の教材等で取り上げられるマグネシウム空気電池というものがあります。

 

反応機構は下図のようになっています。負極でマグネシウムがイオン化されて電子を放出し、それが正極まで運ばれ、正極では空気中の酸素と水と電子から水酸化イオンができて発電する、という仕組みです。この反応によって取り出されるエネルギー量は非常に大きいのですが、従来型のマグネシウム空気電池では、圧着に輪ゴムを用いるため、どうしても接触不良が生じ、電圧が安定しませんでした。

 

 

また、正極の反応部分には粉末状の活性炭を用いているため、電解液を加えたときに均一に浸透せず、弾いてしまって反応が安定しませんでした。また、仮に混ざったとしても表面に水を張ってしまって酸素が供給されなくなり、反応速度が落ちていました。

 

そこで、今回はこのマグネシウム空気電池を改良することを試みました。従来型の問題点と、改良点をまとめた表がこちらです。

 

電解質の劣化防止と圧着によって反応を安定させる

作製手順は、下の図のとおりです。

正極と負極の間の電解質膜には、セロハンを用いて電解液の劣化を防ぎました。また、電極の圧着に万力を用いて電極間の距離を確実に縮め、イオン電導を促進することで反応を安定させました。さらに、正極の反応部分の活性炭は粉末状ではなく顆粒状のものを用いることで、電解液がより浸透しやすく、また酸素が供給されやすいように工夫しました。

 

内部抵抗は半分以下、従来型の20倍以上の性能でスマホの充電もOK!

このようにして作成した改良型モデルと従来型モデルを、内部抵抗とI-P特性(電流と電力の大きさの関係)について比較しました。

 

まず、開放電圧を比較すると、改良型モデルは従来型に比べて安定して電圧が大きく、さらに電圧の減少幅が少なくなりました。内部抵抗(電池本体の抵抗)を8.6Ωから3.9Ωに下げることができ、電池としての性能が大幅に向上していることがわかりました。

 

 

次に、改良型のマグネシウム空気電池で、電解液の濃度による電池性能の変化を調べました。1.0mol/L、3.0mol/L、5.0mol/Lの3種類で比較したところ、時間経過による電圧の変化は下のグラフのようになりました。

 

それぞれの電池から取り出されたエネルギー量を計算したところ、それぞれ8.7×10-2mJ、2.6×10-1mJ、2.7×10-1mJとなり、高濃度の電解液ほど放電容量が大きいことがわかりました。 

 

続いて、I-P特性を比較しました。

 

それぞれの電流の大きさにおける電池の電力値をグラフにしました。従来型モデルは、電圧は発生しますが、内部抵抗が大きいために電力値は0に近くなっています。一方で改良型モデルは、電圧が大きく出て、しかも内部抵抗が小さいため、電力値の最大値も大きくなっています。実際、従来型モデルと比較すると20倍以上の電力差があることがわかりました。

 

 

今回の実験では、従来型の空気電池の形状を大きく改良し、最大開放電圧も最大電力も大幅に向上させることができました。また、セロハンを用いることで、電圧低下もかなり抑えることができました。今回開発した電池は、出力・安全性のいずれも高いので、災害対策用電池として使用可能です。実際にスマートフォンの充電に使うこともできました。

 

今後の課題としては、マグネシウムが反応しなくなってしまうことによる電圧降下を抑制するため、難燃性マグネシウム(マグネシウム合金)を使用することでマグネシウムの劣化をできる限り防ぎ、より長時間の放電を試みたいと思っています。また、塩化ナトリウムに代わる電解液として、塩化アンモニウム等を用いることを考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

今まで本校で研究をしていた燃料電池のノウハウを活かすことで、より性能が優れたマグネシウム空気電池を作ることが可能だと考えたからです。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり1時間半で5か月です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

正極の集電板の作製に苦労しました、銅線を使い、手作業で銅メッシュを縫うのは、非常に細かい作業でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

最も工夫した点は、正極の集電板です。正極反応部分である活性炭を多量に用いることが可能となり、反応速度を増大させることに成功しました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「空気マグネシウム電池の研究」齊藤竜馬(宮崎県立宮崎大宮高校:平成27年度全校高等学校総合文化祭論文集)

・「非常用マグネシウム空気電池「Mgbox®」の評価試験」伊藤彩乃ら(FBテクニカルニュース、70.23(2014))

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今後は後輩たちに引き継いでもらいます。今まで以上の長時間の放電を可能とするため、マグネシウム合金を用いた電池などを開発していく予定です。僕は生物学に興味があるので、生態研究などを行っていこうと考えています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

個人個人でテーマを決め、全員の前でプレゼンテーションを行っています。また、文化祭では一般の人向けに演示実験などを行っています。

 

■総文祭に参加して

 

今回の大会では、入賞はできませんでしたが、多様な人とのかかわりによって、自身の物事に対する視野を広げることができました。この大会は、今までの人生の中で最も良い経験となったと思います。より高みを目指し、様々な事に取り組んでいきたいです。

 

みやぎ総文2017の他の発表をみる <みやぎ総文2017のページへ>

河合塾
キミのミライ発見
わくわくキャッチ!