(2017年8月取材)
■部員数 25人(1年生11人・2年生9人・3年生5人)
■答えてくれた人 内田月読さん(3年生)
流星を見ると、流星が通った後にぼんやりとした光が見えることがあります。これを「流星痕」と言います。私たちは3年前から、流星痕の中でも特に特徴的な発光である緑色の「酸素禁制線発光」に注目しています。夜空に浮かぶ緑色の光と言えば、オーロラがすぐに思いつきますが、佐賀県でオーロラと同じような光を見ることができるというのはとても衝撃的です。そのため、私たちは、佐賀で見られる緑色の流星痕とオーロラの緑色の光は本当に同じメカニズムで発生しているのかを調べることにしました。
流星を撮影
緑色の流星痕の正体を解明するために、写真を使用することにしました。流星は文字通り、その場にとどまらず流れて行ってしまうため、撮影は簡単ではありません。そのため、カメラで1秒間シャッターを開けたままの状態で撮影をすることで、流星を線として撮影しました。本研究では、流星が良く見られるであろう、ペルセウス流星群の時期に観測を行いました。流星はいつ流れるかを正確に予測することはできません。今回の観測では約37,000枚の撮影をしたうち、3つの流星を撮影することに成功しました。
緑色の光の正体とは?
そもそも、流星が見えるのはそれが光、つまり一種の波だからです。光は波長によって見える色が変わりますが、流星は様々な波長の光が混ざって見えています。緑色の流星痕の正体を調べるためには、光をその波長ごとに分ける(分光する)ことが必要です。そのため、本研究ではカメラレンズの前に回折格子を取り付けて観測を行いました。
回折格子で波長ごとに光を分ける
光は、水面にできる波と同じように、強め合ったり弱め合ったりする性質を持っています。その性質を利用して、回折格子は波長ごと(色ごと)に光を分けることができます。
回折格子には光が通過できる部分と、すりガラスのように光が通過できない部分とが交互に並んでいます。このスリットを通ることにより、下に示すように特定の波長の光が特定の場所に見えるようになります。
今回、実際にこの方法で撮影した分光写真がこちらです。
写真には、一つの流星が分光されて複数の線として見えています。この中で、文献に示されていた色や光の強さから、比較的明るく写っている緑色の線と橙色の線はそれぞれマグネシウムとナトリウムであることがわかりました。これらは流星にはよく見られるものです。
写真上での流星本体(右の白い線)と分光された光(左にある線)との間隔を測ることで、上の式の中のXを求めました。また、文献によって求めたマグネシウムとナトリウムの波長も合わせ、上の式のLを求めました。それらを代入して計算した結果、緑色の光(図4中のZの線)の波長が約558nmであることがわかりました。そのことから、佐賀で見られる緑色の流星痕も、オーロラと同じく酸素禁制線発光による光であることがわかりました。
酸素禁制線発光の緑色の光だけ短い!?
ここで一つの疑問が湧きました。それは、なぜ酸素禁制線発光の緑色の光だけ短いのかということです。確かに図4の写真をよく見てみると、マグネシウムとナトリウムによる光に比べて、酸素禁制線発光の光だけが短くなっています。
そこで、酸素禁制線発光がそもそもどのようなメカニズムで起こっているのかに着目しました。
大気は酸素を含む、様々な分子が集まって成り立っています。それらの分子一つ一つにもわずかながら重さがあるため、大気の上空では分子の密度が小さく、地表付近では密度が大きくなっています。酸素禁制線発光は、流星が大気中の酸素原子と衝突し合うことで生まれるエネルギーによって起こります。このようにエネルギーが大きくなることを「励起する」と言います。このとき、大気の密度が大きいと衝突が次々に起こるため、励起して発光するまでの間に別の衝突によってエネルギーが失われてしまうため発光が起きません。反対に大気の密度が小さい場合、励起してから発光するまでに別の衝突が起こらないため、発光することができます。この境目となるのが上空80~110kmで、これはオーロラの場合も同じです。
マグネシウム、ナトリウムの発光も同じメカニズムで起こります。ただし、励起してから発光するまでの時間は酸素原子と比べて約100万分の1と短いため、大気の密度が大きくても別の衝突が起こる前に発光します。そのため、大気の密度が大きいところでは光らない酸素禁制線発光のみが短く見えています。
今後は高度の違いによって酸素禁制線発光が起こることを証明したい
私たちは、酸素禁制線発光がナトリウムなどによる他の光よりも短かったことを、高度の違いによるものだと予想しました。しかし、今回の観測では実際に発光が見えなくなっている境目の高度については明らかになっていません。今後は、別地点複数のカメラを設置して撮影することで、三角測法を応用して高度を計算し、文献値と比べていきたいです。
■研究を始めた理由・経緯は?
酸素禁制線発光の緑色の光はオーロラの緑色の光と同じであると言われています。そこで私たちは佐賀県でもオーロラと同じ色の光を見ることができることがとても面白いと思い研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2014年4月に研究をはじめ、1日あたり3時間です。
■今回の研究で苦労したことは?
写真を4万枚近く撮影するのですが、流星やそのスペクトルが確認できたのはたった3枚だけだったことです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
スペクトルの波長を求めるときに、詳しい数値を測ることができなかったので、変形した式を2つの文字でおきかえることにより連立方程式を解くようにして求めることができるようにした点です。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
流星観測の教科書
「オーロラの科学」上出洋介(誠文堂新光社)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今後も研究を続けます。これからは、流星の2点観測を行うことにより、本当に高度の違いによって酸素禁制線発光の出現率が変化するのかについて調べたいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
近くにある中学校での実験教室や、文化祭での展示などを行っています。
■総文祭に参加して
昨年に引き続き今年も出場できたことをとてもうれしく思います。全国総文祭では、地方大会では見られないような面白い研究に出会うことができました。後輩にも良い経験をさせることができたと思います。私たち3年生はここで引退ですが、後輩には全国大会での経験を糧に頑張ってほしいと思います。また、今まで私たちを支えて下さった先生方への感謝の気持ちを改めて持ちました。
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