みやぎ総文2017 自然科学部門

落雷が引き起こす上空の発光現象 縞構造の発生メカニズムを追う

【地学】静岡県立磐田南高校 地学部

(2017年8月取材)

左から 太田諭志くん、斎須けいらさん(2年)
左から 太田諭志くん、斎須けいらさん(2年)

■部員数 21人(1年生10人・2年生8人・3年生3人)

■答えてくれた人 斎須けいらさん、太田諭志くん(2年)

 

縞構造を伴うエルブスとOH バンド大気光波動の同時観測及び大気光波動観測システムの改良

高高度で起きる発光現象になぜ縞ができる?

落雷が発生したとき、その雷雲の上空約70~90km付近でしばしば発光現象が見られます。この発光現象を「高高度発光現象(Transient Luminous Event)」と呼びます。

 

私たちは2007年より、高高度発光現象の観測を開始しました。この高高度発光現象には幾つかの種類がありますが、その中で私たちは「エルブス」という現象を研究しました。エルブスは上空90km付近で起こる円盤状の発光現象です。そして、2012年、このエルブスに縞構造があることを、世界で初めて発見しました。そして私たちは、なぜこのような縞構造が発生するのか調べることを目的に研究を行いました。

 

私たちは、エルブスの縞構造は大気光波動現象に関係があるという仮説を立てました。この根拠は、エルブスの発生する高度90km付近の波動現象として、大気光波動現象が知られていることからです。

 

左上の画像の中で、赤く光っているものが大気光です。大気光とは、昼間の日射により大気粒子が励起され、それが遷移するときに放出する光のことです。この光は、大気重力波という空気の波動によって縞模様を呈することがあります。これを大気光波動現象と呼びます。

 

名古屋大のデータがそのまま使えないなら、自前で観測システムを作ってしまおう! 

この現象は、名古屋大学太陽地球環境研究所が日本で唯一観測を行っており、そのデータを公開しています。こちらがその画像です。

 

しかし、このデータをそのまま研究に用いるのには、いくつかの問題点がありました。まず、本校と名古屋大学とでは観測位置が異なるということ。次に、全天画像であるため、局所的な構造が不明であること。最後に、観測時間の間隔が長いため、エルブスの発生時刻とずれが生じてしまうことです。そこで私たちは、本校で自前の大気光波動現象観測システムを構築することにしました。

 

下図がそのシステムの模式図です。大気光は非常に微弱で継続的な発光であるため、観測には高感度蓄光式カメラを使用しています。レンズ前面には680nmバンドパスフィルタを装着しています。

 

こちらがフィルターの透過曲線です。波長680nm付近の光のみを選択的に取り出すことができます。私たちが観測しようとしている大気光の波長が680nm付近にあるため、このフィルターは観測に適しています。

 

観測の結果です。先ほどの観測システムを用いて、こちらの画像が撮影されました。赤い矢印の位置に、縞が確認できます。

 

観測結果と他のデータと比較、縞構造の正体をつきとめる

私たちはこれが、本当に大気光波動であるかを検証しました。まずは可視光画像との比較を行いました。こちらは同時刻付近に、高高度発光現象観測カメラで撮影された可視光との比較です。可視光の画像から、大気光と誤認し得るような雲などは見当たりませんでした。

 

次に、対流圏の気象現象との比較を行いました。このスライドは、同時刻の気象レーダーの画像です。赤い矢印がカメラの方向を示しています。こちらでも大気光と誤認し得るような雲などは見当たりませんでした。

 

次に、名古屋大学太陽地球環境研究所の観測画像との比較を行いました。全天カメラを上に向けて撮影した画像であるため、画像の中心が天頂です。そして、本校で撮影された画像と、波面の方向を比較しました。すると下図のように、ともに北西-南東方向と一致していたことがわかりました。

 

以上から、本校で撮影された縞模様は、大気光波動であると言えます。根拠は、誤認し得る現象が見つからなかったことと、他機関の観測データと一致したことです。この観測システムを用いて、縞構造を伴うエルブスと大気光波動の同時観測に成功しました。

 

下図は、2015年1月に撮影されたエルブスの画像です。白いリング状に光っているのがエルブスです。他の地域にある2校でも同時に観測されていました。

 

この中で特に鮮明に写っていた、香川県三本松高校の北東方向カメラの画像から、黄色い矢印に示すような縞構造が観測されました。

 

このエルブスの輪郭を、三角測量によって分析し、地図上に投影するとこの図のようになります。

 

エルブスの輪郭が楕円上に歪んで見えるのは、本来真円に近い形をしているエルブスの輪郭が、大気の屈折によって引き延ばされた結果だと考えられます。この影響を補正すると、エルブスの形及び縞構造はスライドのような形をしていたと考えられます。縞模様は北東-南西方向に走っています。

 

さらなる検証のためにシステムの改良に取り組む

次に、同時間帯の大気光波動の波面方向がエルブスの縞模様と同じであったのかを検証します。下の右下は、同時間帯の大気光波動を撮影した画像の明度を反転したものです。赤い矢印の位置に縞構造が確認できました。これは画像の中で、北東-南西方向に当たります。名古屋大学で撮影された画像(右上)も確認してみると、同様に北東-南西方向に縞が確認できました。

 

以上のことから、エルブスの縞模様と、大気光波動の波面方向はともに北東-南西方向で一致していたとわかりました。このことは、エルブスの縞構造が大気光波動に関係するという仮説を支持します。

 

しかし、これらの画像からは縞の間隔が一致するかどうかまではわかりません。そこで、大気光波動を地図上に投影することで、間隔の比較を行おうと考えました。

 

そのため私たちは、大気光波動観測システムの改良を行いました。従来のシステムで大気光波動を地図上に投影できないのは、恒星の光がフィルターによって遮断されるため、緯度・経度がわからないことが原因です。そこで私たちは、一度フィルターを外して光量を確保してから、恒星を再撮影しました。下図がフィルターの有無による比較です。

 

このように、フィルターを一度外すと赤い丸の位置にはっきりと恒星が写っており、これによって緯度・軽度の特定が可能になります。

 

こうして改良したシステムで撮影した画像を、明度ごとに着色したものがこちらです。黒い線で示した位置に縞構造が確認できました。

上記を地図上に投影した画像がこちらです。 

この図を用いて、エルブスと大気光波動を地図上で比較しました。エルブスと大気光波動それぞれの波面の間隔の分布が下のグラフになります。両者は近い値を取っていることがわかります。 

方位角の分布をグラフに表したのが下図です。エルブスの縞は、平均して北から東に38.3°、大気光波動は北から東に45.8°の方向でした。 

 

 

このように、エルブスの縞構造と大気光波動の方位角・間隔がそれぞれ近い値を取ったため、やはりエルブスの縞構造は大気光波動現象に関係があるという仮説を支持すると言えます。

 

ついに縞のモデルにたどりついた!

これまでの研究から、私たちはエルブスの縞の発生モデルを作成しました。

 

まず、鉄床状の積乱雲から地上方向に向けて強い落雷が発生します。次に、上空に向けて電磁パルスが放出され、エルブスが発生します。このとき、上空に大気光波動が発生していると、エルブスの発光にムラが生じ、縞構造が形成されます。

 

特定空域の大気光波動の継続的な観測は、日本では本校が日本唯一です。また、高高度発光現象の研究ノウハウを生かした高層大気の研究は、今後の高校生による電離圏研究の進展に貢献することができると思います。

 

今後は縞構造を伴うエルブスと大気光波動の同時観測例を蓄積するとともに、エルブスを実験により人工的に発生させることを試み、さらに詳しく調べたいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

私たちの先輩方は、高高度発光現象の観測をしている中でエルブスの発光に縞模様が映っていることを世界で初めて発見しました。この縞模様が何故発生するのかを調べるために研究を進めてきました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2007年から本校で高高度発光現象の観測を開始し、2012年、エルブスの発光に縞模様が映っていることを発見しました。観測は毎日行い、これらの観測を通じて得られたデータをもとに、毎年テーマを決めて、研究をまとめて論文作成や口頭発表を行っています。活動時間は時期によって変化します。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

エルブスの縞模様は、「大気光波動現象」という大気の波によって発生しているという仮説を立てました。そこで大気光波動現象を観測するためのシステムを構築したのですが、専門の研究機関以外で大気光の観測を行っている高校はなかったので、機器の設置や調整、保守点検ではとても苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

大気光波動の縞を、地図上に投影させる方法として、レンズにフィルターを取り付けたり、自動観測のプログラムを作成したりしました。これは私たちが独自に考案した、安価に地図上に大気光波動を投影する方法で、今までにだれもやったことのないものです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

1.「Elves:Lightning-induced transient luminous events in the lower ionosphere,」

   1996,Fukunishi, H., Y. Takahashi, M. Kubota, K. Sakanoi, U.S. Inan,

   and W.A. Lyons.,(Geophys. Res. Lett., 23, 2157-2160.)

2.「高高度発光現象「エルブス」に伴う縞構造の発見と電離圏擾乱との関係」

    伊藤有羽ほか,2012,(JSEC2012応募論文,1-10.)

3.「TLEsの発生形態の概念図」©佐藤光輝(北海道大学)

  http://www.ep.sci.hokudai.ac.jp/~jemglims/science/TLEs.html

4. 「Striped structure observed in the elves:Relation to turbulences

     in the upper tmosphere, 」

     Shirahata et al., 2014,(submitted to AS28session, AOGS 2014, Sapporo)

5.「大気光波動観測システムの構築と縞構造を伴うエルブスの関係」

     橋本恵一ほか,2016,(日本地球惑星科学連合2016年大会予稿集,O02-P50)

6.「Global lightning and sprite activities and their solar activity dependences.」

      Sato, M., 2004, (Doctor thesis, Tohoku University)

 

なお、1,3,6が引用文献、2,4,5が先輩たちの研究になります。

 

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

自分たちでエルブスを発生させる装置を作り、エルブスを人工的に発生させることでエルブスの詳しい構造や発生条件の解明に挑戦したいと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

学校の窓にカメラを設置し、それをパソコンに繋いで高高度発光現象を観測しています。また、高高度発光現象の他に流星や落雷が写った回数を記録しています。

 

■総文祭に参加して

 

私たちと同じように科学の研究をしている高校生たちと交流することができ、とても良い刺激になりました。

 

※磐田南高校の発表は、地学部門の優秀賞を受賞しました。

みやぎ総文2017の他の発表をみる <みやぎ総文2017のページへ>

河合塾
キミのミライ発見
わくわくキャッチ!