みやぎ総文2017 自然科学部門

髪の毛で本当に天気予報はできるのか?!

【地学】佐賀県立佐賀北高校 地学部

■答えてくれた人 井上知佳さん、坂本愛さん(2年)

(2017年8月取材)

ブロンドに負けない!~毛髪湿度計~

「湿度が変わると髪の毛の状態が変化する」は本当だが…

皆さんはこれまで、くせ毛の人が自身の髪の毛を見ながら「今日は雨が降るな」と言っているのを聞いたことはありませんか。本当に髪の毛で天気がわかるのでしょうか。

私たちの目標は、地学部が30年間取り続けているデータを利用して、高校周辺の天気予報をすることです。そこで、髪の毛を使って天気予報をするために、降水前後の髪の変化を、毎日写真を撮って確認してみました。

 

実際に湿度が高くなると、髪の毛が広がる・はねる・うねるなどの変化が見られました。しかし、変化の原因の区別は見た目だけでは困難でした。また、見た目だけで研究しようとすると、髪の長さを一定に保つ必要があったり、髪型を変えられなかったりと、生活するうえで不便な点が多くありました。そこで、髪の毛の変化を数値化するため、毛髪自記湿度計の仕組みを利用しようと考えました。

 

 

そして、図のように降水確率と湿度の関係を利用した天気予報計を作ることを目指しました。降水確率は、地学部の気象データの湿度と降水の関係を利用しました。湿度がある値の時にどれくらいの割合で降水があったかを調べ、降水確率を割り出しました。

 

ブロンド以上の感度にするために髪の毛を処理する

まず私たちは、毛髪自記湿度計のセンサー部分である、髪の毛に対する処理について研究しました。毛髪自記湿度計とは、周囲の湿度によって長さが変わるという髪の毛の仕組みを利用して、その時の湿度を示すというものです。

 

センサー部分には、一般的に、周囲の湿度に対して伸び縮みの感度が高く、日本人の髪の毛よりも細くて耐久性に優れている、欧米女性のブロンド(金髪)の毛髪が使用されています。ブロンドの毛髪は、湿度が0%から100%に変化した時、長さが約1.5%変化します。私たちはこれに勝る変化幅を目標とし、髪の毛に対する処理に着目しました。

 

 

処理の目的を整理すると、

1.ブロンドよりも湿度による長さの変化が大きい髪の毛を作る

2.誤差範囲を小さくするため、長さの変化のばらつきが小さい髪の毛を作る

の2点になります。

 

実験装置は、自分の髪の毛と身近な材料で作成しました。下図のように、湿度が上がって髪の毛が伸びると竹ひごが上がり、湿度が下がって髪の毛が縮むと竹ひごが下がります。

 

 

処理の仕方は、8種類を行いました。液体の濃度や時間を変え、合計23個の処理を行いました。

 

(1)の処理なしは比較のために行いました。(2)、(3)、(4)、(8)はそれぞれ、髪の毛にダメージを与えるために行いました。これによって髪の毛の表面が傷み、水蒸気を含みやすくなるのではないかと仮説を立てました。

 

(5)、(6)、(7)は髪の毛の油分を落とすために行いました。男性用シャンプーを用いたのは、実験の結果、女性用シャンプーよりも髪の毛の変化幅が大きかったためです。髪の毛の油分を落とすのは、毛髪自記湿度計のメンテナンス工程の一つに「髪の毛の油分を落とす」というものがあったことから、油分を落とすことで髪の毛が水分を含みやすくなるのではないかと仮説を立てたためです。

 

10分煮ることでセンサーとしての感度がアップ

まず、濡れた筆で髪の汚れを取りました。毛髪自記湿度計では蒸留水を使用しますが、蒸留水よりも水道水の方が髪の毛の長さの変化が大きかったため、今回は水道水を使用しました。

また、筆で濡らすことにより、髪の毛の表面の湿度は100%となった、としました。

 

次に、ゴム管に竹ひごを通します。この際、髪の毛の劣化などが原因で髪の毛が切れてしまうことのないように注意して行いました。 

 

そして、装置をケースの中に入れ、湿度計の最大値(Hi)まで湿度を上げます。湿度計が最大値を示したら、ケース内の水滴をふき取り、ふたをします。湿度計の値が安定したら、竹ひごの高さに視点を合わせ、針を記録用紙に対し垂直に立てて竹ひごの先の位置を記録します。

 

湿度がHiの時ではなく安定してから取るのは、正確な湿度を記録することで、毎回同じ湿度になっているか確認するためです。 

次に、ケース内に除湿剤を入れて湿度を20%程度下げます。下がったら、竹ひごの先の位置を記録します。

 

そして、湿度を安定させた時と、20%下げた時の竹ひごの先の位置を拡大し、振れ幅を読み取ります。1つの実験装置について、3日間同じ髪の毛を用いて、15回分のデータを取りました。日々の湿度の変化などにより、変化させた湿度の幅はぴったり20%ではありません。そこで、湿度の差と竹ひごの振れ幅を比例関係として、湿度の変化を20%に換算しました。 

 

次に、変化の幅とばらつきを求めます。変化の幅は、15回分のデータを平均してもとめました。10分間煮るという処理の場合、湿度が20%変わると、竹ひごが1.330mm動くということになります。 

ばらつきは、各回の振れ幅を1mmあたりの湿度の変化(%)に直して、標準偏差を取りました。これは、振れ幅を用いてばらつきを計算すると、振れ幅が小さいものはばらつきも小さくなってしまうためです。

 

計算の結果から、変化の幅と標準偏差が各処理で最も優れていたものを抜粋し、表にしました。 

変化の幅が大きかったのは、

3位:せっけんで900回洗ったもの(1.17mm)

2位:10分間煮た後、男性用シャンプーで900回洗ったもの(1.18mm)

1位:10分間煮たもの(1.33mm)

という結果になりました。

 

標準偏差が小さかったのは、

3位:50分間煮たもの(68.32%)

2位:10分間煮たもの(10.52%)

1位:せっけんで1800回洗ったもの(8.35%)

という結果になりました。

 

一方で、今回の実験をブロンドの髪の毛で行うと、振れ幅は約1.2mmとなります。このことから、1位の「10分間煮たもの」はブロンドの髪の毛よりも振れ幅が大きいことがわかりました。また、10分間煮たものは標準偏差も2番目に小さくなりました。

 

以上の結果から、ブロンドよりも変化の幅が大きく、かつ標準偏差も小さい「10分間煮る」という処理が、髪の毛に対する処理として最も適しているとしました。今後は、新しい処理を増やし、より変化の幅が大きくばらつきの小さい処理を見つけられればと思っています。

 

髪の毛の表面は変化していない

また、処理の前後で髪の毛の表面にどのような変化が起きたのか顕微鏡を使って確認しましたが、どの処理もあまり変化は見られませんでした。よって、髪の毛の表面よりも内部が差を生んでいるのではないかと考えました。今回の実験ではその調べ方まではわからなかったので、内部の変化を調べる方法を考えていきたいと思います。

今回の実験を活かして作れる天気予報計では、変化の幅が小さく、目盛りが読みにくいものになってしまいます。いずれは予想図のように変化の幅が大きく、目盛りを読み取りやすくするために、振れ幅を機械的に拡大する方法も考えたいと思います。

 

そして最終的には、自分たちの毛髪で作った天気予報計を校内に設置し、気軽に降水確率を確認できるようになればと思っています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

佐賀北高校地学部の毎年のテーマが天気予報なので、手塚久利の毛髪湿度計で予報ができたら面白いなと思ったのがきっかけです。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日3時間以上で、1年です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

酸やアルカリなどで毛髪に処理を行うのはたいへんでした。また、実験の工程で湿度を上げたり下げたりするのも苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

地学部が取り続けているデータから割り出した降水確率を使って天気予報の予想図を作成した点です。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「毛髪湿度計を作ろう」北海道大学環境科学院大気海洋物理学・気候力学コース

 (2011年度北海道大学環境科学院施設公開・オープンキャンパス展示・実験紹介資料)

・「地上気象観測法」気象庁編(気象庁)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

佐賀県で毎年行われているバルーンフェスタの際、飛行しているバルーンの動きを見て風の動きを調べる研究がしたいです。また、それを天気予報につなげられたらと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

雨量、風力、気圧など様々な観測をしています。また、「星ナビ」という雑誌を参考にして、広報紙を作成しています。天気図の模写も行っています。

 

■総文祭に参加して

 

全国から集まったレベルの高い発表をたくさん聞くことができて、とても新鮮で勉強になりました! 初の仙台で、牛タンを食べることができて、楽しいひとときもありました。

 

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