(2017年8月取材)
■部員数 14人(1年生5人・2年生5人・3年生4人)
混合溶液から色や形の異なる結晶を晶出させるモデル
私たちはマグマの分化モデルを作るため、混合溶液からの結晶析出実験を行いました。
マグマは下図のように、晶出温度の高い鉱物から結晶が析出していきます。玄武岩質マグマは、温度が下がることで斑れい岩が析出し、それによって残りのマグマの組成が変化して安山岩質マグマへと変化します。同様に安山岩質マグマからは閃緑岩が析出し、流紋岩質マグマになります。このような現象が次々と起こることによって多様な火成岩が生じます。これがマグマの分化です。
私たちの高校がある愛媛県宇和島地域は、その地質の多くが堆積岩から形成されていますが、限られた地域においては新第三紀花崗岩類が存在します。その証拠として、渓谷には花崗岩の露頭が見られます。この花崗岩の生成は、マグマの分化によって説明されています。
私たちの先輩は、同一のマグマから多様な火成岩が生じることに着目しました。そして、混合溶液を冷却し、色や形の異なる結晶を段階的に析出させる「マグマの分化」モデルの研究を行いました。論文では、硝酸カリウムと硫酸銅(II)を組み合わせた2物質を析出させるモデルを報告しています。
先輩たちの研究を発展させ、3種類以上の結晶析出を目指す
そこで私たちは、3種類以上の結晶の析出を試み、「マグマの分化」モデルの実用化を目指すことにしました。
仮説として、下図のように3物質の混合溶液の温度を段階的に低下させると、その沈殿には析出した各結晶が温度によって異なる割合で含まれるので、マグマの分化に類似した現象を作り出すことができると考えました。
モデルに用いる物質の選定について、先行研究では溶解度や色を考慮して2つの物質を選んで実験していました。
無色の結晶として3種類、有色の結晶として4種類が候補となりました。結果として、硝酸カリウムの無色針状結晶と硫酸銅(II)の青色結晶を用いて異なる結晶組成の層が作成されました。
今回、新たに加える第3の物質の候補を、結晶の色、形、溶解度を考慮しつつ以下の通りに選定しました。
〇チオ硫酸ナトリウム (無色 柱状結晶)
〇フェリシアン化カリウム (赤色 結晶)
〇塩化コバルト6水和物 (赤色 単斜結晶)
その後、まずは選んだ物質それぞれに硫酸銅あるいは硝酸カリウムを加えた2物質の混合溶液を作り、実験にふさわしいか確認すべく予備実験を行いました。
予備実験では、まず高温の混合溶液を作成し、溶液を冷却して結晶を析出させます。その後、吸引濾過をして得られた結晶を洗浄し、濾液を容器に戻して操作を2回繰り返しました。こうして、各温度段階での結晶を得ました。
予想外の反応に悪戦苦闘?!
実験の結果、チオ硫酸ナトリウムと硝酸カリウムを組み合わせたモデルでは、どちらも無色結晶ですが結晶の形が異なるため、違いが判別できると考えました。しかし、結晶の形が異なっていたとしても、色が類似している場合には判別が難しいことがわかりました。また、急冷したために結晶が成長せず、形での判別ができなかったことも原因と考えられます。
次に、フェリシアン化カリウムと硫酸銅で実験を行いました。この実験では両者の色が異なるため、結晶の色の違いで判別できると予想しました。しかし、混合時に何らかの反応により黄褐色の沈殿が生じたため、不適と判断しました。
塩化コバルトと硫酸銅でも同様に結晶の色の違いで判別できると予想し、実際に実験してみたところ、色の異なる結晶が析出し、赤色結晶が青色結晶を含むために必要な混合比率や温度などの条件がわかりました。
また、塩化コバルトと硝酸カリウムも結晶の色の違いで判別できると予想し、実験を行いました。その結果、桃色結晶や青紫色結晶が析出する場合もありましたが、条件を整えれば無色結晶の中に赤色結晶が生じることがわかりました。
濾紙上の結晶は塩化コバルトの赤色の溶液によって全体が着色されていたため、洗浄が必要でした。しかし塩化コバルトは潮解性を持つため、純粋での洗浄は不適です。そのため、メタノールとジエチルエーテルを3:2の体積比で混合した溶液で洗浄しました。
最後に、硝酸カリウム、硫酸銅、塩化コバルトの3物質を用いた「マグマの分化」モデル実験を行いました。私たちはある条件において無色、青色、赤色の結晶が析出すると予想していました。しかし実験の結果、3色の結晶は析出せず、そのような条件は存在しないことがわかりました。
3つの物質で混合溶液を作成したとき、黒色沈殿が生成されました。また、白色結晶と赤色結晶の混合物は得られましたが、青色結晶の析出はありませんでした。このことから、硫酸銅の成分が黒色沈殿を形成する物質となったため、濾液中に含まれなくなったと考えられます。
このことから、この3物質の組み合わせは「マグマの分化」モデル実験に不適であることがわかりました。
課題を整理して、さらなる改善を目指す!
今回の研究で、赤色結晶を形成するフェリシアン化カリウムと塩化コバルトは、どちらも他の物質と反応して沈殿を作るため、候補としてふさわしくないことがわかりました。これは予想外の結果でした。
今後は、チオ硫酸ナトリウムと硝酸カリウムのような同色の結晶を形で判別するため、十分に時間をかけて結晶を大きく成長させてから観察したいと思います。
また、3物質の混合溶液を作る場合は相互の関係がより複雑になるため、溶解させる物質の適切な質量比を試行錯誤で見出すよう取り組みます。また、塩化コバルトのような潮解性のある物質は水で洗浄できないため、洗浄する液体についても考慮したいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
私たちが住んでいる宇和島地域の地質は、ほとんどが堆積岩なのですが、プレゼンで紹介した鬼ヶ城付近では火成岩が見られるということに興味を持ち、この研究を始めました。
前年度の先輩たちが取り組んでいた研究では、使う薬品が2種類でしたが、もう1種類加えて3種類以上の結晶を析出させることができれば、モデルの実用化に大きく近づきます。今回は、これを目指して、3種類の薬品を使うことに取り組みました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1週間あたり2時間を基本として放課後に、必要な実験をメンバーを交代しながら1年間続けました。先輩たちが研究を始めたのは2015年6月頃から、私たちの研究は2016年6月後半から2017年5月頃まで行いました。
■今回の研究で苦労したことは?
まずは、実験に用いる薬品の種類を決めることに時間を費やしました。実験後に結晶の色の有無や、結晶の形が確認しやすいものを選定するのに苦労しました。その結果3種類にしてみたのですが、複雑な反応が起こり(原因はわからないまま)、予想外の結果が出たことで悩みました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
実際のマグマの分化作用は長い年月がかかり、実験で再現することが難しい点を、溶解度を利用して、結晶を段階的に析出させようとしたところです。この研究を元に、授業で使ってもらえたらうれしいです(もっと研究しないとだめですが…)。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「化学大事典」化学大事典編集委員会編(共立出版)
・「『マグマの分化』モデルを作る-混合溶液から背の結晶析出-」久保聡・永山真也・若松宗真(平成27年度SSH生徒課題研究論文集)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今度こそ、3種類以上の物質を用いた「マグマの分化モデル」を作ることを目指したいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
ほとんどの時間は実験をしていて、時々レポートを作成したり、プレゼンの練習をしたりしています。
■総文祭に参加して
全国の学校の研究発表を聞くことで、様々なものの見方や考え方を学ぶことができました。地学分野でも、いろいろな研究の仕方があり、地域の特徴をよく出せているところもあり、いい経験になりました。
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