(2017年8月取材)
左から 伊藤宏樹くん、山田達彦くん
■部員数 16人(1年生7人・2年生6人・3年生3人)
■記入者 山田達彦くん、伊藤宏樹くん(3年)
地球照の秘密と地球外生命体の探索方法を探る
「地球照」をご存知でしょうか。
写真のような細い月の時、白くて明るい部分とは別に、暗い部分もうっすらと見えます。この現象を地球照といいます。
月光は太陽の光が月に反射して見えるものですが、地球照は太陽光が地球の地表と雲で反射したものや、大気で散乱したものが月を照らし、その光が反射して見えます。
地球照は一度地球表面で反射しているため、その光には生命存在の証、すなわちバイオマーカーが含まれているとされています。中には、これが地球外生命の探索に応用できるのではないかとする論文もあります。
本研究の目的は、
(1)観測によって地球照の成分を見積もること
(2)本研究の観測方法が地球外生命の探索に応用できるか議論すること
の二点です。
観測には図のような自作の分光器を用いました。スリットを用いているのが特徴です。観測は本校屋上で、2016年の5月と6月に行いました。
観測の際は、月光・地球照・空のスペクトルを、それぞれスリットの位置を合わせて求めました。
下図の下部に貼りつけてあるのが月光のスペクトルです。既知の吸収線から、それぞれの座標と波長を一致させる作業を行いました。
地球照、空も同様に行いました。「すばる画像解析ソフト Makali`i(マカリ)」(※)を用いて、地球照の画像から空の画像を減産することで、地球照のスペクトルを求めます。
※https://makalii.mtk.nao.ac.jp/index.html.ja
理論値と実験から、地表による反射光の性質を調べる
下図が観測の結果です。横軸が波長、縦軸が地球照のスペクトルを月のスペクトルで割った値の相対値を表します。この相対値を求める作業により、分光器の分光特性やカメラの感度むらなどをキャンセルすることができます。
また、気体分子の吸収の影響が少ないとされる波長670~680nmあたりを基準(=1)とすることで他の観測と比較しやすくしました。
次に各成分を見積もっていきます。
大気による散乱光は、太陽光に散乱の割合を掛けることで求められます。これは波長の4乗に反比例することが知られています(レイリー散乱)。
雲・地表による反射光に関しては、太陽光に反射率と大気の透過率を掛けることで求められます。反射率については、雲の反射率は波長によらないため、ここでは一定とします。海はほぼ反射しないと考え、0としました。地表の反射率は、ここでは実験によって求めました。
実験は、地表を写真のように植物の葉と砂漠の砂で構成されるとモデル化し、このモデルに白熱電球の光を当て、反射光を観測します。
結果は下図です。実験から、砂は波長が大きくなるにつれて反射率が緩やかに上昇するのに対し、植物の葉は波長700nm~750nmあたりで急激に上昇していることがわかります。これはクロロフィルの特性であり、レッドエッジとよばれます。
大気の透過率は e-τ という式で表されます。eは自然対数の底、τは光学的厚さというものです。
入射光に対して透過光が1/eに減衰する状態を、「光学的厚さ=1」と定義されます。
実際の大気の透過率は、大気分子の散乱(τ1)・エーロゾルの散乱(τ2)・大気分子の吸収(τ3)それぞれの光学的厚さ及び透過する空気量(m)から、大気の透過率=e-(τ1+τ2+τ3)mとして求めることができます。
大気分子の散乱(レイリー散乱)の光学的厚さは図のような近似式で求められます。
エーロゾルの散乱(ミー散乱)の光学的厚さは、図の近似式で求められます。
式中のαはエーロゾルの粒子が大きいほど小さな値、βは大気が濁っているほど大きな値を取ります。それぞれ、文献から図のように見積もりました。
大気分子の吸収の光学的厚さは、高度が異なる場所での月光の光学的厚さの差で求めました。結果は下図の通りです。
このグラフから、大気分子の散乱とエーロゾルの散乱の光学的厚さを引くことで、空気量にかかる大気分子の吸収の光学的厚さを知ることができます。
結果は下図のようになりました。赤い線が5月、青い線が6月の結果です。O2、H2O、O3それぞれの気体分子によって吸収線が見られました。月によって違いが見られるのは、大気に季節変化があるためと考えられます。
透過する空気量は、光が大気を通過してから月に反射されるまでにどれだけの空気量を通過したかというもので、天頂方向を1として幾何学的に求めました。下図の例では、約2.3になります。
5月、6月それぞれの月の方向から見た地球、および、そこから求めた空気量の分布は下図の通りになります。ここから、どちらも平均空気量は4と見積もりました。
では、地球照をシミュレーションしていきます。
まずは平均の雲頂高度を仮に決め、「大気による散乱光」「雲による反射光」「地表による反射光」の割合を変えていきます。なお、砂漠の砂と植物の葉の比率は1:1としました。
観測値に合うように割合を変えていったところ、下図のように、観測値とほぼ一致するグラフを作成することができました。赤い線が観測値、青い線が理論値です。
このシミュレーションから、地球照の主成分は大気による散乱光と雲による反射光であることがわかりました。大気による散乱光の割合は短波長側で大きいことから、地球照は月光よりも青い光であることがわかります。また地表による反射光の割合は、長波長側で大きいことがわかりました。特にレッドエッジによる影響が大きいと考えられます。
5月と6月の地球照ではレッドエッジの影響が見られた
次に、地球照がレッドエッジを捉えたと言えるのかを考察するため、月から地球を見た時に海洋の割合が大きい場合の地球照を観測します。本校屋上で、2016年10月と11月に行いました。その際の写真とグラフは以下の通りです。
これら2つと先ほどの2つを比べてみると、長波長側で違いが見られることから、5月と6月に観測した地球照ではレッドエッジの影響が見られたと言うことができます。これは、もしかしたら日本で初めてかもしれません。
研究の観測は地球外生命体の探査に応用できるのか?
前提として、生命体は地球に存在するものと同様の仕組みを持つものとします。
観測の条件として考えられるのは、まず太陽型恒星のハビタブル(水が存在し得る)な地球型惑星を狙うということです。また、望遠鏡は超大型のものが必要ですが、分光器は私たちが使用したような観測波長域450nm~800nmの小型のものでも十分であることがわかりました。そして、主星と惑星のスペクトルを分けて観測し、その比率を求めることが必要です。
ポイントとしては、H2Oの吸収線により液体の水の存在がわかり、O2の吸収線の存在から光合成を行う存在がわかるかもしれないということ。また、O3の存在から、陸上に生命体が進出しているかもしれないということとなります。その上でレッドエッジが見つかれば、その惑星に生命体が存在していると言えるのではないでしょうか。
まとめです。
地球照の成分について、主成分は「大気による散乱光」と「雲による反射光」であることがわかりました。また、「大気による散乱光」の割合は短波長側で大きく、「地表による反射光」の割合は長波長側で大きかったです。
地球外生命体の探査に関して、本研究の方法は十分に応用可能であることがわかりました。また、本研究で観測したように、惑星の自転によってレッドエッジが検出される時とそうでない時があるので、継続観測が必要であるとわかります。
■研究を始めた理由・経緯は?
先輩が月食のスペクトルを観測する研究を行っていたのを受け、同様の方法で地球照を観測してみることにしました。よく調べるとそれが系外惑星の探査につながることだということがわかり、興味深いテーマであると思って研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2016年の春から週2、3日。1日あたり2〜3時間。
■今回の研究で苦労したことは?
夜遅くや早朝の観測です。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
植物の葉や砂漠の砂のスペクトルを実際に観測し、地球照の成分の見積もりに使ったことです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
「月色のスペクトル〜地球大気による光の屈折・教乱・吸収〜」. 浦和高校地学部(2016)
(第59回日本学生科学賞応募研究)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今回使った手法を応用して、太陽光の観測から大気の成分を調べたいです。
■ふだんの活動では何をしていますか
プラネタリウム作成、モデルロケットの製作、地質巡検など
■総文祭に参加して
すべての発表が内容、伝え方どちらもよく練られていてとても参考になりました。地学部門はとくにそれぞれの地域のほかにはあまりない地質のことなどを扱っていて面白い研究ばかりでした。高校生のうちにこのような機会が得られたことはきっと将来の役に立つと思います。もっと多くの人が総文祭を楽しんでほしいです。
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