(2017年8月取材)
■部員数 112人(1年生41人・2年生34人・3年37人)
■答えてくれた人 横山佳奈子さん、今村直生さん、森山美喜さん、湯田夏希さん(3年)
霧島市から桜島の北側まで横一直線に広がる層状の雲の不思議
こちらは私たちの住む鹿児島県の地図です。真ん中に桜島があってその周りには鹿児島湾(錦江湾)があり、北側にはおよそ25000年前に生じた姶良(あいら)カルデラがあります。姶良カルデラは鹿児島湾北部に海水が流れ込んで形成された広くて大きな窪地です。
私たちの学校は霧島市にあります。この霧島市から鹿児島湾を挟んで、桜島の北側に、横一直線に広がる層状の雲が観測されることがあります。
私たちは、この雲が特に朝発生していることが多いと知りました。なぜこのような低いところに層状の雲が発生しているのか、どういう条件で発生しているのか、疑問に思ったため研究を行いました。
徹底調査! 雲の「高さ」「種類」「発生場所」「気象状況」
私たちは雲の高さ、雲の種類、雲の発生場所、発生時の気象状況を調査しました。
雲の高さを調べるため、図のように海面からA線までの長さを「雲頂高度」、海面からB線までの長さを「雲底高度」、A線からB線までの長さを雲の厚さとしました。計算の仕方としては、写真上の雲頂高度(mm)と写真上の桜島の高さ(mm)から桜島に対する雲頂高度の比率を求め、桜島の高さである1117mにかけ合わせました。雲低高度も同様に計算しました。また、場所によってばらつきがあるため、雲頂高度は最高高度、雲低高度は最低高度として計算しました。雲の厚さは最高高度(m)と最低高度(m)の差で計算しました。
雲が発生した日のうち、雲の形状が安定し、横方向に広がっていた7日分の写真を用いて計算を行いました。
その結果、平均雲頂高度474m、雲低高度256m、雲の厚さは217mでした。また、雲の種類については、発生する高度や形状の特徴から、十種雲形の1つ「層雲」であることがわかります。
雲が層状になる原因の1つとして、逆転層が挙げられます。逆転層とは、通常は高度が上がるほど気温が下がるのに対して、高度が高いにもかかわらず気温が比較的高くなっている状態を指します。逆転層があると上下方向の空気の対流が妨げられ、雲は水平方向に広がります。
逆転層は3種類あります。1つは接地逆転層と呼ばれ、放射冷却によって地面に接する大気の温度が低下することにより発生します。
2つ目は沈降性逆転層です。高気圧内部の下降気流によって空気が沈降し、断熱圧縮によって温度が上がることにより、比較的高い場所で生じます。
3つ目は移流逆転層です。これは、暖気が寒気の上に乗りあげたり、寒気が暖気の下に潜り込むことで起こります。
今回の観測条件では、
・海水では放射冷却が起きにくい
・発生高度が低い
・桜島斜面の放射冷却で起きた冷気は重力によって下方へ移動する
ことから、移流逆転層が起きている可能性が高いと考えられます。
聞き込み調査と2地点からの同時撮影で雲の発生場所を特定
次に発生場所について調べました。写真では、この雲が錦江湾上に発生したのか、桜島斜面に発生したのかはわかりません。そこで、桜島から霧島市方向に観察して錦江湾上に発生しているか確認するとともに、異なる2方向から観測して発生場所を特定することにしました。
まずは桜島周辺で聞き込み調査を行いました。対象人数は約30人です。
この結果、
・海の上に層状の雲ができているのは見たことが無い
・山の方に霧雲ができているのは見たことがある
という意見が多く、桜島斜面で雲ができている可能性が高いとわかりました。
雲発生時の気象条件の仮説を立て、実験で検証
次に、2地点からの同時撮影を行いました。アプリを用いて遠隔操作で国分高校と、鹿児島湾をはさんだ対岸にある竜ヶ水駅から同時に雲を撮影しました。
写真では、国分高校からは桜島の右に、竜ヶ水駅からは桜島の左に雲が見えます。これらと2地点の位置関係から、層雲は桜島の北側斜面で発生していることがわかります。
次に、層雲の発生条件について調査し、グラフ化しました。桜島には観測地点がないため、最も近い鹿児島地方気象台のデータを用いています。
気圧は、層雲ができている時間帯に上昇していることがわかります。通常は気圧が上昇すると天気が回復する傾向にあります。
一方、気温は層雲ができている時間帯に低下しています。
相対湿度は、層雲ができている間に、80%から100%と非常に高くなる傾向が見られます。
風速は、層雲ができている間、だいたい風速3m/sと、非常に弱いことがわかります。
これらの調査の結果、雲は桜島斜面にできていること、発生前日に雨が降るなど極めて湿度が高いこと、当日は朝方の気温が低くなり、風が弱く、天気が回復した日にできやすいことがわかりました。
このことから、雨が降った翌日、早朝晴れていて、放射冷却によって冷えた空気が山の斜面を下降したときに、錦江湾城の暖かい空気とぶつかって移流逆転層が起き、層雲が発生したのではないかという仮説を立てました。
そして、仮説を検証するため、錦江湾に向かって桜島の斜面を冷気が下降する様子を再現できる実験装置を製作しました。
26度の水が入った水槽で錦江湾の海水を再現し、段ボールを桜島の斜面に見立て、ドライアイスで斜面を下降する冷気を再現しました。また、100%近い湿度を再現するため、蒸しタオルをかぶせました。
再現実験の結果、写真のように、斜面上に層状の雲が発生する様子を観察することができました。逆転層により上層に暖気があるため、雲は上昇できず、横方向に広がっているのがわかります。
山の斜面の冷気と海の暖気が接して「移流逆転層」が作られ、一直線の雲が発生する
海は比熱が大きいため、放射冷却が起きづらく、海上には暖かい空気がとどまります。しかし桜島の斜面では放射冷却が起きるので空気が冷やされ、斜面に沿って下降します。下降した冷気は、海上の暖気の下にもぐり込んで移流逆転層が生まれ、冷気と暖気の間には雲が発生します。
このように、桜島で見られる層状の雲は山の斜面の冷気が錦江湾上の暖気と接し、移流逆転層を形成することで発生したものであることがわかりました。
なお、これは姶良カルデラ独特のもので、例えば阿蘇カルデラのように内部が陸地の場合は、放射冷却によって内部全体に接地逆転層が生じ、雲海が発生します。
桜島で見られる層雲について、日によって層雲の発生高度や形状が異なっていたため、今後は実験の条件を細かく設定し、より詳細な層雲の形成条件を特定したいです。また、他の地域でも同様の層雲の形成報告がないか調査したいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
写真部の先生から、錦江湾に浮かぶ横一直線に伸びる雲の写真を見せていただき、特に朝方にこのような雲が発生していることを聞きました。なぜこのような低い位置に横一直線の雲が発生するのか、どのような条件でこの雲が発生するのか疑問に思ったため、研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
研究を始めたのは、2016年の4月頃からです。実験に使用するドライアイスを注文し、届くまでに時間がかかっていたので、毎日での実験は難しかったのですが、ドライアイスが届いてからは、実験が行える日は、放課後の約2時間を使って実験を行いました。
■今回の研究で苦労したことは?
桜島への聞き込みや、桜島の見える施設の屋上にカメラを設置し、動画を見て層雲ができていた日の記録を行ったことなどが挙げられますが、やはり一番苦労したのは実験です。どのような実験装置を製作すれば層雲を再現することができるのか、様々な実験装置の形態を考え、何度も試行錯誤しながら繰り返し実験を行いました。気温や湿度などの調整が難しく、実験が成功しない日々が続き不安になりました。しかし、諦めずに何度も実験を行い、実験が成功したときはとても嬉しくて、班のみんなで喜んだことは今でも印象に残っています。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
実験装置は、水槽などを除いてほとんど学校で揃え、道具の数や位置などを自分たちで調整しながら工夫して行いました。口頭発表で使用するスライドでは、実験で成功した写真を複数載せたり、動画も1つだけではなく、2つ載せたりしました、姶良カルデラの特異性などのスライドも取り入れ、見ている人が理解しやすいようにしました。中でも見てほしいのは、研究の中で一番苦労した実験の写真や動画です。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「スクエア最新図説地学 二訂版」西村祐二郎、杉山直(第一学習社)
・秋田地方気象台
http://www.jma-net.go.jp/akita/koso/koso_14.htm
・気象庁 [過去の気象データ検索]
http://www.jma.go.jp/jma/menu/menureport.html
■今回の研究は今後も続けていきますか?
私たちは、3年の8月で引退するので、課題研究は終了となります。今後、後輩たちがこの研究に興味を持ってくれたら嬉しいですし、それぞれの班の研究に一生懸命取り組んでいってほしいと思います。
■ふだんの活動では何をしていますか?
1、2年では、主にサイエンス研修やサイエンスフェスタなどの活動が挙げられます。1年のサイエンス研修は、天降川の水質や地質などについて理解を深め、2年のサイエンス研修は鹿児島大学に行き、大学の先生方に自分たちの発表を聞いていただき、指摘やアドバイスなどをいただくという活動です。サイエンスフェスタは1、2年合同で、地域の子どもたちに様々な実験で遊んでもらい、サイエンスの楽しさを知ってもらおうという活動です。文化祭では、サイエンスに関わる展示などをしています。
■総文祭に参加して
「総文祭」に出場できると決まったときはとても嬉しくて、もっと頑張らなければと研究を進めていきました。残念ながら賞をとることはできませんでしたが、今まで雲班のみんなでしてきた課題研究の活動は、忘れられない大切な思い出です。各都道府県の高校生の発表を聞けたり、交流をしたり、ここでしかできない体験がたくさんできて本当によかったです。
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