みやぎ総文2017 自然科学部門

コオロギの行動 24 時間大追跡 ~タイムラプスの分析から見えてきた不思議な現象

【生物】福岡県立東筑高校 生物部

(2017年8月取材)

左から 大和道子さん(2年)、井上瑞喜くん (2年生)
左から 大和道子さん(2年)、井上瑞喜くん (2年生)

■部員数 4人(1年生2人・2年生2人)

■答えてくれた人 井上瑞喜くん(2年)

 

コオロギの行動 24 時間大追跡-タイムラプスで分析する不思議な現象-

不思議な現象に気づいた

私たちは亜熱帯性のフタホシコオロギをプラスチックケースで飼育しています。ある日、ケースの中心にコオロギの死体や糞があたかもホウキで掃き集められたかのように集中していることに気が付きました。

 

そして、いったん気付くとこの奇妙な現象はいつも起こっていることがわかりました。これは偶然起こるものなのか、それともコオロギが意図的に墓場のようなものを作っていたのか、また、いつそのような行動をしているのか、様々な疑問が生まれました。

 

最終的には集まった死体の謎の解明を目指しますが、今回は

1.フタホシコオロギの一日の行動を明らかにする

2.死体に対する反応を明らかにする

の2つを目的として、実験を開始しました。

 

研究には一定の時間間隔でシャッターを切るタイムラプス撮影を導入し、以下の2つの実験を行いました。

 

実験1.コオロギ1個体の24時間の行動を、以下の2つの条件で撮影し、個体の活動範囲・活動量の時間変化・活動位置の時間変化を比較する

A.コオロギがいて、死体がない

B.コオロギがいて、死体がある

実験2.複数の生きた個体が、複数の死体にどのように反応するかを撮影し、死体の移動の観点から画像を分析する

 

1つの個体の行動を24時間一定の間隔で撮影して分析

まず、1つの個体の行動観察です。飼育箱の中にオス1個体を入れ、まず何もない時のコオロギの行動を見るため、Aは死体なし、Bは死体ありで、10秒間隔で24時間撮影を行いました。

 

赤い丸で囲んだ黒い点がコオロギです。

 

この実験で得られる画像データは、10秒で1コマ、1分で6コマ、24時間分で8640コマですから、これを5個体。A、Bの実験で合計8万6400コマと膨大です。はじめは、これらを手作業で分析しようとしました。

 

画面上のコオロギの位置に1点1点印をつけ、最後はデジタルカウントメーターでなぞって動いた範囲と移動距離を出そうとしましたが、ものすごく時間がかかりました。

 

 

そこでパソコンソフトのVisual Studioを用いることに変更しました。コオロギの映像の上でクリックすると画面に赤い点がつき、座標が数値として記録されていきます。

 

 

その座標データをExcelに入れ、2点の間の距離を計算していったところ、最も活動していたコオロギは、1日で何と1kmも動き回っていました。体長3cmで1kmというと、身長170cmの僕に換算すると56km。これは、ここ石巻から仙台までの距離より遠いです。ものすごく動いています。

 

死体がある時とない時は行動パターンが違う

夜は弱い照明を点け、24時間撮影しました。コオロギは動き回ったりじっとしたり、翅をこすって鳴いたりしていました。死体のある場合は、コオロギは、死体の頭を外して食べています。食べながら引きずって死体の位置を変えています。死体はバラバラになりました。

 

1個体の活動範囲の分析結果です。コオロギのいた位置に赤い点が残ります。

 

容器底面を中央部と周辺部に分けてどちらにいたかを見ると、死体がない時はほとんどの時間、容器の周辺部にいました。しかし、中央に死体のある時は、中央部の存在回数が増えました。

 

中央部と周辺部の存在回数を比較したグラフです。左が死体のない時、右が死体のある時の結果です。赤が中央部、青が周辺部にいた回数です。共に周辺部にいた回数は非常に多いです。赤の中央部のグラフを見ると、死体の有無であまり差がないように見えますが、カイ二乗検定では、有意に差がありました。

 

 

下図は、中央部の存在回数だけを個体別に測定し、比較したものです。

 

個体No.9は死体がなくても中央部にいた回数が多かったのですが、他の4個体では、死体がない時よりもある時の方が、最大で4.7倍多く中央部に近づいていました。すなわちコオロギは容器の周辺部で活動するものの、死体があると、わざわざそこに近寄るということがわかりました。

 

コオロギは昼間によく動く!

次に活動量の時間変化です。図はNo.6の1日の活動量です。図の横軸は時刻を示し、左から夕方の6時、夜、朝の6時、昼、次の日の夕方の6時です。縦軸は10分間の移動距離を示します。

 

 

これを5点移動平均でスムージング(5つのデータで平均を取る手法)しています。

 

死体がない場合は、 どの個体も夜間の活動量は少なく、明け方から増え、ある時間にピークがありました。ピークに周期性を感じさせる個体もいました。一方、死体がある場合は、1日を通して活動していました。

 

死体のある時の活動量の合計は、死体がない時の最大3.0倍でした。つまり、コオロギは日中によく活動し、死体があると夜の活動量も多くなるということです。先行研究ではフタホシコオロギは夜行性といわれています。しかし、私たちの実験では昼行性という結果でした。

 

 

次に活動位置の分析です。

 

容器の底面はX座標のおよそ180番地から1100番地、Y座標の30番地から700番地の位置にあります。コオロギは右回りや左回りにグルグル回ったり、中央の死体に立ち寄って反対側の壁に行ったり、様々な動きをしていました。

 

コオロギの動きを単純化するため、X座標方向でどう動いたかをグラフ化しました。

 

これは、死体なしの5個体分のX座標の時間変化を示すグラフです。図の横軸は時刻を示し、縦軸はX座標の数値を示します。大きい値が容器の右側、小さい値が左側です。画面左側は概ねグラフが白く見え、右側は全体的に青く見えると思います。夜間は動かず、昼間はウロウロしているといえます。

 

 

下図は死体がある時のグラフです。死体は中央に置きました。Aの場合よりも左右をよく移動しています。そして中央に線が出ています。これは中央にいた時間が長いということを示します。

 

個体差はありますが、1日で平均342回、時間にすると5分に1回の頻度で死体に接触していました。

複数のコオロギで死体を動かしていた!

複数の生きた個体と複数の死体の実験です。

 

撮影は3分間隔で行い、コオロギの死体を容器の片隅に4個体、対角に1個体置き、生きたオスを入れて反応を見ました。画像では死体に白の点が打ってあります。

 

時間経過に伴う死体の移動にご注目ください。時間が経つにつれて死体は壁から離れ、中央寄りに移動させられていることがわかります。左下の1つの死体も中央寄りに移動しています。

 

まとめと考察~なぜ死体を壁際から真ん中に移動させるのか

今回の目的である、フタホシコオロギの1日の行動、死体に対する反応についてまとめます。

・コオロギは昼間に活動量が増加する

・壁際を好み、死体に近づいて食べ、死体を引きずる

・時間経過とともに死体や糞は移動する

 

以上のことを繋ぎ合わせると、そもそもの疑問「なぜ死体が中央に寄るのか」は、コオロギは自分たちが好む壁際を避けて死体を置くためであると考えられます。

 

しかしそれでは大きな容器のど真ん中に死体が集まるしくみとしては甘いと考えます。

 

タヌキは糞の上に糞をしたがる習性をもち、貯め糞をします。カラスには獲物を隠しておく習性があります。

 

私たちは、フタホシコオロギが食料貯蔵の目的で特定の場所に死体を集めているのではないかと感じています。この解明は今後の課題です。

 

また、フタホシコオロギが夜行性とされていることについてですが、今回の実験ではすべての個体で昼間に活動が増えました。データを見た時に、何かを間違えたかなとも思いました。しかし、なぜそうなったかを考えるため研究者に実験方法を問い合わせたところ、先行研究では振動を測定して活動量としていました。

 

確かに夜はよく鳴いていて、振動が検出されています。鳴くときは体の位置を変えないので、私たちの移動距離の測定では活動量として検出できません。しかし、今回の結果は無駄ではないと思います。

 

日中の移動は検出できたわけですから、昼間に行動していないわけではありません。それは、餌取りのためかもしれません。

 

コオロギは夜にはよく鳴いており、それは、生殖のためかもしれません。活動量を比較することで、コオロギの昼と夜の行動の質の違いが見えたと思います。

 

今後も引き続きコオロギの習性を明らかにしたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

東筑高校では数年来コオロギを飼育していて、毎年異なる視点からの研究をしています。私たち2年生はある日、コオロギの死体や糞が、ほうきで掃き集められたかのように飼育箱の中央に集中していることに気づきました。これは偶然か、それともコオロギが意図的に死体を集めているのか疑問に思い、研究テーマにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

平成28年4月から、1日約2時間で1年間行いました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

膨大な量のデータを処理することです。コオロギの位置を座標化するため、1点1点確認しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

画像分析の手法を確立するのに、いろいろ試行錯誤しました。例えば、カメラの種類、タイムラプス撮影の最適な時間間隔、カメラの感度、夜間の照明をどうするか、等です。本当は夜間を暗黒にしたかったのですが、カメラの感度の関係で弱い照明が必要でした。

 

それから、画像の分析方法です。はじめは手作業で、移動した軌跡を透明シートに書き写して、移動距離をデジタルカーブメーターで測っていましたが、処理に時間がかかりすぎるので、ソフトの使い方を練習して、PCで処理しました。刻々と変化する生物の行動を、どのように記録したか、どのような切り口で分析したか、そしてわかったことは何かを見てほしいです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「昆虫の脳を探る」冨永佳也編著 (共立出版)

富岡憲治(1984)「活動リズム記録法の問題点」.動物生理,vol1:no.1:16-19.

「研究者が教える動物実験 第3巻 行動」日本比較生理生化学会編集 (共立出版)

「昆虫はスーパー脳」山口恒夫監修 (技術評論社)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

2年生はこのテーマで研究を続けて、コオロギの習性をより明らかにしたいと思います。1年生のチームは別の研究をしています。頑張ってほしいと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

文化祭や大会発表以外は常に研究です。コオロギたちと戯れています。

 

■総文祭に参加し

 

全国大会に出場できたのは貴重な経験でした。たくさんの学校がいろいろな研究を頑張っていて、詳しく内容が聞けて良かったです。大会を運営してくださった宮城県の生徒さんや先生方がとても親切でした。感謝しています。この経験を今後の活動に活かしたいと思います。

 

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