【生物】富山県立富山中部高校 SS(スーパーサイエンス)部
(2017年8月取材)
■部員数 10人(1年生5人・2年生3人・3年生2人)
■答えてくれた人 平井泰蔵くん(2年)
ホタルイカは富山湾に生息し、発光器を持つイカの一種です。ふだんは水深200m以下に生息していますが、春になると産卵のため浅い海に上がってきます。
また、浜に打ち上げられる様子は「ホタルイカの身投げ」と呼ばれており、その神秘的な光景は国の特別天然記念物にもなっています。
予測しづらいホタルイカの漁獲量をデータで読み解く
しかし、ホタルイカ漁は日によって獲れるホタルイカの量が大きく異なり、漁師さんも未だ予測は難しいとおっしゃっていました。それを聞き、僕たちは身近な要因でホタルイカの漁獲量を予測できないだろうかと考えました。もし予測できれば、漁師さんが効率よくホタルイカを獲る工夫ができるようになると思ったからです。そこで、富山県民や富山の漁師の間で古くから伝わる言い伝えを仮説として、様々な外部環境のデータとホタルイカの漁獲量の相関を見つけることにしました。
調査期間は2014年と2017年の3月25日から5月31日までの各68日間。気温や降水量をはじめとする気象データなどを調査しました。そして、それらのデータと翌朝のホタルイカの漁獲量のデータの関係から、ホタルイカの漁獲量は前日のどのような要因に影響を受けているのかを調査しました。
仮説1:天気が良く、雨が降っていなかった日の翌日に多く獲れるのでは?
天気そのものを数値として表すことは困難なため、関連性のある気温と日照量を考えました。天気が良い日は気温が高く、日照時間が長いからです。
下図は気温と漁獲量の関係を見たグラフです。しかし、このグラフからわかるとおり、大きな相関は見られません。また、日照量と漁獲量も同じように大きな相関は見られませんでした。
そこで、降水量と漁獲量の関係に着目しました。グラフは左の縦軸に漁獲量、右の縦軸に降水量、横軸に調査日を示したものです。このグラフから、1日に20㎜以上の雨が降る日に漁獲量が少ない日が多いことがわかります。これは2014年も2017年も同様の結果になりました。
表1は、1日に20mm以上の雨が降った日と、そうでない日の平均値です。この表からも1日に20mm以上の雨が降るとホタルイカの漁獲量が減少する傾向にあることがわかります。
以上のことから「天気が良く、雨が降っていなかった日の翌日に多く獲れる」というよりも、「1日20mm以上の雨が降った日の翌日はあまり獲れない」という方が正しいと言えます。
次に、下図は降水量と漁場付近の海水の塩分濃度の関係を見たグラフです。降水量が多いと、比重が低くなっていることがわかります。
下のグラフは左の縦軸に漁獲量、右の縦軸に比重、横軸に調査日を表したものです。このグラフからも漁獲量が少ない日の前日は、塩分濃度が低くなっていることがわかります。このことから、ホタルイカの漁獲量は塩分濃度や降水量に影響を受けていることが見えてきました。
それは、どうしてでしょうか。塩分濃度(比重)が低いと卵が正常に発生しなくなる可能性があり、ホタルイカが産卵をするために海面に上がるのを避けるのではないかということが、理由として考えられます。
仮説2:昼に北からの風が吹き、夜に南からの風が吹く日に多く獲れるのでは?
私たちは仮説2を検証するために、昼夜の風向きのデータを北寄りと南寄りに分けて比較しました。
結果がこちらです。2014年も2017年も、仮説の該当日、すなわち表3の赤字の部分は他の条件の日よりも多く獲れていることがはっきりとわかります。
よって、「昼に北からの風が吹き、夜に南からの風が吹く日に多く獲れる仮説は正しい」と言えます。
富山県では昼に北寄りの風が吹き、夜に南寄りの風が吹くことを「海陸風」といい、海陸風は天気が穏やかな日ほどよく現れます。しかし、風向きと漁獲量の関係を見ると、昼夜共に南寄りの風が吹く日も漁獲量が多く、逆に、夜間に北寄りの風がある日は漁獲量が少ないことがわかります。
この原因として、僕たちは漁の網の向きに着目しました。
ホタルイカ漁では定置網の入り口が南にあります。そのため、ホタルイカが上がってくる夜間に南寄りの風が吹くと、産卵を終えて沖へ戻ろうとするホタルイカにとっては追い風となり、網に入りやすくなります。逆に北寄りの風が吹くと向かい風となるため、網に入りにくくなるのだと考えました。
仮説3:夜に満潮になる日に多く獲れるのでは?
この仮説の検証には、干満時刻とその時の潮位と漁獲量の関係を調べました。
表4-1は2014年の3000㎏以上の漁獲量を記録した日の潮位と干満時刻を表したものです。数値の下に線が引いてあるものは満潮、引いていないものは干潮を表しています。漁の時刻は深夜2時頃なので、漁の直前や直後に満潮を迎える日が多いことがわかります。2017年(表4-2)も同様の結果が得られました。
仮説4 : 新月の日は「身投げ」が多く、月が出ている日は、漁獲量が多いのでは?
これは残念ながら身投げのデータがなく、直接検証することはできませんでした。しかし僕たちは新たな発見をしました。
下のグラフは左の縦軸に漁獲量、右の縦軸に潮位、横軸に調査日を表したものです。そして横軸には新月と満月の日も表しました。また棒グラフが黄色になっている部分は夜間に月が出ていたと思われる日で、青色の部分は夜間に月が出ていなかったと思われる日です。
※クリックすると拡大します。
グラフからわかるようにホタルイカの漁獲量は、月が出ているかどうかに影響を受けるとは言えません。しかし、新月や満月の日の前後にホタルイカの漁獲量が圧倒的に多くなっていることがわかります。これは2014年も2017年も同様の結果です。
新月や満月の日は、地球の引力により、干満差の激しい大潮となります。よってホタルイカは大潮の時、または満潮の時に多く獲れることがわかりました。
これはホタルイカが干満差の激しい大潮の時、もしくは潮が満ちるタイミングを利用して海面付近に浮上しやすくなるからではないかと考えました。
天気・風向き・潮の満ち引きが漁獲量を左右する
今回の調査から、ホタルイカの漁獲量が多い日は、天気の穏やかな日の翌日で夜間に南寄りの風が吹く日、また漁のころ満潮になる日や干満差の激しい大潮の日であることがわかりました。逆にホタルイカの漁獲量が少ない日は、前日に雨が降る日や夜間に北寄りの風が吹く日であることがわかりました。
今後は複数の要因を組み合わせたり、塩分濃度や風向きなど、富山の地理的要因と結び付けたりしてこの研究をさらに発展させていこうと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
元々は、部員の1人が中学生の時に自由研究で取り組んだテーマでした。高校生になり、中学生の頃よりも深く研究できるので、地元にも深く関わりのあるこの研究を改めてしたいという熱意が他の部員にも伝わり、2年生3名でこの研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日当たり2時間で15か月です。
■今回の研究で苦労したことは?
データの量が多く、また、分析しても思うような結果がなかなか出ず、苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
膨大な量のデータを分析している点を見てほしいです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・気象庁HP http://www.jma.go.jp/jma/index.html
・「ホタルイカ 不思議の海の妖精たち」山本勝博:著、稲村修:監(桂書房)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
続けていきます。現在調査している要因が気象に関することだけなので、富山の地理的要因とも結びつけて調査していきたいと思います。
■ふだんの活動では何をしていますか?
2匹のカメと1匹のスポッテッドガー、1匹のノドグロ、3匹のメダカ、多数のキンギョの世話をしながら、それぞれグループで実験をしています。
■総文祭に参加して
全国の高レベルな研究に触れることができ、とても良い刺激となりました。また出場できるように、これからも研究をよりよいものにしていきたいと思います。
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