みやぎ総文2017 自然科学部門

前後の音を聞き分けられるのはどうして? 「聞こえ」の不思議に迫る!

【生物】新潟県立長岡高校 生物部

(2017年8月取材)

■部員数 15人(1年生3人・2年生5人・3年生8人)

■答えてくれた人 河野礼奈さん(3年)

 

耳の研究 ~なぜヒトは前後の音を聞き分けられるのか~

私は中学2年生の時からこの研究を始めました。まず、中学時代の実験の内容を説明します。

 

左の絵を見てください。右の耳までの距離L1と、左の耳までの距離L2は異なります。だから、人は恐らくその差を利用して音源の位置を特定しているのでしょう。

 

それに対し、右の絵ではどうでしょう。前後で音が鳴っている場合、前後の距離が一緒なら、右の耳までの距離L1とL3、左の耳までの距離L2とL4は同じで、音が届く時間に差はありません。

 

それではどのようにして人は音源の位置を特定しているのでしょうか。

 

私はまず、

疑問(1) 人は本当に左右や前後を聞き分けているのか。

疑問(2) 聞き分けているとするとどのように聞き分けているのか

の二つの疑問を設定しました。

 

キッチンタイマーとスピーカーを使って聞き分け能力を確認

まず、疑問(1)の追求です。通常はどのようにして音の方向を当てているのかを調べました。

 

方法は中央で1人に回転してもらい、もう1人にAからHの8つの位置のどこかから「あー」と言い続けてもらいます。結果は、全員言い当てることができました。

 

また、どうやって言い当てたのかを聞くと、人は音が大きく聞こえる方向を向いて確かめているということがわかりました。

 

次に、体や顔を動かさないとどうなるかを調べるために、キッチンタイマーを用いて時間をずらして設定し、実験をしてみました。すると、先ほどと同様に全員言い当てることができました。

 

この二つの実験から、人は本当に左右や前後を聞き分けていることがわかります。しかし、このキッチンタイマー法はあまりにも手間がかかり、間違いやすく、自動化が必要だと感じました。

 

そこで私はスピーカーとパソコンでランダムに鳴らすスピーカー法を考案しました。

 

スピーカーを写真のように八角形に並べ、中央にキーボードを置き、テンキーのところにピンクのシールを貼り、音が鳴った方向のキーを押すとコンピューターが記録するようにしたのです。

 

この左のピンクの表はコンピューターが音を鳴らす順番で、「乱数」というボタンを押すとランダムに赤丸がつきます。一つの方向に2回ずつ鳴らすようにしました。

 

また緑の表はどの方向から音が聞こえたか、被験者が押したキーボードを記録する表です。

 

※クリックすると拡大します。
※クリックすると拡大します。

前後左右を聞き分けられるヒミツは「耳介」にあり

次に疑問(2)の追求に移ります。

 

人はどのように前後を聞き分けているのでしょうか。私は以下の3つの仮説を考えました。

 

A.耳介仮説:耳介という耳の立っている部分(通常私たちが「耳」と呼んでいる部分)が音に何らかの変化を与えているという説。

 

B.顔面仮説:顔面で音を感じ取っているという説。

 

C.音質仮説:前後の音質に違いがあるという説

 

そこで、条件を変えて6種類の実験を行い、t検定を行ったところ、統制群Dと実験群Eでは、この差が偶然に起こる確率が5%以下という結果になりました。それ以外はよくわからない、または有意水準5%にわずかに達しないという差になりました。

 

このことから、人は耳介で前後左右を聞き分けているということがわかりました。

 

ここからは高校の内容です。すると新たな疑問が生まれます。なぜ耳介によって前後の音が区別できるのでしょうか。

 

耳介が前後左右の音を区別するしくみとは?

私は二つの仮説を考えました。耳介高音カット仮説と、記憶が関係している仮説です。

 

まず、一つ目の耳介高音カット仮説です。

 

高音の場合、周波数が大きいため、耳介に当たっても音が回り込まず鼓膜まで音が届きません。それに対して、低温の場合は周波数が小さいため、耳介に当たっても回り込み鼓膜までしっかりと音が届きます。つまり、前から聞こえる音はスッキリとした音に、後ろから聞こえる音はこもった音に聞こえるというものです。

 

次に二つ目の記憶が関係している仮説です。

 

人が何度かその音を聞いている場合、その記憶の音と比較して、例えば記憶の音と同じならば前、それよりもこもっていれば後ろと判断するというものです。

 

検証実験を行いました。

 

まず一つ目の「板を回り込む音」は、高音がカットされたかどうかを調べます。検証方法はマイクで音を拾い、コンピューターで分析することにしました。写真のようにマイクにホースを取り付け、タオルで周りからの音を遮断します。

そして下図の左の模式図を元に実験装置を組み立てました。プラスチックの板は耳介、ホースは鼓膜までの外耳道、マイクは鼓膜に相当し、ブザー音をパソコンに取り込みます。 

するとこのような結果が得られました。

 

板で遮らないものは3つの音で構成されていることがわかります。それに対し、板で遮ってみると高音ほどカットされていることがわかります。 

 

実際にその録音した音を聞いてください。遮らなかった時ははっきりとしたブザー音、遮った時の音はこもったブザー音であることがわかります。

 

◆遮らなかった時のブザー音

◆遮った時のブザー音

次に原音の「記憶」の検証実験です。

 

方法はブザー音を初めて聞く生徒40人を4群に分け、前後どちらかから1回鳴らし、聞こえた方向を旗で示してもらいました。「スッキリ音」とはブザー音を板で遮らないもの。「こもり音」とは板で遮ったものです。例えば実験群1では、スッキリ音を前から聞かせるという見方になります。

 

結果はこのようになりました。

 

スッキリ音を前から聞かせた場合のみ100%。それ以外は有意水準5%にわずかに達しない差となったため、正解率50%の誤差の範囲内と言えます。

 

※クリックすると拡大します。
※クリックすると拡大します。

これで「耳介高音カット仮説」は検証することができました。

 

しかし、「記憶が関係している仮説」は、私の予想では全て50%になると考えていたのですが、スッキリ音を前から聞かせた場合のみ100%となったことから、この「その音と比較して同じなら前、こもれば後ろ」という部分が違うことがわかります。

 

そこで、「スッキリ音を前から聞かせた場合のみ100%ということから、聞いた音に耳介でカットされるはずの高音が入っていれば前と判断」「それ以外は50%ということから、聞いた音に耳介でカットされるはずの高音が入っていなければ正しく判断できない」と仮説を修正しました。

 

修正実験を行いました。

 

これまではブザー音を初めて聞く生徒40人を4群に分けていたのですがそれを修正し、ブザー音を初めて聞く生徒を4群の中から、音を一つ選びあらかじめ聞かせてから16群に分け、前後どちらかから1回鳴らし、聞こえた方向を旗で示してもらうことにしました。

 

例えば、実験群1ではあらかじめスッキリ音を前から聞かせ、その後にもう1回スッキリ音を前から聞かせます。そして、その二つの音を比較してもらい前後を判定してもらうというものです。

 

仮説が正しければ、下図のようなグラフになります。

 

例えば1回目に前からこもり音を聞かせ、2回目に前からスッキリ音を聞かせた場合、1回目のこもり音は高音があまり含まれておらず、2回目のスッキリ音の方が高音が含まれているので、100%となります。

 

また、1回目にこもり音を前から聞かせ、2回目にスッキリ音を後ろから聞かせた場合は、1回目にこもり音を前から聞かせた時と同様、高音があまり含まれていないので50%、となるはずです。 

結果はこのようになりました。多少誤差はありますが、仮説は検証することができました。

 

まとめ~検証手法の開発と耳介の役割を解明

聞こえ方を調べるために、キッチンタイマー法、スピーカー法の開発をしました。

 

またこの研究は人の感覚に関わるため、実験を組み立てたり、結果を示したりするのが難しかったのですが、音の方向の当否を点数化、視覚化する方法を開発しました。

 

また、顔や体の向きを変えられる場合、人は顔や体の向きを変えて音を当てていること、変えられなくても前後左右を聞き分けられること、前後の聞き分けには耳介が関係しており、聞こえる音に耳介でカットされるはずの高音が入っていれば前と判断し、入っていなければ前後を正しく判断できず適当に前や後ろを判断するということがわかりました。

 

疑問に残ったことは、聞こえる音に耳介でカットされるはずの高音が入っていれば前と判断し、入っていなければ前後を正しく判断できないため、体や顔の向きを変えるなどして音の方向を当てているのではないかというものです。まだこれは仮説の段階なので、今後機会があれば検証していきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

私は中学の時、吹奏楽部に所属しており、先生に「楽器を吹く時は周りの音を聞いて吹きなさい。」と言われていました。それで自分が前後の楽器の音を聞き分けていることに気づき、調べようと思いました。

 

左の絵のように、右の耳までの距離L1と左の耳までの距離L2は異なります。だから、ヒトはおそらく、その差を利用して音源の位置を特定しているのだろうと考えました。それに対して、右の絵のように、前後の音は、前後の距離が一緒なら、この絵のように右の耳までの距離L1とL3・左の耳までの距離L2とL4は同じで、音が届く時間に差はありません。そこでヒトは本当に前後左右を聞き分けているのか、聞き分けているとするとどのように聞き分けているのかを調べることにしました。 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

中学2年生(2013年)から始めました。1日何時間というよりは、夏休みなどの長期休みに詰め込みました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

人の感覚に関わるために個人差などがあり、それをどのようにまとめてデータ化するのかを決めるのが大変でした。また、実験装置のプログラムや組み立てなども大変でした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

データ化し、図に表す時にわかりやすくなるように心がけました。また、少しでも個人差を減らすためにできるだけ仮説を多く立て、実験方法にもこだわりました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

「ぜんぶわかる人体解剖図」坂井建雄、橋本尚詞(成美同出版)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回の研究ではまだ自分の納得できるような結果が出てないので、これからも機会があったら続けていきたいと思っています。今、新たな仮説は立っていますが検証できていない段階にいるので、実験、考察、仮説立てを大切にし、これからも地道に作業していきたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

研究、生き物や植物の飼育、生物学オリンピックへの参加、フィールドワークなど。

 

■総文祭に参加して

 

全国から集まるだけあって、地域の特色を生かしたものや、大学に協力してもらったものなど様々な研究があって、とても面白かったし、勉強になりました。また、ハイレベルな研究がたくさんあって刺激を受けました。今回、様々な意見や質問を受けることができたので、これからの研究に生かせていけたらいいなと思います。今後、この研究が少しでも多くの人の役に立てるように、がんばっていきたいと思います。今回の大会は自分にとって、大きなものになりました。審査してくれた審査員の皆さんや、運営に携わってくれた実行委員の皆さん、指導してくれた先生に感謝したいです。

 

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