(2016年7月取材)
■部員数
12人(うち1年生4人・2年生4人・3年生4人)
■答えてくれた人
緑川杏莉寿さん(3年)
アカハライモリは環境省のレッドデータブックで準絶滅危惧種に指定されている両生類です。
赤いお腹に黒い斑紋がありますが、この模様は人の指紋のように1匹ずつ異なり個体識別が可能であると言われます。このことを使って、将来は個体別の行動について探っていこうと思っています。
今回の発表では10年以上に渡って撮影された写真を比較し、個体の数や模様の特徴を考察すると共に、本当に模様は変化しないのかについて調べました。
調査地は3カ所で、香取市新里は開けた水田脇の水路、匝瑳(そうさ)市宮本は林の中の池、そして私たちのフィールドである市原市犬成は休耕田の水たまりです。
香取市新里と匝瑳市宮本では、それぞれ写真データをいただき、個体識別のみ行いました。
市原市犬成では、個体識別のほかに、胃の内容物を取り出しての食性調査も行いました。アカハライモリを採集し、まず麻酔をかけて長さと体重を測り、胃の内容物を取り出して、最後に麻酔から覚めたことを確認し現地へ放します。
個体識別~地域によって模様に特徴がある
個体識別では、撮った写真を学校へ持ち帰り1匹ずつ比較しました。このグラフは捕獲数を雌雄別に色分けをして示したものです。赤が雌で青が雄です。香取市新里は10年間、匝瑳市宮本は6年間、市川市犬成は毎月調査を行って約1年間のデータです。
市原市犬成では毎月60匹近く採れており、全体的に見ると雄と雌の割合は2:1でした。
※クリックすると拡大します
次に個体識別の結果です。香取市新里の5回目に捕獲された全個体を紹介しています。そして、6回目に捕獲された個体で、5回目と模様が一致した個体が右下の写真です。赤丸同士と青丸同士が同一個体で、次のスライドがそれを拡大したもの。喉の中央にある斑紋や脇腹にある斑紋が一致していることがわかります。
匝瑳市宮本の1回目と2回目では5個体、市原市犬成の1回目と2回目では7個体の模様が一致していました。
この表は、再捕獲された個体の一覧です。再捕獲回数は匝瑳市宮本の7回が最大で、1回のみ捕獲された個体が大半を占めており、再捕獲率は香取市新里が約10%、匝瑳市宮本と市原市犬成が約20%となりました。再捕獲法を用いて個体数を推定したところ、香取市新里が650匹、匝瑳市宮本が340匹、市原市犬成が120匹となりました。
次に腹面の赤い地と黒い斑紋の面積の割合を求めるために、アカハライモリの写真を画像処理ソフトのPhotoshopに取り込んで、頭と排泄孔から上だけの写真にしてピクセル数を数えました。
上の個体は赤い地の面積のピクセル数が約45000で、黒い斑紋の面積が約42000です。赤い地の面積の割合は0.55でした。また斑紋の数え方は、円が繋がっているものとみなして数えて、上の写真の個体は22、下の個体は35と考えました。
こうして求めた腹面全体に対する赤い地の割合を横軸、斑紋の数を縦軸にして分散図を作りました。香取市新里では、全体的に腹面の赤い地の割合が高い個体が多く、斑紋の数も最大40~最低8とばらつきがありました。匝瑳市宮本も、香取市新里と同じような結果です。
それに対して市原市犬成では、赤い地の割合が低いものが大半を占めていて、斑紋の数も40~20とまとまっていて、他の2か所と比べて腹面が黒いものが多くいました。
模様は調査期間中ほとんど変化しない
次に模様の変化についてです。3調査地の斑紋の増減をまとめたものです。全体の0.5%、9匹のイモリが斑紋の数が増加しており、全体の0.1%、2匹のイモリが斑紋の数が減少しています。残りの、全体の99.4%のイモリは斑紋の数に変化はありませんでした。
次に、これはごくわずかの斑紋が変化していた例です。左の個体は、矢印の部分には2002年の時点では斑紋がないのですが、2005年には一つ増えていることがわかります。右の個体は、矢印の右下の丸い斑紋が2年後には中央が薄くなっていることがわかります。
次に私たちは、腹面の模様が似ている個体同士の遺伝子のパターンは似ているのではないかと考え、アカハライモリの尾の先端を切り取ってミトコンドリアDNAの解析を行いました。シトクロム領域を解析して比較した結果、3つの調査地でイ、ロ、ハ、ニの4つのタイプが見つかり、3調査地でタイプの違いが見られました。また、CR領域(※)も比較しましたが、CR領域は96個体全て同じでした。結果としては、個体ごとの遺伝的多形は発見できませんでした。
※CR領域は、ミトコンドリアDNAで遺伝情報として機能していない部分。昨年の総文祭で発表したトウキョウサンショウウオでは、同一個体群内でも塩基の変異が見られたため、個体識別との関連を調べることにしました。
食性~昆虫が中心で、あまりえり好みせず食べる
これはアカハライモリが食べていた餌の例です。
水生の生物では、6cmくらいの大きさのガガンボの幼虫や、1匹の中から50匹近くのユスリカの幼虫が出てきました。ほかにはニホンアカガエルの卵や、自分の子供も食べていました。
陸生の生物ではミミズやガの幼虫、クモ、ハエなどといった様々な種類の生物を食べていて、そのほかに、春と秋にはイネ科の種子と思われるものや水草のようなものを食べていました。イネ科の種子と思われるものは、割ったら中からデンプンのようなものが出てきたので種子と判断しました。
次にこのグラフは調査回ごとの餌の種類数を雌雄別でまとめたものです。
6月20日の調査回では、雌と雄の捕まえた割合が大体1:1で同じくらいだったので、餌を食べている量が同じくらいです。それに対して、その他の調査回は雌1、雄2くらいの割合で採れたので、雄の方が餌を食べている量が多いです。また、雄と雌で食べている餌の生き物に種類の違いはあまりありませんでした。
大きな分類でまとめたのが次の図です。
プラナリアやミミズなどの体の柔らかい部分は全体の数%でしかなかったのですが、実際にミミズをイモリに食べさせて消化速度の実験を行った結果、1週間くらいで溶けてなくなったので、野生ではもう少し食べているかもしれません。昆虫は全体の54.1%で、約半数を占めていました。
調査地の池にはヤゴが多いのですが、今回ヤゴは1匹しか食べていませんでした。その理由としては、ヤゴの体の表面に泥や水草がついていて、イモリが見つけらにくいのではないかと思います。
植物は全体の7.7%で、餌を食べていなかったのが全体の10分の1でした。実際に餌を食べていなかったのか、もしくは餌を吸い出す時に吸い出せなかったという可能性もあります。
また、春、夏、秋の三つの季節では、春には大半の個体が水生の生物を食べていて、夏には約半数の個体が餌を食べていません。また、秋には夏と比べて少し食べる量が増えています。
まとめ
イモリの腹面の模様は長期に渡ってほとんど変わらなかったので、個体識別をすることが可能でした。また、斑紋の数が変化しなかったのは全体の99.4%で、ほとんどのイモリは斑紋の数が変化しないと考えられます。変化するのは稀でした。千葉県内の3地点の個体群間に模様の違いが見られました。
再補獲率については3地点で異なっていて、香取市新里のような開けた谷の水路では10%ほどですが、その他2か所の匝瑳市宮本や市原市犬成のような開けた谷津の奥の池では20%以上でした。3~4年は同じ個体が確認できているので、生息地周辺からあまり移動しないのではないかと考えられます。
食性のまとめです。水生の生物を多く食べていましたが、陸生の生物も多く食べていたので積極的に陸に出て餌を捕っている可能性があります。また、春と秋に植物を食べていたので、次は実際に植物を食べるのか与えて実験を行いたいと思います。
季節による違いは、春と秋には多くの種類の餌を食べ、夏には餌を食べる数が少なくなります。目の前にあるものを手当たり次第に食べている感じがしたので、種類や個体ごとの選り好みは少ないと思われます。また、ミミズ以外の生物も実際に食べさせてみて消化速度の実験を行ってみたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
千葉県野生生物研究会の方々が10年間にわたって撮影した写真を入手したのがきっかけです。自分たちの調査地である市原市犬成のイモリと比較することによって、複数の地域の個体群の大きさや模様の違いを明らかにしようとしました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2014年から写真による個体識別を始めました。千葉県内2か所の写真データに加え、2015年からは自分たちの調査フィールドである村田川に生息地を見つけ、毎月1回現地に通って調査し、持ち帰った胃の内容物を学校で調べました。2年間毎日、研究したわけではなく、現地調査は月1回、写真比較や餌の同定は1人のときや5-6人で協力した時もあるので、すべて1人で行ったとしたら、延べ200時間は越えていると思います。
■今回の研究で苦労したことは?
2000枚近くある写真の中から同じ模様のイモリを探し出すことが大変でした。理科部は、一人ひとり別のテーマをもち、必要に応じて他の人の研究を手伝うという方法で活動しているため、少人数で写真比較の作業をしなければならない時もありました。また、胃の内容物がほとんど溶けていて未同定のものも多くあります。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
私たちが調査したアカハライモリは絶滅危惧種に指定されています。そのため、イモリに極力ダメージを与えないように配慮し、現地にカメラや電子天秤を運び、写真撮影、体重測定、胃の内容物を採取したあとに、イモリが麻酔から覚めた事を確認してから生息地に返しました。
また、1回の調査で数十匹捕獲できる調査地や再捕獲が複数年にわたって可能となるような場所を市原市の中で探し、その場所を管理している方の了解を取りました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
(1)「多摩に生きるイモリ」緑と水のひろば(73):16-17草野保2013(東京都公園協会)
(2)「東京都八王子市南大沢におけるアカハライモリ (Cynops pyrrhogaster)の食性」中川光・草野保. 2007.(日本爬虫両棲類学会報 第2007巻 第1号)
(3)「Food Habit of the Japanese Newt Cynops pyrrhogaster.」KumiMatsui,Koji Mochida and Masahisa Nakamura.2003( ZOOLOGOCAL SCIENCE 20:855-859.)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今後もイモリの研究を続け、イモリの年齢や季節による食物や消化速度を調べたいと思っています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
各自いろいろなことをしています。
・村田川に生息するスナヤツメ個体群の成長
・千葉県中央部のトウキョウサンショウウオの分布と遺伝子変異
・校舎屋上緑化と中庭のビオトープ整備
・巨大シャボン玉の作成
・植物種子からの搾油 など
■総文祭に参加して
他の学校の発表やポスターを見て、とても勉強になりました。また、発表を見ていただいた先生方や生徒の皆さんに多くのアドバイスをいただいたので、それをこれからの研究に生かしていきたいと思います。
市原八幡高校の皆さん
前列左から 緑川杏莉寿さん(3年)、赤石好さん(3年)
後列左から 内澤晃太くん(2年)、長瀬一真くん(2年)、伊藤広大くん(2年)、佐々木亮太くん(2年)
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