2016ひろしま総文 自然科学部門

忍者顔負け?! 石垣のホウライシダの生き残り戦略

【生物】大分県立別府鶴見丘高校科学部

(2016年7月取材)

左から 有田圭吾くん(2年)、小野和真くん(2年)
左から 有田圭吾くん(2年)、小野和真くん(2年)

■部員数

7人(うち1年生3人・2年生2人・3年生2人)

■答えてくれた人

小野和真くん(2年)

 

■別府市街地の石垣植生の研究II~石垣に適応したホウライシダの形態~

別府市街地の石垣に多いホウライシダ

私たちは別府市街地の石垣植生の調査を行っています。

 

昨年度、市街地230カ所の石垣のデータを取って分析した結果、石垣にはシダ植物が多く、中でもホウライシダが優占種になっていることがわかりました。

 

ホウライシダが石垣に多い理由は何でしょうか。今年度の研究テーマを『石垣に適応したホウライシダの形態』と設定して、葉や根などの形態に注目して研究を行いました。

 

ホウライシダとはホウライシダ科のシダ植物で、千葉県以西に分布し、団地の崖や石垣などに自生しています。

 

ホウライシダとその仲間は、その学名からアジアンダムと呼ばれ、園芸品種も多く、都市部では野生化しています。

 

シダ植物は地上部全体が葉で、葉のように見える部分は羽片や小羽片といいます。茎のように見える部分は、下から葉柄、中軸、羽軸といいます。

 

今回の研究では、ホウダイシダ、コバノヒノキシダ、ノキシノブ、イノモトソウと、石垣以外にもよく見られるイヌワラビを比較に用いました。

地下茎を伸ばし栄養生殖で増殖するのではないか?

写真の植物は、すべてホウライシダです。このように石垣の隙間に沿ってびっしりと生えています。

 

このことから、ホウライシダは地下茎を伸ばし栄養生殖によって増殖するという仮説(仮説1)を立てました。

 

ホウライシダの根の観察をすると、横に地下茎が伸びています。矢印で指しているのは芽生えの部分です。

 

このことから、ホウライシダは栄養生殖していることがわかります。よって、仮説1は正しいということがわかりました。

 

イヌワラビやイノモトソウも、やや横に入り、栄養生殖していましたが、ホウライシダほどではありませんでした。さかんに栄養生殖するホウライシダは繁殖に有利だといえます。

 

羽片は薄く、中軸は細いのではないか?

私たちはホウライシダの見た目から、ホウライシダの羽片は他のシダ植物より薄く(仮説2)、ホウライシダの中軸は他のシダ植物より細い(仮説3)という仮説を立て、検証することにしました。

 

検証方法は、ホウライシダと他のシダ4種の葉の上部、中部、下部の厚さをノギスで測るというものです。葉柄、中軸の場合も同様に行いました。

 

結果のグラフです。横軸に上、中、下の各部、縦軸に厚さや太さを取っています。グラフを見ると、ホウライシダの羽片の厚さはどこをとっても最も薄いことがわかります。葉柄、中軸も同様に細いことがわかります。

 

このことから、仮説2、3は正しいと言えます。このことはホウライシダの葉全体が薄いことを意味します。 

では、葉を薄くすることの利点とは何でしょうか。

 

ホウライシダは石垣の隙間のわずかな土壌に生育しています。つまり、土壌中のわずかな水を利用していることとなり、少ない水分で葉を薄くして広げることで光合成の効率を上げていると考えました。

 

少ない水分で葉の表面積を大きくしているのではないか?

そこで、ホウライシダは少ない水分で葉の表面積、つまり葉面積を大きくしているという仮説(仮説4)を立て、水分量あたりの葉面積の測定を行うことにしました。

 

ところが、葉は複雑な形をしており、葉面積を簡単に求めることができません。調べてみると、葉面積計という装置があることがわかりましたが、数十万円以上するので高くて買えません。

 

そこで私たちは次のように測定を行いました。

 

まず葉を方眼紙にコピーします。そのとき、10㎠の長方形5つも同時にコピーします。10㎠の長方形と葉のコピーを正確に切り取ります。

 

5つの長方形の重さを電子天秤で測り、最頻値から10㎠あたりの重さを決めます。この場合は0.083gが10㎠の長方形の重さとなります。切り取った葉のコピーの重さを電子天秤で測定し、10㎠の重さから比例計算によって葉面積を求めました。

 

生の状態での重量を測定し、吸湿紙を毎日取り替えて乾燥させた後、乾燥重量を測定しました。

 

乾燥重量は4~5日おきに5回測定しました。

 

こうして求めた生の状態の重量と乾燥重量の差から水分量を求めました。

これが結果のグラフです。

 

水1gあたりの葉面積がホウライシダは最も大きいことがわかります。

 

少ない水分で葉面積を大きくしているホウライシダは石垣という水分の少ない環境に適応しているといえます。

 

地上部、中軸は高いしなやかさを持つのではないか?

ホウライシダは曲げて離すと、しなやかに揺れます。私たちはこのしなやかさに関心を持ちました。

そこで、ホウライシダの中軸はしなやかさを持つと仮説(仮説5)を立て、しなやかさを測定することにしました。

 

文献によると、しなやかさとは「靭性」と「弾性」によるものだとありました。

 

図のような棒に力を加えて大きく曲げます。この時、曲げても折れない性質を「靭性」といいます。その後力を除いて元に戻る性質を「弾性」といいます。

 

このようにしなやかさとは、靭性と弾性に基づくものです。

 

私たちは、シダ植物4種のしなやかさを、箱と分度器を組み合わせて測定しました。

 

まず測定に邪魔になる羽片を切り取ります。中軸の中心を分度器の原点にあて、大きく曲げて曲がった角度を測ります。これを「曲角度」とします。 

手を放し、戻った角度を測ります。これを「戻角度」とします。ここで測った2つの角度を基に、靭性を「靭性度」、弾性を「弾性度」として求めました。

 

靭性度=曲角度/90(曲角度の最大値)

弾性度=戻角度/曲角度

とします。

 

なお、しなやかさは中軸の横向き、下向き、上向きの3方向で測定しました。 

これが結果のグラフです。

 

ここでは4種のシダについて横向きの場合を取り上げました。

 

グラフは横軸に靭性度、縦軸に弾性度を取り、しなやかさを散布図で表しました。ホウライシダは、他のシダに比べ、靭性度、弾性度共に大きくなりました。

 

次に、ホウライシダのみで、横向き、下向き、上向きで見てみます。どの向きも靭性度、弾性度共に大きくなりました。よって、ホウライシダの中軸は高いしなやかさを持つといえます。文献によると、そもそもシダ植物は胞子を飛ばすためにしなやかさを持つ、とありました。

 

では、ホウライシダの高いしなやかさには何か別の目的があるのでは、と考えました。 

ホウライシダはしなやかさで風から体を守るのではないか?

そこで、ホウライシダはしなやかさで風から身を守る(仮説6)、と仮説を立てました。

 

写真のように、別府市街地の石垣は建物に挟まれた道路に面しています。そのため、風の通り道となり、吹きつける風の影響を受け、それをしなやかさで受け流していると考えたからです。

 

検証方法は、ホウライシダ、イヌワラビ、イヌケホシダの葉をドライヤー、普通の扇風機、大型扇風機の順に強力な風にあてて影響を観察するというものです。結果は、ホウライシダ、イヌワラビ、イヌケホシダのすべての葉が強力な風にも影響を受けませんでした。

 

ここで、改めてしなやかさのグラフをご覧ください。ホウライシダのしなやかさの目的が胞子を飛ばしたり、風から身を守るためなら、イヌワラビやイヌケホシダと同程度で良いはずです。このように高いしなやかさを持つのにはそれ以外の目的が何かあるのでは、と考えました。 

風にしなやかに揺れて下層に光が届きやすくしているのではないか?

そこで、次のような仮説(仮説7)を立てました。

 

ホウライシダは、風にしなやかに揺れて下層に光が届きやすくしている。そのためホウライシダは葉の数が多くなっているというものです。

 

検証方法は、同じ石垣、つまり同じ環境に見られるホウライシダと他のシダの葉の数を、各種30個体で測定するという方法です。

 

ここではイヌワラビとイヌケホシダを比較に用いました。

 

グラフは1個体あたりの平均の葉の数を表しています。ホウライシダは平均18となり、他のシダに比べ、圧倒的に葉の数が多いことがわかりました。

 

よって、仮説は正しいといえます。

 

ホウライシダが石垣に適応するための戦略

以上のことから、ホウライシダは観察によって、薄い羽片、細い中軸や羽軸を持つことがわかりましたが、これらの形態は光を通しやすい形態です。

 

さらに、この葉が風に揺れることで一層下層に光を届きやすくしているといえます。

道路に面した石垣は風の通り道になっており、ホウライシダには適した環境であるといえます。

 

今回わかったことは次のようなことです。

 

・地上部では薄い羽片、しなやかで細い中軸を持ち、少ない水分ですむ点、風に揺れることで下層に光を供給できること。

・地下部では横に伸び栄養生殖を行う地下茎という特徴的な形態を持つことによって水分が少なく、風通しがよい石垣に適応していること。

 

今後は、ホウライシダの形状をバイオミメティクス(※)への活用について研究ができればと考えています。

 

※生体の持つ優れた機能や形状を模倣し、工学や医療分野に応用すること。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

  

先輩たちが2年前に石垣の植物についての研究を行っており、その研究で優占種が、ホウライシダという結論でした。この研究を引きつぎ、なぜ他のシダ類に比べてホウライシダが優占種となったのかを調べました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

 

昨年8月は1日3時間を週5日くらい。9、10月は1か月間あたり5日で各1~1.5時間。

最初の研究は2年前からです。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

方眼紙にコピーした葉を誤差がなるべく出ないように切り取ること。葉の形が複雑で苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

葉の面積を求めるとき、方眼紙に葉をコピーすることで、方眼紙の10㎝あたりの重さと葉の形をコピーした方眼紙の重さの比で葉面積を求めたことです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

『植物の顕微鏡観察』井上勤 (地人書店館)

『日本の野生生物 シダ』岩槻邦男 (平凡社)

『検索入門 しだの図鑑』米田重幸 (保育社)

「筑波大学木質材料工学研究室」 のサイトhttp://www.u.tsukuba.ac.jp/~obataya.eiichi.fu/research/07_bamboo.html

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

研究を続けるかは検討中です。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

普段は週2~3回ほど、放課後に部員がしたいと思った研究に取り組んでいます。

 

■総文祭に参加して

 

最初は総文祭に出ることができると思っていなかったので、すごく緊張しました。しかし他の高校の発表はどれもすばらしく、聞けるだけで総文祭に出場できて良かったと思います。発表も貴重な良い体験になりました。

 

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