2016ひろしま総文 自然科学部門

水田の整備で生息地を奪われるアリアケスジシマドジョウを守れ!

【生物】佐賀県立佐賀西高校サイエンス部

(2016年7月取材)

左から 畑瀬裕之進くん(3年)、佐藤友暉くん(3年)、木村充志くん(3年)、山口真太郎くん(2年)
左から 畑瀬裕之進くん(3年)、佐藤友暉くん(3年)、木村充志くん(3年)、山口真太郎くん(2年)

■部員数

26人(うち1年生13人・2年生6人・3年生7人)

■答えてくれた人

佐藤友暉くん(3年)

 

 

アリアケスジシマドジョウの保護に向けて4~個体数調査と人工繁殖に関する研究~

アリアケスジシマドジョウは2012年、新種として登録されました。それ以前は「スジシマドジョウ小型九州種」として登録されていました。有明海沿岸部の河川にのみ生息しており、絶滅危惧ⅠB類に指定されている非常に貴重な生物です。

 

私たちはこれまで、アリアケスジシマドジョウを保全するために、個体数調査と人工繁殖の試みを行ってきました。

 

個体数調査~水田の区画整理がアリアケシマドジョウの生態に及ぼす影響を調べる

個体数調査の研究目的は、圃場整備前後の個体数変動についての調査です。圃場整備とは、水田の区画整理を行うことです。これにより、もともとあった水路が埋められてしまいます。

整備以前は用水路と水田は直接つながっており、水田へ移動して産卵することが可能でした(下・左図)。

 

しかし、整備が行われると水路と水田はポンプでつながるようになってしまうため、直接移動することができなくなり、産卵も不可能になります(下・右図)。

私たちは、アリアケスジシマドジョウはこの圃場整備の影響を受けるのかを調査することにしました。方法はまず、2名が30分間、網で捕獲します。そして捕獲したすべての魚の種別を同定し、その個体数を数えます。アリアケスジシマドジョウは全長を測定し、1cm間隔の階級別に記録します。調査地点は佐賀市鍋島町の3地点です。

 

調査地点(1)については、3地点の中で唯一圃場整備が行われています。

 

圃場整備以前は緑が豊かな環境でした。そして、圃場整備中は水が完全に干上がり、整備後には環境が激変しています。建物の位置から見ると、水路の位置も変わっているのがわかります。

 

結果です。下図のグラフは、全地点合計の若い個体と成体の個体の変動を表しています。グラフの色が薄くなっている部分は、繁殖期です。

 

一昨年度と昨年度は、繁殖期である7月以降、若い個体の数(黄)が成体の個体数(赤)を上回っていました。しかし今年度は、若い個体の数が成体の個体数を上回ることはありませんでした。これにより、圃場整備工事がアリアケスジシマドジョウに何らかの影響を及ぼしているということがわかりました。

こちらの表は、調査地点で捕獲した魚類の種類を表したものです。左側が整備前に捕れた回数、右側が整備後に捕れた回数です。整備以前は捕れたのに整備後は捕れなくなったものも、その逆のものもいます。

 

アリアケスジシマドジョウは、整備前は7回中6回捕獲できましたが、整備後は7回中3回しか捕獲できませんでした。このことから、整備後はアリアケスジシマドジョウが棲みにくい環境になっているといえます。

昨年度は失敗した人工繁殖にも、今年度は成功!

私たちは人工繁殖の研究について2つの実験を行いました。

(1)性腺刺激ホルモンを投与し、人工的に排卵させて受精させる実験

(2)飼育下で性腺刺激ホルモンを投与しないで繁殖させる実験

です。

 

実験(1)について。

FA100という麻酔剤を用いて麻酔した繁殖期の雌の個体に、体重1gあたり10単位の性腺刺激ホルモンを投与し、雄と雌を1つのバケツに入れて飼育しました。

 

昨年度は、雄と雌1匹ずつを1つのバケツに入れて飼育しましたが、排卵のみを確認し、受精を確認することはできませんでした。そこで今年度は、受精する確率を上げるために、雄6匹と雌3匹を1つのバケツに入れて飼育しました。

 

結果は表のとおりです。投与1日後に総産卵数1901個、受精卵934個、投与2日後に512匹の孵化した個体を確認できました。

 

映像はアリアケスジシマドジョウが孵化するところです。

 

実験(2)について。

水槽に、昨年度から飼育している縦状模様のある繁殖期の雄と、今年4月以降に捕獲した腹の大きな繁殖期の雌を1匹ずつ入れて飼育しました。水槽の底には砂を敷き、直射日光を避けるため2面に黒い覆いをしました。以下の表は3回実験を行った結果です。1回目の実験では、開始から12日後に8mmの個体を2匹、2回目の実験では、実験開始から9日後に20個の受精卵を確認した2日後に15個体の孵化を確認しています。さらに、3回目の実験では、開始から13日後に5mmの個体を5匹確認しました。

 

これにより、性腺刺激ホルモンを使用しないで受精卵を得て孵化させることにに成功したといえます。また、飼育下でも雄は性成熟すること、飼育開始からおよそ10日で受精卵が見られることもわかりました。

 

今後の展望

個体数については調査を継続し、圃場整備前後の個体数の変動について調査します。

 

人工繁殖の試みについては、雌は性腺刺激ホルモンで排卵することができるので、雄の人為的な排精方法を模索し、雌は飼育下で性成熟させる方法を模索します。また今回の実験で生まれたアリアケスジシマドジョウの稚魚を観察し、その成長過程を解明したいと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

私たちは以前、水田で産卵する淡水魚が、圃場整備によって産卵することが難しくなってきているということを知りました。そこで、圃場整備される地域に生息しているアリアケスジシマドジョウを指標として調査し、圃場整備が生物に与える影響を調査しようと考えました。また、もし圃場整備によって生息環境が破壊されてしまったときのために、アリアケスジシマドジョウを人工繁殖することで、絶滅を防ごうとしています。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日あたり2~5時間程度です。この研究は2013年から始めました。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

個体数調査では、とにかく体力を使うので、身体的にきつかったです。また、人工繁殖は1年のうち限られた期間の中でしかできないので、成功しなければならないというプレッシャーがあり、精神的にきつかったです。ただ、その苦労があった分、成功した時は非常に嬉しく、感慨深いものがありました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

個体数調査では、繁殖期直後の時期に圃場整備後の年度は若い個体の個体数が成体の個体数が若い個体数を上回らなかったことです。人工繁殖では、2つの方法でアリアケスジシマドジョウを産卵・受精・孵化させることができたことです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「日本産シマドジョウ属魚類の標準和名の提唱」(魚類学雑誌59-1

・「希少淡水魚の現在と未来 : 積極的保全のシナリオ」片野修, 森誠一 監修・編(信山社)より

『スジシマドジョウ種群-高密度なのに実は希少種-』斉藤憲治

・「絶滅危惧種ホトケドジョウの人工繁殖」宮本良太、勝呂尚之、細谷,和海(近畿大学農学部紀要Memoirs of the Faculty of Agriculture of Kinki University. No.42  (2009. 3) ,p.119- 126)

・「新魚類解剖図鑑」木村清志(緑書房)

・「ゴナトロピン投与ドジョウの自然産卵を用いた採卵と粗放的稚魚飼育に関する研究」野口大悟・樋口正仁・山田和雄(新潟県内水面水産試験場調査研究報告No.33)

・レッドリスト2015[汽水・淡水魚類]

 http://www.env.go.jp/press/files/jp/28060.pdf

 

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

個体数調査についてはデータが少ないので、引き続き調査を実施して、データを増やし、様々な考察をしたいと思います。人工繁殖については、孵化させることに成功したので、今後は稚魚の様子を観察してアリアケスジシマドジョウの生態を解明していき、それに加えて雌を飼育下で性成熟させる実験も行っていきたいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

中学校に出前実験授業に行っています。また、文化祭で展示をしたり、体育祭で部活動対抗リレーに出たり、佐賀県立宇宙科学館の春の企画展(ビーコロ制作)に参加したりしています。

 

■総文祭に参加して

 

このような大きな舞台で自分たちの研究を発表できる機会は滅多になく、発表以外の多くの経験もさせていただいたので、非常に嬉しかったです。そして、これまで指導していただいた顧問の先生方や研究に協力していただいた方への感謝の気持ちでいっぱいです。

 

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