(2016年7月取材)
■部員数
3年生3人
■答えてくれた人
大島佑月さん(3年)
きめ細かいフィールドワークから似島の詳細な地質図を作成!
私たちが調査・研究をしている「似島」は瀬戸内海に位置し、広島花崗岩類が広く分布しています。
一口に広島花崗岩類と言っても、姿は全く違います。このような岩石の多様性がなぜ生まれたのかを解明することで、大昔に地下深くで起きたマグマの活動の様子に迫り、私たちが今住むこの大地がどのようにできたかを明らかにするために、この研究を行いました。
中国地方には、白亜紀~古第三紀の深成岩類が広く分布し、北から順に、山陰帯、山陽帯、領家帯に区分されます。広島付近の花崗岩類は山陽帯に属し、広島花崗岩類と呼ばれますが、その分布や成因の実態の解明は不十分です。
私たちが調査した似島は、広島湾に位置する面積約4㎢、周囲約14㎞の有人島です。粗粒黒雲母花崗岩主体で、島の北部にある安芸小富士の南北傾斜の一部に中-粗粒黒雲母花崗岩があり、これを花崗斑岩、珪長岩の岩脈が西南―南東方向に切っています。
しかし、左の図に示すように、既存の地質図では、着色部分に花崗岩が分布していることにはなっていますが、上記の分布に関する詳細な解説はされていません。
そこで、私たちは
(1)似島における広島花崗岩類の分布実態をよる詳しく明らかにし、地質図を作成する
(2)似島の形成プロセスを明らかにする
という2つの目的を定め、調査を行うことにしました。
調査は、野外調査と室内研究を行いました。詳しい内容は左に挙げる通りです。
そして鉱物の粒経に着目し、10㎜未満を中粒、10㎜以上を粗粒として分類しました。その結果をもとに作成した地質図が下図です。島の北東の安芸小富士と南部の下高山の山頂付近では中粒黒雲母花崗岩が、中腹辺りでは中粒がやや優勢でありながら粗粒が混在した黒雲母花崗岩が、海岸線では粗粒雲母花崗岩が分布していました。粗粒黒雲母花崗岩中には、巨晶花崗岩や暗色包有物も見られました。また、花崗斑岩やアプライトからなる珪長質岩流の貫入も認められました。
マグマの固結の過程で組成や形状に変化が? ゼラチンを使って実験
次に、花崗岩の特徴を顕微鏡で観察し、鉱物組成を調べました。
まず、粒度をもとに分類した中粒と粗粒で、肉眼観察と薄片観察を行ったのが下の表です。野外観察では、中粒花崗岩は標高85m以上、粗粒花崗岩は標高85m以下に分布していました。海岸線の露頭(海抜0m)の露頭で採取した黒雲母花崗岩の薄片からは、ミルメカイト(マグマ固結末期に見られる構造で、石英が虫食い状になっている)が見られました。このことから、似島に分布する黒雲母花崗岩は鉛直方向の上部から下部に向かって粒度が大きくなり、下部は上部よりも時間をかけてマグマが冷えて形成されたと考えました。
一方、花崗岩中の各鉱物の組成では、粗粒花崗岩の組成がほぼ全て狭義の花崗岩に属するのに対して、中粒花崗岩は狭義の花崗岩に比べて石英やカリ長石の割合が小さいものも見られ、幅広い分布を示しました。
つまり、マグマが冷え固まる過程で珪長質に富む変化が起こるとともに、中粒黒雲母花崗岩の固結後期には安定した化学組成のままゆっくり冷え、粗粒黒雲母花崗岩が形成されたと考えられます。
また、海岸線の露頭では、粗粒黒雲母花崗岩中に、巨晶花崗岩(マグマ固結晩期に石英・長石などが熱水などの影響を受けて、自然結晶として大きく成長した花崗岩)がボール状や板状に貫入している様子が見られました。
ボール状の巨晶花崗岩が貫入している付近に、複数の細い熱水脈が収束するように見られるところもありました。
つまり、粗粒黒雲母花崗岩が固結する最後頃に熱水が貫入したことにより長い時間をかけて固結が進み、巨晶花崗岩が形成されたと考えられます。
それでは、なぜマグマが連続的に冷えても中粒黒雲母花崗岩と粗粒黒雲母花崗岩が混在するゾーンができるのでしょうか。私たちは、マグマが連続的に冷えても、不均一に冷却が進みながら固結するのではないかと考えました。これを検証するために、熱湯に溶かしたゼラチンをプラスチック容器に流し込み、上部から冷却しながらサーモグラフィーで温度を測定しました。
上の図のように、冷却は均一には進まず、冷却が速く進むところ・ゆっくり進むところのムラを繰り返しながら、進んでいくことがわかりました。つまり、似島を形成する花崗岩も、連続的に冷えても均一には固結しなかったため、中粒黒雲母花崗岩と粗粒黒雲母花崗岩が混在するゾーンが生まれることが示されました。
風化のメカニズム解明は防災にも役立つ!
これらを総合して、似島の花崗岩類の形成プロセスをまとめたものがこちらです。
今後の課題です。今回の花崗岩の形成過程モデルでは、野外調査で見られたシュリーレン構造(有色鉱物が集積した黒い条線)や暗色包有物を関連付けることはできていません。
また、似島の島内では、風化が進んでいる粗粒黒雲母花崗岩の地帯に戦時中に掘られた防空壕があり、風化して滑りやすくなっている斜面や、小さな土砂崩れが起きているところがありました。花崗岩の風化によってできる真砂土は土砂災害を起こしやすいので、花崗岩類でできた似島において風化のメカニズムを調べることが、土砂災害発生メカニズムを解明する基礎資料につなげることができるのではないかと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
SSHのプログラムで野外調査をする機会がありました。そのとき、同じ花崗岩と呼んでも姿が異なることを知って、興味を持ったからです。そして、この多様性がなぜ生まれたのかを明らかにすることで、地表にいる自分たちには直接見えない地下のマグマの活動の様子がわかるのではないかと思って研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日あたり1~10時間で1年間(2015年7月~)
■今回の研究で苦労したことは?
岩石薄片づくり(厚さ0.03mmの岩石プレパラートづくり)。1つの薄片を作るのに約20時間かかり、それを52個作らなければならず、大変でした。厚さを均等にするため、とても集中しなければならなかったです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
似島に計8回渡って歩き、室内研究も含めて、数百時間もかけて研究することで一から作り上げたた似島の地質図です。研究の集大成です。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
1)日本の地質7 中国地方、共立出版、1987
2)20 万分の1 日本シームレス地質図、産業技術総合研究所(https://gbank.gsj.jp/seamless/閲覧2015 年1 月13 日)
3)5万分の1 地質図「厳島」、地質調査所、1999
4)倉敷市立自然史博物館(http://www2.city.kurashiki.okayama.jp/musnat/geology/mineral-rock-sirabekata/rock44/rock-ryudo/rock-ryudo.html 閲覧2016 年5 月9 日)
5)記載岩石学、周藤賢治ほか、共立出版、2002
■今回の研究は今後も続けていきますか?
受験・卒業のため続けることはできませんが、引き継ぐ後輩には、特に花崗岩類の風化を土砂災害と関連づけて研究してほしいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
自分たちで課題を設定し、物理、化学、生物、地学のグループに分かれて先生に助言をいただきながら共同研究を行っています。高校生の自分たちができる身の丈に合った研究を最大限の力を出し切って進めています。コンクールや学会に参加するので、研究したことを発表する準備も念入りに行っています。最後は論文を書いて論文集を発行しています。
■総文祭に参加して
全国から集まった様々な分野の研究を見て、刺激をうけました。同じ高校生なのにレベルの高い研究、発表をしていて、私たちも頑張らないとなと思いました。
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