2016ひろしま総文 自然科学部門

なぜ今までなかった?! 多彩な発色が期待できる「銅箔」の色調のメカニズムを探る

【ポスター部門/化学】宮城県仙台第三高校自然科学部化学班

(2016年7月取材)

左から相原竜くん(2年)、門口尚広くん(3年)
左から相原竜くん(2年)、門口尚広くん(3年)

■部員数

12人 (うち1年生8人・2年生2人・3年生2人)

■答えてくれた人

相原竜くん(2年)

 

銅箔の色調変化の研究

金・銀はあるけど、銅はない?!

 

銅板を400℃以下で加熱するとCu2O (酸化銅(I))の被膜ができ、薄膜干渉(※)により、膜厚に応じてさまざまな色調の変化が見られます。

 

日本の伝統工芸では、金箔・銀箔は画材として広く用いられてきましたが、銅箔は今までありませんでした。そこで、銅箔を加熱して色を変えることができれば、画材としての可能性が出てくるのではないかと考え、以下の実験を行いました。

 

 ※薄膜の表面で反射される光と裏面で反射される光が重なり合って起きる現象。シャボン玉の表面が虹色に見えることなどが代表的。

まず、加熱温度と加熱時間によって銅箔の色がどのように変化するかを調べ、下の表1にまとめました。

温度と時間による銅箔の色には変化が生じることはわかりましたが、新たに2つの疑問が生まれました。

 

1つは、下表からわかるように、銅箔の色の出現性にはある種の規則性が見られたことです。加熱温度と時間、銅箔の色が関係する式が存在するのではないかと考え、その式を解明することを第1の目的としました。

2つ目は、各色の銅箔で、Cu2O膜の厚さはどのくらいなのか、という点です。この二つを目的として実験を進めました。

加熱時間・温度と銅箔の色の関係を解明する

銅の酸化は、酸素原子が銅の表面から内部に侵入して、銅と反応することによって起きます。酸素原子が拡散するほどCu2O の膜は厚くなります。この時、酸素原子が銅内部に侵入する距離を「拡散距離」と呼びます。銅箔の色調変化には、酸素の拡散距離が関係しているのではないかと考えました。酸素の拡散距離 L(t) は、以下の公式で表されます。

温度と時間に先の表1の値を代入して計算した結果が下の表になります。

これを見ると、酸素の拡散距離の値が似ている時には、銅箔の色も似ていることがわかります。このことから、銅箔の色調には、酸素の拡散距離が関係していることがほぼ間違いないことがわかりました。

そこで、この関係性が正しいことを立証するために、酸素の拡散距離の値から銅箔の色を予測し、検証しました。ここでは、250℃×30分の1点でしか現れていない緑色の予測を行いました。

 

シミュレーションの結果、230℃×50分、210℃×90分の時も緑色が現れることが予想できたので、実験しました。結果は、予想通り右の図のように緑色が現れました。

 

このことから、銅箔の色調変化には酸素の拡散距離が関係していることが解明でき、目的1を達成することができました。

Cu2O膜の厚さと銅箔の色にはどんな関係があるか?

次に、膜の厚さと銅箔の色の関係を調べました。膜厚の測定には、クプロイン法という手法を用いました。クプロイン法は下のスライドの通りです。

吸光度から得られた各色の膜厚に含まれる銅イオンの質量をまとめたのが下の表です。

Cu2O は、図に示すような単位格子であり、76.6×10-24㎤中に4個の銅原子(1.05×10g/個)を含みます。赤褐色の膜厚をXcmとすると、Cu2O膜の体積は40X㎤であり、540㎍の銅イオンを含んでいるので、比の計算から赤褐色のCu2O膜厚X=2.46×10-6(cm)を求めることができます。

同様に他の色でもCu2O膜厚を測定しました。その結果、Cu2O膜は数十㎚であることが判明しました。

 

以上から、2つ目の目的も達成されました。

 

酸素原子の拡散距離とCu2O膜厚にはどんな関係があるか?

ここまでの実験で、各色における酸素の拡散距離とCu2O膜厚が判明しました。この別々に得られた2つの情報を、試しにx軸に酸素の拡散距離、y軸にCu2O膜厚を取ってグラフを作ってみると、この2つには比例関係があることが明らかになりました。

 

ここで得られた直線に、加熱時間・加熱温度ごとの銅箔の色を代入したのが左のグラフです。これによって、Cu2O の膜厚による色調の変化を詳細に表すことができました。また、加熱時間と温度からCu2O の膜厚も予測できることになりました。

 

このグラフの直線から実際に膜厚を把握することができるかどうか確認するために、230℃×30分のピンク色、230℃×50分の銅箔で検証実験を行いました。予想膜厚と実際の実験の値は左の表のとおりで、グラフが信頼できるものであることがわかりました。

 

銅箔のさらなる可能性も調べてみたい

当初は加熱時間と温度の範囲内での銅箔の色を把握することしかできませんでしたが、銅箔の厚さと色の関係を検証したことで、未知の温度と時間でも銅箔の色を予想し、膜厚を把握することもできるようになりました。

 

今後の課題と展望としては、例えばCu2O膜厚が71.4㎚の時、銅箔がなぜ緑色になるのか、といった膜厚と色との関係が考えられます。また、銅箔を画材として使う場合、色の安定性ということも考える必要があると思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

もともと銅板を加熱すると変色する現象は一般的に知られていましたが、応用性が効かないと感じたので、銅箔であるならば画材として使用できるのではないかと考え、実験しました。その結果、銅板以上にはっきりと色調の変化が読み取れたので、変色の規則性にも気づくことができました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

合計2年です。門口先輩が1年の入学時から始めた1年と、私はその後の1年になります。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

銅箔の膜の厚さが数10nmのスケールなので、実験誤差が大きく出るのではないかと慎重に実験しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

門口先輩の拡散距離の時点で、世界最大の科学大会ISEF(アイセフ)にて優秀賞3等でしたが、 さらに自分が膜厚の研究を進めることで、より深い内容となりました。門口先輩のデータが50%、私のデータが50%です。これによって、温度と時間からその銅箔の色が何色で膜厚がどのくらいの厚さなのかを把握することができるようになりました。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

1) E. Gaul、 Coloring Titanium and Related Metals by Electrochemical Oxidation. J. Chem. Educ. vol. 70、 pp.176-178 (1993).

2) 須藤 一、田村今男、西澤泰二共著「金属組織学」丸善株式会社 64-69 (1972) 

3) R. Kirchheim、 Metals as Sinks and Barriers for Interstitial Diffusion with Examples for Oxygen Diffusion in Copper、 Niobium and Tantalum. Acta Metall. vol.27、 pp.869-878 (1979). 

4) 第13回日本学生科学賞作品集(1969年)「銅版の着色」青森県立青森西高等学校化学班

5) 日本化学会、 実験化学講座15、 分析化学(上)、 101 

6) Journal of the Korean Physical Society、 Vol. 55、 No. 3、 September 2009、 pp.1243_1249

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

例えば、膜厚が71.4 nmのときに銅箔は緑色になりますが、 ではなぜ71.4 nmのときに緑色になるのかといった、色と膜厚の関係の究明がテーマになってきます。しかしこれは大変難しく、大学の先生に聞いてもわからないとよく回答されます。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

毎日活動しています。学会前は土日も活動します。また、学校のボランティアの「わくわくサイエンス」に参加したり、仙台最大規模の科学祭典の「サイエンスデイ」に参加したりと、研究の他にも地域の活動に参加しています。それによって、相手にわかりやすく説明するコツや、目上の人や年下の人に合わせて会話する重要性を学びます。

 

■総文祭に参加して

 

文化庁長官賞を受賞することができて良かったです。受賞はもちろんうれしいですが、出場前にポスターを直したり、プレゼンテーションの練習をしたりと、それに向けて練習し、備えている時間がとても充実していました。来年はみやぎ総文祭です。今年はひろしまのスタッフの方に大変お世話になりました。来年は、同じように、全国から来た人に対応していきたいと思います。

 

仙台第三高校の発表は、文化庁長官賞を受賞しました。


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