(2016年7月取材)
■部員数
12人(うち1年生9人・2年生1人・3年生2人)
■答えてくれた人
藤本侑生くん(3年)
三葉虫は、今から5億年ほど前に海中で生きていた古生代を代表する海の生きものです。みなさんも一度は名前を聞いたことがあるでしょう。私たちは、その中でも外縁構造と呼ばれる特殊な構造を頭部に持っている三葉虫の研究をしています。
外縁構造を持つ三葉虫は、一般的な三葉虫に比べて頭部の割合が非常に大きく、中でも特徴的な外縁構造がその体の面積の大部分を占めます。この外縁構造は変わった立体構造をしているだけでなく、表面に多くのくぼみが見られます。体の大部分に見られるこのくぼみは、従来から何らかの重要な役割を果たしているのではないかと考えられてきました。
世界的な古生物学者のフォーティの先行研究(Fortey and Owens, 1998)では、このくぼみは採食のために使われていた、とされてきました。彼らによると、外縁構造を持つ三葉虫は、海底に着地する際に肢を使って水流を起こし泥を巻き上げます。その泥は水流に乗って前方に運ばれ、泥の中の食べ物を頭部前方の採食器官が得るのです。この仕組みにおいて重要な役割を果たすのがくぼみで、継続的に採食器官に集まった水をはき出すことで水流の出口になっているとされています。これにより、新しい食べ物が断続的に採食器官に届くようになります。
この「くぼみは採食のためにある」という先行研究は世界的な定説となっていますが、私たちは2つの点に疑問を感じました。1つ目が、くぼみは果たして穴なのか確認できていないという点。
2つ目が、穴だったとしてもくぼみは果たして本当に水を逃がすのか、という点です。これを確かめることで、先行研究が正しいか検証することができる。この面白さに引かれ、私たちは実験を開始しました。
【実験1】本当にくぼみは穴なのか?
私たちはまず、本当にくぼみが穴なのか調べるために化石の断面を観察することにしました。今回は実際に2体の化石を研磨剤#400で削り、それぞれ30秒ごとに断面をスキャナで記録しました。これにより、化石として残っている外骨格の断面がどのように変化しているのか、とても詳しく観察することができました。
その結果、いずれの化石でも多くのくぼみが見られたものの、どの段階の断面でも外骨格を貫通している穴は確認することができませんでした。
【実験2】くぼみが穴だったとしても、本当に水を逃がすのか?
次に私たちは、仮にくぼみが穴だった場合に本当に水を逃がすのか、念のために調べることにしました。今回は以下のように化石(試料)を塩化ビニル板で型取りして手作りした模型に穴を開け、実際に水を流してみました。
模型は、泥に見立てた細かい砂の粒の上に置き、実際の水流のように模型の頭部に向かって着色した水を1秒間に0.5mL流しました。
その結果、水は穴からは流れ出ず、外縁構造をつたって模型の後ろ側に流れていきました。
以上の2つの実験から、私たちが抱いた2つの疑問点は正しかったことがわかりました。つまり、先行研究が主張する外縁構造のくぼみと採食の関係性には根拠がないことが明らかになったのです。今まで世界的に信じられてきた仮説の誤りを示すことができたことは非常に大きな成果です。
それでは、多くのくぼみがある外縁構造は何のためにあったのでしょうか。他の種類の三葉虫についての外骨格に関する研究などを参考にすると、外縁構造には周りの様子を感知するセンサーがついていた、あるいは水の抵抗を抑えるためのものだった、といった説が考えられます。また、今回実験に使用したアサフス目とは別の種類には、穴があいた外縁構造を持つ三葉虫も存在する可能性もあります。今後さらに研究を進め、三葉虫の外縁構造の謎に迫っていきたいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
中学生の頃、我々は体が丸まった形で化石になった三葉虫の研究をしていました。これは三葉虫が防御姿勢をとったものと考えられています。この研究をしているなかで、頭のまわりに縁(外縁構造)のある三葉虫があることを知り、それは三葉虫が栄養を採ることと関係するという内容の先行研究を知りました。ところが、そこで図解されたものを見て「おや、何か変だな。」と思ったのが今回の研究の始まりです。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
高1の頃から構想し、その後部活で議論を積み重ね具体化していきました。高2で実験・観察を始め5月、6月、11月のポスター発表に向け、数ヶ月集中して研究をしました。発表前には夜遅くまで観察・研究をすることがありました。
■今回の研究で苦労したことは?
水流実験のためにアクリル板で大きな水路を部員がつくりましたが、水圧が予想以上に大きく、水漏れが発生し、実験台が水浸しになったときは、もう終わりかと思いました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
貴重な化石を研磨剤で削ってはスキャンするという地道な観察と、模型と水路を使ったダイナミックな実験を組み合わせたところが工夫した点です。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
世界的な古生物学者のフォーティの先行研究の内容を消化するだけでなく、それを乗り越えようとしたところが特徴です。反証により、科学の進歩を目指そうというオーソドックスな方法をとっています。
■今回の研究は今後も続けていきますか?
適切な事前結果を参考に、より多くの資料を使って、研究を続けて行きたいと思います。最近の古生物学会の動向を見ると、貴重な化石試料を研磨する研究が相当数出てきており、我々の貢献できるところがあると考えています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
固体地球班と天文気象班に分かれ、それぞれのテーマで活動しています。固体地球班では、「生きた化石」のカブトガニの研究を行っているものが発表をし、成果をあげています。学園祭、オープンキャンパスでは、お客様が楽しめるように地学に関する体験をしてもらうように工夫をしています。また、合宿・巡検ではジオパークなどに行き、地層や岩石を見たり、化石採りをしたり、天体望遠鏡で星空を眺めたりしています。
■総文祭に参加して
全国から集まってきた優れた研究に触れることができ、参考となることが多く、今後の研究の励みとなりました。
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