(2016年7月取材)
■部員数
24人(うち1年生4人・2年生8人・3年生12人)
■答えてくれた人
神成朝日くん(2年)
毎年秋、私たちの学校は色づいたケヤキの葉で覆い尽くされます。ケヤキは私たちの学校がある長岡市の市の木でもあり、私たちにとって馴染み深い木です。そんなある日、生物部の活動で学校にある木の調査をしていた私たちは、一部のケヤキの葉に種子がついていることを発見しました。
先行研究(吉野・田口, 1989)によると、ケヤキの種子の飛散範囲は木の高さ程度だと言われていますが、木の周りをよく観察してみると、木から200m以上離れた場所にも種子が落ちていました。より高い場所にできる種子の方が遠くまで飛ぶはず。そうするとついていた高さによって種子の性質が異なるのではないか、そう考え調査をスタートしました。
私たちは、まずケヤキと校舎の位置関係を調査に使うことを考えました。実は、図のように私たちの校舎は校舎間の連絡通路が2本あり、調査範囲の敷地を3つに分けることができます。これによって、種子が落下後に風で動くといった影響を排除し、純粋にケヤキの種子がどこまで飛んだかを測ることができます。
校舎の位置関係を考えると、より遠く飛んでいた種子は木の上部についていたと考えられます。低い位置についている種子は校舎に当たって遠くまで飛ばないからです。これによって、ケヤキから10m以内の範囲を「近距離」、58m以上の範囲を「遠距離」と区分けし、「近距離」に落ちていた種子は木全体から落下したもの、「遠距離」に飛んでいた種子は木の上部についていたもののみだとしました。
ケヤキの種子は、《結果枝》 という特殊な形の葉と一緒に風に乗って飛んでいきます。まずはこの《結果枝》に注目し、「近距離」「遠距離」の《結果枝》の比較を中心に《結果枝》が木の高さによってどのように違うか調査しました。
【実験1】
最初の実験では、「近距離」「遠距離」の《結果枝》の落下速度が異なるのか調べました。結果は表の通りでした。
またこの結果に基づいて《結果枝》が「遠距離」に飛んでいくために必要な最低風速を算出したところ、7.01m/sであることがわかりました。気象庁によると、最大瞬間風速が7.01m/sで条件を満たす日は20日中12日ありました。これにより、私たちが考えたようにケヤキの種子が風に乗って「遠距離」まで飛んでいったことが確認されました。
【実験2】
続いての実験では、《結果枝》の葉の反り具合が落下速度の違いに影響しているのか調べました。
まずは「近距離」「遠距離」の葉の反り具合(図の赤線で表される、基準面からの高さ)を測定しました。結果は以下の通りでした。
これにより、「遠距離」の《結果枝》の方が葉の反りは小さいことがわかります。これが落下速度に関係しているか調べるために、紙でモデルを作成し、実験してみました。結果は表の通りでした。
この結果から、反り具合が小さい方が、《結果枝》の落下速度が遅いことがわかります。遠距離の種子が遠くまで飛んでいたのには、種子がくっついている《結果枝》の葉の反り具合が小さいため落下速度が遅いということが影響していると考えられます。
【実験3】
最後の実験では、「近距離」「遠距離」の種子に注目し、生育の有利さが違うのか調べました。種子の重量に加え、10℃の水に24時間浸して沈むかどうかを観測し、発芽可能な種子かを確認しました。結果は表の通りでした。
水に沈んだ種子はほぼ100%発芽することが先行研究(石井・井上, 1974)からわかっているため、「遠距離」の種子の方がより栄養分を含む生育に有利な種子だということがわかります。
以上の3つの実験によって、ケヤキの上部にできる種子は、一緒に飛ぶ《結果枝》の反り具合が小さいため落下速度が遅いことで、遠くまで運ばれることがわかりました。また、遠くまで運ばれる種子は生育により有利なものであることもわかりました。なお、学校のケヤキ以外のケヤキでも調査を行ったところ、同様の結果が得られました。
先行研究(戸澤・野路, 1922)でも指摘されているように、ケヤキの若い木は日陰に弱いことが特徴です。そのため、ケヤキは日陰になりやすい親木の近くではなく、できるだけ遠くに生育に有利な種子を飛ばすことで生存の確率を上げているのではないかと考えられます。
今回は、木の上部にできる種子の方が生育に有利であり、より遠くに飛ぶことができる《結果枝》にくっついていることがわかりました。今後は実際に発芽実験を行って上部の種子の有利さを確かめるだけではなく、近距離に落下する種子の役割についても調査していきたいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
私たちは長岡高校の校庭に生えているケヤキの結果枝に注目しました。昨年の秋に結果枝の散布範囲を生物部の活動で調査したところ、結果枝が最大200mまで飛散しているのを発見しました。そこで、遠距離に飛散する結果枝には、より遠くまで散布するための特徴があるのではないかと考え、この研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日約3時間で3か月です。
■今回の研究で苦労したことは?
ケヤキの種子の散布期間は約1か月と短く、研究の明確な方針が定まったときには大多数の結果枝の飛散が終わっていたため、少ない標本で実験を行うしかなかったことです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
モデル実験です。私たちは実験によって上部の結果枝は下部に比べて落下速度が小さく、葉の先端の反りが小さいということを発見しました。そして、「上部の結果枝は葉の先端の反りが落下速度に影響する」ということを調査するために、紙を使って上部と下部の結果枝のモデルを製作し、実験することによって上記の仮説を明らかにしました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
・「ケヤキ林の造成試験(I)―種子の飛散距離―」吉野 豊・谷口真吾(1989)(40回日林関西支講: 183-186)
・「ケヤキの種子生産と大気汚染の関係について」石井幸夫・井上敞雄(1974) (85回日林講:301-302)
・「けやき天然下種更新実験」戸澤又次郎,野路策三(林業試験報告,22:31-70. (1922))
・「ケヤキ種子の低温湿層処理期間とその処理後の発芽に及ぼす温度と光の影響」石井幸夫(Jap .For.Soc.61(10),79(1979))
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今後も継続し、標本数を増やすことにより実験の信頼度を上げていきたいです。また、ケヤキ以外の広葉樹にも同様の傾向が成り立つのか調査していきたいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
生物部では、イモリやサンショウウオなどの生物飼育を行い、また高校のオープンスクールや文化祭などの行事にも積極的に参加しています。研究活動も盛んで、現在も複数のテーマの研究が行われています。
■総文祭に参加して
発表を通し、各先生方や観覧者の皆様から貴重なアドバイスを頂き、今後の研究の参考となりました。また、全国から集まったハイレベルな研究は、どのように考え、何に注意して実験を行っているのかが明確で、これから研究を行っていく上での考え方を学びました。全てのプログラムが充実していて、これまで参加した大会の中で最も貴重な体験をすることができました。来年も参加できるように、実験を積み重ねていきたいです。
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