(2016年7月取材)
【物理】日常をサイエンスする研究が、高校物理の公式に生命を吹き込んだ
山田修平くん 京都大学工学部物理工学科2年
物理部門の発表の多くに見られたのは、日常をサイエンスする姿勢でした。ボールの跳ね返りや異なる水流の混合、筆圧とシャーペンの字の濃さの関係など、簡単に説明できそうであるのに実際にはできない現象が身の回りにはたくさんあることに気づかされます。その着眼点もさることながら、自作の装置を駆使し、条件や精度に様々な工夫を凝らした実験で解明を計る高校生の姿は、研究者そのものでした。
授業の一環としての実験は、結論ありきの実験動作の確認に近いです。様々なことに疑問を投げかけて、その疑問を解消すべく仮説を立てて、仮説を試すための実験を組むという過程こそが科学における最も大切な部分であると思いますが、高校生の間にこのような考え方を習得し、実践している彼らには、本当に感心するばかりでした。
また、物理は理数系の中でも特に敬遠されがちな教科であると思っています。僕は高校時代から物理が好きでしたが、抽象的で分かりにくい教科と苦手意識を持つ友人が多くいました。そんな友人たちに、当時の僕は物理の面白さを上手く伝えることができませんでした。確かに教科書に載っているアルファベットだらけの数式と、真空中の卓球ボールのストロボ写真からは、現実世界との結びつきが見えにくいです。今回の発表では、日常をサイエンスするような研究によって、日常生活にありふれた現象と、それらを解析するツールとしての抽象的な高校物理の諸公式が、目に見える形で結びつけられたと思います。
さらにそれを短い時間内に魅力的でわかりやすいプレゼンにまとめあげて発表した今大会の高校生なら、きっとあの頃の僕の友人に、効果的に物理の面白みを伝えることができたのでしょう。彼らが今後、自分たち自身の物理の理解を深めるだけでなく、物理と周りの人たちの懸け橋になってくれることも期待しています。
【化学】何かに全力で取り組んだ経験がもたらしてくれるもの
小坂真琴くん 東京大学教養学部1年
化学部門の取材で、合わせて16校の発表を見ました。
自分たちが学校で行った研究を、大学の先生を含めた多くの人に発表し、質疑に答える。研究発表というと、音楽や演劇に比べると本番への気持ちの入り方は強くないイメージがありましたが、このまたとない貴重な機会に対する意気込みや緊張感を各学校の発表からひしひしと感じました。
研究を進める上で出てきた障壁を、独自のアイデアで乗り越えた学校がたくさんあったのはとてもかっこよかったです。同時に、データを集める際に、統計的な誤差に至るまで綿密に議論している学校もあり、アイデア勝負だけではなく学問的な正確さを追究する姿勢も印象的でした。
意識されにくいですが、まだその研究を何も知らない人に、短時間で内容をわかってもらうことは非常に難しいです。他人に伝えるためには、当然のことながら自分で内容を深く理解することが必要です。そして同時に、まだ自分たちの研究を知らない人はどこまでわかっていて、どこからが説明しなければならないかに想像を巡らせることも必要です。このプロセスは総合文化祭の研究発表だけでなく、理系であれば一生にわたり向きあっていく大事な作業です。
また、何かに集中して取り組む経験そのものもとても貴重です。自分自身、高校時代に模擬国連に打ち込んだ時期があり、正直当時はかなり苦しみました。ただ、今振り返れば良い経験ですし、何かに全力を注ぐとなると必ず思い出して、やる気の糧としています。うまくいった人はもちろん、今回自分の思うような発表ができなかった人も、「研究のプロセスを実際に体感したこと」、そして「一つのことに打ち込んだという経験そのもの」を今後に生かしてほしいと思います。
青春のきらめきに触れられたうえ、たくさんの知的な感動を味わえて幸せでした。高校生のみなさん、ありがとうございました。
【地学】実験室の中で完結しない研究だからこそ、計画性や協調性も求められる
登阪亮哉くん 東京大学教養学部1年
昨年に引き続き、今年も総文祭を取材しました。改めて、高校生特有のエネルギーが感じられました。自分の一つのことにひたすら打ち込むという経験は、とても貴重な糧になると思います。
レポートを読んでくださったらわかる通り、高校生が行っている研究はいずれも科学的な思考に基づいた有益なものです。高校生なので知識や経験の蓄積がとても多いわけではありません。しかし、その姿勢に関してはまさに研究者の卵と言えるかと思います。日常的な観察の中で疑問に思ったことを深く掘り下げていき、論理的に結論を導くというプロセスを参加した全ての学校が実践できていました。これは正しい姿勢・知識そして指導がなければできないことだと思います。
また、地学という分野は他の分野と比べて観測規模の面で大きな違いがあります。研究に必要なデータを得るためには、屋外での複数回の調査や、採集した標本の細かい分類など莫大な手間がかかり、決して実験室の中では完結しません。だからこそ彼ら一人一人の集中力や注意深さといった資質に加え、仲間同士で連携して一つのゴールに向かう計画性や協調性が必要なのだと感じました。少なくない学校が研究を1年で完結させず、後輩に引き継ぐことで長期間の継続的な観測を行い、研究を進めていたのも印象的です。
こうして得られた研究結果だからこそ、聞いている僕は一つ一つをとても興味深く感じ、聞き入ってしまいました。そして、彼らの今後の研究もとても楽しみに思えました。こうして第三者に自分たちの成果を発表し、魅力を伝えられることは地学の研究に限らず非常に大事なことだと思います。
僕自身は受験で地学を使用したわけではありませんが、こうして様々な研究を聞くとどんどん新しいことを知りたくなります。地学と接したことのない方にはぜひ彼らの研究を読み、少しでも興味を持ってもらえたらうれしいです。また、地学の研究をしている全国の高校生が、より楽しく熱心に研究を行い、来年さらに面白い発表が見られることを願っています。
★登阪くんは、2015年9月から2016年2月まで、東京大学の「FLY Program(初年次長期自主活動プログラム)」で世界各国の幼児教育の現地調査を行いました。
「みらいぶ」で、その現地レポートを連載しています。
→世界へ”FLY”する東大生~入学して即休学 世界の幼児教育を取材する旅へ
※FLY Programはこちら (東京大学ホームページより)
【ポスター(パネル)】晴れ舞台に立つことで、さらに成長することができる
高島崚輔くん ハーバード大学2年
今年も、高校生科学者が輝く日がやって来ました。2016ひろしま総文。普段は自分のまちで仲間と研究活動をしている科学者たちが、1年で1回全国から集まり、お互い刺激を与え合う場です。
昨年に引き続き2回目の取材。今年はポスターセッションにお邪魔しました。ポスターセッションの魅力は、高校生の説明や高校生同士の会話を横で聞くことができること。そして何といっても、高校生と生で会話ができること。
来場者の雰囲気に合わせて説明を変え、少しでも自分たちの研究を知ってほしい、伝えたい!という思いをみなぎらせて話す姿。時には別のまちからやって来た科学者の鋭いツッコミにタジタジになりつつも、それもまた自分の研究に活かしていこうと真摯に向き合う姿。そして、生で話すことでわかった日頃の努力。自分の興味を純粋に追求し、周りを巻き込んできた姿……輝く彼らの姿は、まさに科学者のそれでした。
1回限りのステージ発表と違い、来場者の方々と話す中でどんどん説明を改善し、どんどん成長していく彼らの姿。その姿を見て、僕自身も精進しなければならないと改めて背中を押された気がしています。
科学者のみなさん、科学者と一緒に努力を積み重ねてきた仲間のみなさん、そしてもちろんこの素晴らしい会を運営されたスタッフのみなさん。それぞれにとっての晴れ舞台。一人ひとりの熱さを今年も感じることができて、本当に嬉しかったです。これからのみなさん一人ひとりのご活躍を、心よりお祈りしております。