2016ひろしま総文 自然科学部門

食虫植物「タヌキモ」が生育する「ため池」の水質はどこが違う?

【化学】山口県立宇部高校科学部

(2016年7月取材)

左から 小田哲士くん(2年)、吉武聖くん(2年)、江波悠介くん(2年)
左から 小田哲士くん(2年)、吉武聖くん(2年)、江波悠介くん(2年)

■部員数

12人(うち1年生5人・2年生3人・3年生4人)

■答えてくれた人

吉武聖くん(2年)

 

ため池の水質調査

食虫植物「タヌキモ」はなぜ水槽で成長しない?

タヌキモは、池や湖の水中に浮遊する根のない多年草で水中のミジンコなどの動物性プランクトンを捕虫嚢という袋でとらえて食べている食虫植物です。一般的に栄養塩類が少ない貧栄養の池や湖に生育するため、不足する窒素分を動物性タンパク質から吸収して生きています。

 

夏から秋にかけて花を咲かせ、種子または殖芽で越冬します。捕虫嚢の口にはプランクトンをおびき寄せる「誘導毛」、触れるとフタが空き、水ごと吸い込む「引き金毛」があることが知られています。

 

→参考サイト http://waterplants.web.fc2.com/zufu_tanukimo.html

 

図に示すように、冬になると、捕食する動物性プランクトンが減少するため、捕虫嚢が不必要となり、殖芽や種子を作って休眠状態になります。

私たちは、タヌキモを観察するために、ため池の水ごと持ち帰って栽培しようとしていました。しかし、水槽内ではタヌキモの育ちが悪く、やがて消滅してしまいました。

 

私たちは、水槽内では水質が変化してしまうのではないか、という仮説を立て、タヌキモの生態と組み合わせてため池と水槽内の水質について調べることにしました。

 

2か所のため池と屋内水槽の水質調査を実施

タヌキモはもともと栄養塩類が少ない貧栄養の池や湖に生育するため、水の中の栄養塩類が増え、水質が変わると大きな影響を受けるのではないかと考えられます。

 

そこで、2015年の8月から2016年の7月にかけてタヌキモが生育している山陽小野田市の湯無田池と屋内の水槽、そして比較対象としてタヌキモが生育していない宇部市赤松池で水質調査を行いました。赤松池はの住宅地の中にあり、夏にはヒシという水草が水面をおおい、冬にはカモなどの渡り鳥が多くすむ池です。

 

調査項目は、気温、水温、pH、アンモニウム態窒素濃度、亜硝酸態窒素濃度、硝酸態窒素濃度、リン酸態リン濃度、化学的酸素要求量、陰イオン界面活性剤、溶存酸素濃度です。

 

このうちアンモニア態窒素は、水中にアンモニウム塩として含まれている窒素のことで、主として有機物の分解によって発生します。アンモニア態窒素は、気温が上がって生物の活動が活発になると植物が吸収したり、硝化細菌によって酸化され亜硝酸態窒素に、さらに酸化されて硝酸態窒素となり、減少します。また、化学的酸素要求量は水中の有機物の濃度を示します。

 

タヌキモが生育する湯無田池の水質について、調査した結果が下のグラフです。

 

pHは夏から秋は一定でしたが、冬になるとやや下がり、弱酸性を示しました。アンモニウム態窒素濃度は、冬になると高くなっていますが、亜硝酸態窒素濃度、硝酸態窒素濃度、リン酸態リン濃度、陰イオン界面活性剤は変化が見られませんでした。

 

化学的酸素要求量は夏から秋にかけて急速に低くなり、その後は一定でした。化学的酸素要求量の減少は有機物の減少を示しており、このことは気温の低い秋から冬にかけてタヌキモなどの水草や植物性プランクトンが枯死し、細菌によって分解され、アンモニウム態窒素に変わったことを示しています。池周辺の樹木の落葉が分解されてできたアンモニウム態窒素が、陸上の植物や水中の植物に利用されないまま、残っていたこともアンモニウム態窒素増加のもう1つの原因だと考えられます。

 


タヌキモの生育している湯無田池と、生育していない赤松池で顕著な差が現れたのは、亜硝酸態窒素濃度でした。

 

タヌキモが生育する湯無田池で、季節に関係なく亜硝酸態窒素濃度が低かったことは、タヌキモが貧栄養な環境で育つことを裏付けています。

 

さらに、タヌキモの生育する湯無田池と水槽の水質を比較しました。すると、水槽の方が、pHと化学的酸素要求量がともに高いことがわかりました。 

 

屋外では二酸化炭素が溶け込んで弱酸性となった雨水が流入するためにpHが下がりますが、閉じた環境である水槽では外からの流入がないため、pHが高くなるのではないかと考えられます。また、化学的酸素要求量が大きいのは、水槽の中では有機物を分解する微生物の種類が少なく、有機物の分解が十分に進まなかったためと考えられます。 

一方、アンモニウム態窒素濃度、亜硝酸態窒素濃度、硝酸態窒素濃度の変化は、湯無田池も水槽も同じ傾向を示しました。

 

このことから、水槽でタヌキモが栽培できなかったのは、栄養塩ではなく、pHや化学的酸素要求量の影響ではないかと考えました。

 

生態調査と合わせて考えてみると…

湯無田池のタヌキモの生態調査の結果です。夏から秋、冬となって気温・水温が下がるとプランクトンが少なくなるため、タヌキモの捕虫嚢が減ります。そして、冬の間は養分を蓄える殖芽や種子を形成し、休眠状態にあります。

水質調査と関連のあることとしては、

 

・夏には屋内の水槽、湯無田池の両方で水温・化学的酸素要求量の上昇が見られました。このことは細菌や植物性プランクトンの増加を示唆しており、タヌキモが捕食する動物性プランクトンの増加と結びついていると考えられます。よって、化学的酸素要求量のある程度の増加はタヌキモの生育を阻害しないと考えられます。

 

・屋内の水槽に比べて、湯無田池のpHが低いという調査結果が出ました。このことについては、屋外では空気中の二酸化炭素が雨などによって水に溶け込んだためと考えられます。水中では不足しがちな二酸化炭素の増加はタヌキモの光合成を促し、生育を促進していると考えられます。よって、pHの高い水槽内では水中の二酸化炭素が不足し、タヌキモの生育が阻害されていたことが考えられます。

 

結論

以上の研究から、屋内の水槽でタヌキモが消滅した原因は水質の変化、中でもpHの上昇であると考察しました。

 

自然の池では、空気中の二酸化炭素が溶けた弱酸性の雨が降るためpHが減少しますが、屋内の水槽では外界の影響を受けないため、pHが下がらなかったと考えられます。

 

今後はタヌキモが活発に成長する春から秋にかけてのpH変化、そしてタヌキモの食料である動物性プランクトンの増減についても調べていきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

宇部高校に以前からタヌキモが栽培されており、興味を持って見ていました。私たちも野外に自生するタヌキモを池から水ごと持ち帰り、屋内の水槽で栽培していたところ、タヌキモの成長がだんだんと悪くなり、消滅することに気がつきました。そこで私たちは、その原因は水槽の水質変化ではないかと考え、ため池の水の水質変化がタヌキモに与える影響について研究することにしました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

・1日あたり2~3時間で1年間です。

・1か月に一度、タヌキモが生育している池の水質調査やタヌキモの生態調査(タヌキモの種子の発芽、成長、開花、結実、殖芽の観察)を行っています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

・最初は何から始めてよいかわからなかったこと、実験方法などをすべて自分たちで考えて実験しなければならなかったこと。

・自然を相手にする研究なので、様々な要因が関わっていて考察が難しいこと。

・日時や天候などの条件をほぼ一定にして、1ヶ月に一度は必ず継続的に水質調査やタヌキモの生態調査をしなければならなかったこと。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

・調査データを図やグラフでできるだけわかりやすく示した点。

・タヌキモと水質変化を関連づけて地道にコツコツと調査し、データを収集・加工することで、環境の変化がタヌキモに与える影響が見えてくること。

・食虫植物であるタヌキモ(特に中でもその捕虫嚢)は肉眼で観察するには小さく、顕微鏡で観察するには大きすぎるサイズです。捕虫嚢の観察も行ったので、その部分も見て欲しいところです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

『日本水草図鑑』角野 康郎(文一総合出版)

『だれでもできるパックテストで環境しらべ』岡内完治(合同出版)

参考サイト:http://waterplants.web.fc2.com/zufu_tanukimo.html

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?。続けるとしたら、次はどのようなことを目指していきますか。または、違うテーマの研究をする場合は、どんな研究をしてみたいですか。

 

今度は水質の違いによるタヌキモの変化を栽培実験で検証したいと思っています。また、物理系(例えば水の摩擦係数)などもやってみたいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

・タヌキモの観察及び考察

・文化祭で公開おもしろ実験(スライム作り、エタノールによる爆発、液体窒素やドライアイスを使った実験など)や、小学生・中学生のための科学教室にお手伝いとして参加したりしている。

 

■総文祭に参加して

 

私たちと同じ科学好きの高校生たちの発表を見たり、先生方から私たちの研究に対する講評・アドバイスをいただいたりと、とてもいい経験になりました。また、長沼毅先生の講演会や興味深い巡検など、こんなに楽しくためになる活動ができるとは思いませんでした。

 

これから今回、総文祭において学んだことを研究や活動に活かしていきたいと思います。本当にありがとうございました。

 

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