(2016年7月取材)
■部員数
17人(うち1年生6人・2年生6人・3年生5人)
■答えてくれた人
大前侑哉くん(3年)
小惑星の「生態」は、実は謎だらけ。さらに詳しい自転周期の観測を目指す
私たち天文部は、2012年に国際学会Asteroids, Meteors, Comets 2012(ACM2012)に出場しました。それを記念して、アメリカのローウェル天文台が発見した小惑星の一つが、sandashounkanと命名されました。
小惑星の多くは火星と木星の間の軌道を回っている大きな岩のようなものです。大きなものは数百kmありますが、そのほとんどは数kmから数百メートルの大きさです。現在70万個ほど発見されていますが、その数パーセントしか詳しい研究がなされていません。
私たちは、一晩中撮影を続ける観測を繰り返し、連続して小惑星sandashounkanを観測し続けました。そして得られた画像を解析し、一緒に写っている恒星の明るさ(変化しない)と比較して、小惑星の明るさの変化を詳細に調べました。そして、この原理で自分たちの学校名がついた小惑星sandashounkanの自転周期を特定しました。
小惑星は幾つかの探査機によって直近から観測されており、その形は球形ではなく不規則な形状のものが多いことが確認されています。不規則ですが一般的にはラグビーボールのような楕円体で近似されます。地球のような球体が自転しても、その明るさは変化しませんが、楕円体が自転をすると図のように地球に向いている面の断面積が変化しますので、明るさがわずかですが変化し、一回転すると山2回谷2回の光度変化を示します。この明るさの変化の時間から自転周期を特定することができます。
2014年に観測した際には、光度変化の観測によって自転周期を33.6時間と求めることができました。
今回の観測では、2014年に比べて距離・明るさ・夜の長さがすべて好条件であったため、より高い精度で自転周期を求めることを目的としました。
今回の観測に当たっては、小惑星の自転周期が33.6時間程度と地球の自転周期より長いことから、日本が昼で観測できない時間にも観測ができる地点での協力者が必要と考え、海外に協力を仰ぎました。その結果、海外の4地域の方に協力していただくことができました。
これにより、長時間の継続的な観測を行うことができるようになりました。そして得られた写真データをもとに、解析ソフトを用いて測光を行いました。
今回の観測から、左のような光度変化を表すグラフ(ライトカーブ)が得られました。これにより、sandashounkanの自転周期は、31.21±0.02時間であることがわかりました。
自転周期の長さから形状を推測する
次に、考察を行います。
以下の図は小惑星の直径と自転周期の分布を表しています。sandashounkanは☆マークに位置し、同じ規模の小惑星と比べて長い自転周期を持っていることがわかります。
次に、形状と自転軸の向きについて考察します。
2014年と2016年のライトカーブを比較すると、下図のように2014年の方が振幅が大きいことがわかります。これは、光度変化が自転に伴う反射断面積の変化によっておこるためです。自転軸の方向と太陽・地球の位置関係によって断面積変化の割合も変わり、光度変化の幅に影響するのです。
このことから次の3つの仮説が成立します。
(1) 小惑星の自転軸が横倒しであった。
(2) 2014年は小惑星を真横から観察していた。
(3) 2016年はほぼ自転軸の向きから観測していた。
そこで、この仮説を確かめるために小惑星がラグビーボール型であると仮定し、粘土で様々な形の模型を作って自転軸を横倒しに回転させて光を反射させ、sandashounkanと近いライトカーブを描く模型の形を求めることで、sandashounkanの形を推定しました。
その結果、5:2:2の楕円体モデルがもっとも近いグラフを描きました。
赤色のライトカーブが2014年、青色のライトカーブが2016年のものです。
最後に、異なる自転周期の可能性について考察します。
実は、小惑星の描くライトカーブは「山2回谷2回」のものだけではありません。下図のように、「山2回谷2回」で1周期のように見えるものの、実際は倍の周期を持っている場合があります。
sandashounkanに同じことが起きている可能性もあり、さらなる調査が必要です。
今回の研究で、私たちはsandashounkanの自転周期をより高い精度で求めることができました。また、その形について、5:2:2の楕円体ではないかという仮説を立てました。
今後は観測技術及びネットワークを継承し、より詳細な観察を行うことで理論的に自転周期や形状を求めたいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
2012年に国際学会「Asteroids,Comets,Meteors(ACM)2012」 がアジアで初めて、新潟市で開催されました。このACM2012に、三田祥雲館を含む日本の3校が高校生として初めて招待されました。その出場を記念して、未だ名前がなかった小惑星の一つに私たちの学校名sandashounkanが命名されました。この小惑星の発見者はアメリカのローウェル天文台で、私たちが見つけた小惑星ではありません。2012年のACM開催を記念して、Tohoku, Rikuzentakada など幾つかの日本の人名・地名にちなむ小惑星が同時に誕生しました。
自分たちの学校名が付けられた小惑星を詳しく知りたい、という当時の先輩方の強い思いがありましたが、2012年当時は北半球からは観測しにくい状況でした。私たちが天文部に入部した2014年から観測しやすい状況になったので、観測を始めました。
※小惑星sandashounkan誕生の詳細は↓に紹介されています
http://www.astroarts.co.jp/news/2012/05/10minor_planet/index-j.shtml
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1週間5時間で2年。最初の観測は2014年9月に始めました。
■今回の研究で苦労したことは?
とにかく小惑星を少しでも長い時間継続して観測する必要がありました。観測に適する期間が1月から2月でしたので、寒い夜に一晩中屋外で観測をしたこともありました。せっかく晴れていても、小惑星に雲がかかったり、機材の不調で星の追尾がうまくいかなかったりしたこともあって、長時間観測の難しさを痛感しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
2014年の観測で、小惑星sandashounkanは通常の小惑星より、大変長い自転周期を持っていることが判明しました。自転周期を正確に割り出すには、少しでも長い時間連続で観測する必要があります。sandashounkanは自転周期が約30時間でしたので、理想的には30時間連続して観測することです。そこで、海外の観測者も加入しているメーリングリストに協力を依頼し、共同観測を依頼しました。4か国5名の観測者が協力を申し出てくださり、観測ネットワークを作って観測に臨みました。この点が最も工夫した点です。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
[1]「遊・星・人」第21巻 (2012)313日本惑星科学会
[2]Tanigawa,et.al,The Minor Planet Bulletin Vol.42-3 (2015)
[3]iTelescope.net
[4]すばる画像解析ソフトMakalii
https://makalii.mtk.nao.ac.jp/index.html.ja
[5]MPO Canopus
http://www.minorplanetobserver.com/MPOSoftware/MPOCanopus.htm
[6]A.W.Harris. et.al.,ICARUS, 77 (1989)
[7]A.W.Harris. et.al.,ICARUS, 235 (2014)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
5年、10年と続けないと精度の高い自転周期はわからないので、後輩に引き継ぎ、今後も続けていきます。また今年からは、太陽黒点の研究も本格的に始めていきます。
■ふだんの活動では何をしていますか?
小惑星観測のほかには太陽黒点の観測を続けています。また、地域の子どもたちに星空を見せる「祥雲星空教室」も年に数回開いています。自分たちで楽しむだけでなく、星空の楽しさや魅力を伝えることが勉強になっています。
■総文祭に参加して
学校名のついた小惑星sandashounkanの観測を開始したのは、私たち3年生が入部した2014年の秋でした。2回の観測を経て総仕上げとして3年生の夏に、全国総文で研究成果を発表し、奨励賞をいただき、本当にうれしいです。
2014年の反省を活かし、2016年の観測では海外の研究者に広く協力を求め、長時間の連続観測を行いました。地球の自転を利用したことには変わりないですが、インターネット望遠鏡から、直接、人の手による観測に切り替えたことが功を奏しました。結果として自転周期は約31時間と求まりました。しかし、今回の発表の考察で触れたように、参考文献から、私たちの結論の2倍、約60時間の周期を持つ可能性もあることがわかりました。1つの事がわかれば、さらにそれが課題を生むという研究の奥深さを知ることもできました。“世界初”を目指し走り続けた3年間でしたが、天文部に所属したことで貴重な経験を積むことができました。この経験を大学でもぜひ活かして行きたいと思っています。
※三田祥雲館高校の発表は、地学部門の奨励賞を受賞しました。
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