2016ひろしま総文 自然科学部門

太古の微化石が天然のキューブ「黄鉄鉱」を作るまで

【地学】群馬県立太田女子高校地学部

(2016年7月取材)

左から 佐藤有花さん(3年)、齋藤仁見さん(2年)、今橋春日さん(3年)、松倉亜里紗さん(3年)
左から 佐藤有花さん(3年)、齋藤仁見さん(2年)、今橋春日さん(3年)、松倉亜里紗さん(3年)

■部員数14人(1年7人、2年3人、3年4人)

■答えてくれた人 佐藤有花さん(3年)

 

微化石の黄鉄鉱化について

微化石が鉱物に置き換わっている?!

有孔虫(五億年前から生息する小さな原生動物)などの微化石の分析を行っていると、黒い球状の粒子を発見し、それが黄鉄鉱(鉄と硫黄からなる硫化鉱物の一種)であることがわかりました。また、全て黄鉄鉱に置換した微化石なども発見することができました。

 

このように、黄鉄鉱化した微化石の生成条件や過程は不明な点が多いため、解明したいと考えて研究を始めました。

 

研究の目的は、黄鉄鉱化した微化石を観察し、形態を確認することと、その成因を解明すること、そして実験により黄鉄鉱を生成させ、その条件を解明することです。

 

黄鉄鉱の化学組成式はFeS2であり、立方体、八面体、五角十二面体を自形に持ちます。

 

また、これらが木苺状に集合して「フランボイダルパイライト」と呼ばれる状態を形成することもあります。その直径は非常に小さく、ほとんどは100μm以下です。フランボイダルパイライトを形成する一つ一つの黄鉄鉱はマイクロクリスタルと呼ばれ、一つのフランボイダルパイライト内での形・大きさは均一です。

 

黄鉄鉱のでき方にもいろいろなタイプがある

研究の方法を説明します。まず泥岩などを水洗処理して試料を作成し、双眼実体顕微鏡で観察して黄鉄鉱を含んだ微化石を拾い出します。

 

拾い出した微化石は走査型電子顕微鏡で観察及び撮影を行い、それをもとにフランボイダルパイライトの直径とマイクロクリスタルの長径を計測しました。

 

有孔虫殻内のフランボイダルパイライトを撮影したのがこの写真です。殻の内部は黄鉄鉱で埋まっていました。

 

同じ種の有孔虫について、殻を割って内部の黄鉄鉱を観察したところ、一方では木苺状でない黄鉄鉱が観察され、もう一方では木苺状の黄鉄鉱が観察されました。それぞれをタイプA、タイプBとします。 

 

また、違う微化石の黄鉄鉱を観察したところ、タイプBが融合してタイプAになりつつある黄鉄鉱が見つかりました。

 

このことから、フランボイダルパイライト同士が融合することで、黄鉄鉱化した微化石が生成されているということがわかりました。

 

次に、フランボイダルパイライトの直径をD、マイクロクリスタルの長径をdとして、二つの関係を表すD-dダイアグラムを微化石の種類ごとに分類して作成しました。その結果、下図のようになりました。

 

微化石の種類ごとに傾向の違いが見られますが、全ての種において正の相関が見られました。

このことから、マイクロクリスタルが成長することによってフランボイダルパイライトが大きくなるということがわかりました。 

次に、殻との関係性について分析しました。ある有孔虫の黄鉄鉱化した化石を観察したところ、表面がでこぼこしていました。

 

これについて、同じ種の他の化石の殻を割って中を観察したところ、黄鉄鉱のでこぼこに対応した殻内部のくぼみが見られました。このことから、化石の内部で黄鉄鉱化が進んだのち、殻が溶けたという過程が推定できました。つまり、殻が黄鉄鉱に変化したわけではありません。

 

また、6000年前の地層から発見された微小貝の化石が黄鉄鉱化していたことから、微化石の黄鉄鉱化は6000年以内にできることがわかりました。

さらに、同じ地層に含まれる同一種の化石でも黄鉄鉱の形態が異なることから、黄鉄鉱の形成は微小な環境の違いにも左右されることがわかりました。

 

黄鉄鉱を自分たちで生成してみる!

以上の観察結果及び文献をもとに、黄鉄鉱の成因仮説を立てました。

 

まず、黄鉄鉱の形成には硫酸塩還元細菌という、有機物や水素をエネルギー源とする嫌気菌がかかわっていると仮定しました。実際に、この細菌を使った実験でフランボイダルパイライトが生成されたという報告もあります。

 

仮説における黄鉄鉱の形成は以下のようなプロセスで進みます。

 

まず、殻のある生物の遺骸が地中に埋まります。

それが酸素のない海底深くに埋まると、硫酸塩還元細菌が殻の内部に入ります。

そして、軟体部を栄養として消費してフランボイダルパイライトを生成します。

さらに生成され続け、殻内部が埋まったあとに、殻の一部または全部が溶けることで、黄鉄鉱化した微化石が形成されます。

以上の仮説を検証するため、水田での黄鉄鉱生成実験を行いました。

 

まず、バルサ材(木材)に硫酸塩還元細菌の栄養として鉄粉・硫黄・卵白を塗り、酸素が少ない水田地下に埋めます。その後、一定期間をおいてバルサ材を引き抜き、黄鉄鉱が生成されているか確認しました。実験条件は図のとおりです。

 

9か月後にバルサ材を引き抜き、X線解析装置を用いて分析したところ、鉄粉・硫黄・卵白を塗ったバルサ材及び鉄粉・硫黄を塗ったバルサ材では黄鉄鉱が生成していました。

一方で、鉄粉・卵白を塗ったバルサ材では黄鉄鉱が生成していなかったことから、黄鉄鉱の生成には硫黄が必要であることがわかりました。この結果から、仮説の正しさがわかりました。

 

今後は、微小なものだけでなく、黄鉄鉱化した巨大化石にもこの結果を応用できればと考えています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

有孔虫、介形虫といった微化石の研究過程で微化石内に黒い球状の粒子(黄鉄鉱)を発見し、その粒子に興味を持ち、研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

平日は1時間30分、土・日は7時間くらい取り組みました。

研究開始は2012年です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

非常に小さなフランボイダルパイライトとマイクロクリスタルを計測すること。内部に黄鉄鉱がある微化石を、双眼実態微鏡で拾い出すこと。そして、知らない人にもわかるようにまとめることです。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

黄鉄鉱の生成過程の推定し、実験を行いました。その結果、現在の環境でも実際に黄鉄鉱が生成していた点を見てください。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・『フランボイダルパイライトのバクテリアによる生成:組織,構造,形態多様性の培養実験的研究』赤井純治・阪根嘉浩・大串知音(日本鉱物科学学会2010年年会講演要旨集45』 (2015))

・『フランボイダルパイライト』大藤弘明『(日本結晶学会誌53.(46-51)(2011))

・『現在と過去の無(貧)酸素環境―比較研究の必要性―野いちご状パイライトの結晶形態と堆積環境との相関―無酸素環境のプロキシー―』北里洋・中西良子(月刊海洋37.11』 (2005))

・『硫酸還元菌』古坂澄石(アーバンクボタ25. (32-41) (1986))

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回の実験を発展させ、大型の珪藻を水田に埋め、珪藻内に黄鉄鉱ができるか確認したいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

有孔虫、介形虫と呼ばれる微化石を用いて、古環境を推定する活動をしています。

 

■総文祭に参加して

 

総文祭に参加し、研究発表を行うという貴重な体験をすることができました。発表では緊張してしまい、普段通りにはできませんでしたが、今まで努力してきたことを出し切ることができました。

 

※太田女子高校は、地学部門の最優秀賞を受賞しました。

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