(2016年7月取材)
■部員数
17人(1年6人、2年5人、3年5人)
なお、部活は中学と一緒で、中学は43名(1年31名、2年9名、3年3名)です。
■答えてくれた人
廣木颯太朗くん(3年)
日本一星が見えない新宿と、昭和基地上空の夜空の明るさを比較する
私たちは「夜空の明るさ」の調査を行ってきました。「夜空の明るさ」とは、普段暗いはずの夜空が、人間活動の影響で明るくなってしまう現象で、主に都市部で見られます。写真のように、夜間の東京は人工光が都市全体を包み、かなり明るくなっています。これにより、「光害」が発生しています。光害は、夜間の過剰な人工光が生態系や人体に悪影響を及ぼすことを指します。単に夜空が明るくなって星が見えないだけでなく、エネルギー問題にもつながっています。
私たちの通う学校は東京都新宿区に位置し、日本で最も光害が深刻な場所の一つです。そこで、地学部では、2012年から学校の屋上で夜空の明るさの観測を行ってきました。
そしてこれまでに、新宿での光害の要因が人工光とエアロゾル(大気中の浮遊物質)双方の増加であることを突き止めました。
しかし、夜空の明るさには地域差もあり、他にも様々な要因があると考えられるため、新たな観測地点でのデータを用いて他の要因の検証を行いたいと考えました。そのためには人工光の影響がなるべく少ない場所がよいのですが、日本はどの地域も人工光があふれているため、適切な観測場所を見つけることができませんでした。
そこで、国立極地研究所が主催する、南極での観測プランの提案を中高生が行うというコンテスト(第10回 中高生南極北極科学コンテスト)に応募したところ、プランが採用されました。これにより、南極の昭和基地で夜空の明るさの代行観測を行っていただけることになりました。
南極の夜空は暗いだけでなく、微小な明るさの変化を繰り返す
まず、日本各地と昭和基地の夜空の明るさを比較しました。観測にはSQM(Sky Quality Meter)という観測器を用い、新宿以外の地域の夜空の明るさは、「全国夜空の明るさネットワーク連携校」から提供していただきました。
調査の結果、昭和基地での夜空の明るさは、提携校が観測するどの地点よりも暗く、特に新宿と比較すると、その明るさはわずか50分の1であることがわかりました。
次に、新宿と昭和基地の一晩の夜空の明るさを比較しました。すると、両地点共に日の出と日の入りの前後に明るさが大きく変化することや、南極の方が夜が長いことがわかりました。
さらに、一晩のうちの薄明以降の太陽の影響がなくなった後の夜空の明るさを調べました。薄明とは、太陽が地平線の下にあっても夜空の明るさに影響を与える現象を指し、太陽の仰角が地平線下18度より小さい時、と定義されます。すると、下図のように、新宿は明け方まで人工光が減り続けてどんどん暗くなる一方、昭和基地では0.4等級以下の微小な変化を繰り返すということがわかりました。
原因はエアロゾル? 月? それとも…
この特徴的な変化について、いくつかの仮説を立てて要因を検証しました。
まず考えられるのは、新宿の夜空の明るさの変化要因でもあったエアロゾルです。これについて調査したところ、昭和基地上空のエアロゾル量は、新宿の1/10以下であることがわかりました。これに加えて、昭和基地周辺には人工光が少ないということから、エアロゾルの影響は小さいと推測しました。
次に考えられるのが、月の影響です。経験的にも、新宿での観測データを参照しても、月は夜空の明るさに影響を及ぼすと考えられるため、昭和基地での月の影響を考察しました。その結果、新月と満月に近い日での夜空の明るさは下図の左のグラフのようになり、夜空の明るさは月の影響を大きく受けていることがわかります。月が高いほど夜空は明るくなり、新月の時と比較すると、満月に近い日の夜空の明るさは最大で15倍に達することがわかりました。ただし、この変化は先ほどグラフで示した微小な変化には対応していません。
南極の夜の明るさに影響を与えていたのはオーロラ=極光だった!
最後に考えられる要因として、オーロラがあります。オーロラは極地特有の現象で、昭和基地上空では頻繁に発生します。
オーロラ観測カメラの画像と夜空の明るさデータを比較し、オーロラが夜空の明るさに及ぼす影響を分析したのが以下の図です。観測期間中、オーロラは半数以上の日に観測され、そのほとんどが夜空の明るさと連動していました。また、月とは異なり、微小な変化にも影響していることが確認されました。
次に、オーロラの形状による違いを目視で区別し、「はっきり型」と「ぼんやり型」の夜空の明るさへの影響の違いを分析しました。すると、以下の図の通り、「はっきり型」による明るさの変化は大きく、「ぼんやり型」は影響が小さく徐々に現れました。
以上をふまえ、今回の研究結果をまとめます。
研究の結果、新宿での光害に加えて、南極での空の明るさについても要因を突き止めることができました。南極では日本には見られない明るさの微小な変化があり、これはオーロラの発生に起因するものと考えられます。
また、人工光がほとんどない地点での観測を行ったことにより、月やオーロラが夜空の明るさに与える影響を定量化できました。月の影響は最大15.2倍であり、オーロラの影響は最大18.6倍でした。このような数値を導いたのは私たちが世界で初めてかもしれません。
今後は月の形やオーロラの色なども考慮した分析を行うほか、他の要因の検証や夜空の明るさのモデル化も行いたいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
新宿の夜空は非常に明るく、これは過剰な人工光と多くの大気物質(エアロゾル)が原因でした。しかし、夜空の明るさには地域差があるため、地学部では新たな観測場所を探しました。その中で国立極地研究所主催のコンテストに通過したため、2014年に昭和基地での夜空の明るさ観測が行えることになりました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
観測が始まった2014年からの2年間です。
■今回の研究で苦労したことは?
私たちは実際に昭和基地に行かず、南極観測隊の方による代行観測でした。そのため現地の状況は把握できず、様々な観測データや画像を駆使する必要がありました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
考察の過程はわかりやすくまとめられたと思います。ぜひ見ていただきたいです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
夜空の明るさ観測には高校生の全国ネットワークがあります。加盟校の研究が非常に参考になりました。
■今回の研究は今後も続けていきますか?
今は高3なので引退しました。後輩に引き継いでいます。
■ふだんの活動では何をしていますか?
地学部では天文以外にも地質分野などで活動があります。フィールドワークを大切にする部なので、研究だけでなく、多くの巡検に出かけています。
■総文祭に参加して
自分の発表の力不足を実感しましたが、全国の高レベルの発表が見られ、多くの刺激を受けたのが一番収穫です。
※アンケートに答えてくれた廣木颯太朗くんは、総文祭終了後の8月に三重県津市で開かれた「第10回国際地学オリンピック」に日本代表として参加し、金メダルを獲得しました。
◇「理科 地学部 高3生が国際地学オリンピックで金メダル」の記事(海城高校HP)
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