(2016年7月取材)
■部員数
14人(うち2年生5人・3年生9人)
■答えてくれた人
斎藤桃子さん(3年)
高度が高いほど飛行機雲は発生しやすい
私たちは夕焼け空に見えた飛行機雲に興味を持ち、継続的に観測を行いました。すると、飛行機雲は発生するときとしないときがあり、また、飛行機の尾の形をしたすぐ消える雲と、直線状で残り続ける雲があることがわかりました。
それぞれの条件について疑問が生まれたため、以下の3点を目的に飛行機雲についての研究を行いました。
(1)飛行機雲が発生する条件を調べる
(2)飛行機雲の形の違いが生まれる理由を調べる
(3)飛行機雲が発生しやすい日・季節を調べる
まず、飛行機雲の発生について文献調査を行いました。飛行機雲は上空マイナス40℃で発生すること、水蒸気が多いと雲が長時間残ること、本来発生しないはずの気温や気圧でも、たまに飛行機雲が発生することなどが明らかになりました。
次に、目視と写真撮影による観測を行い、その結果をフライトレーダー(Flightrader24(※))による飛行機のデータ、及び気象データに基づいて分析しました。観測は学校や見晴らしのよい田んぼなどで行い、眼視力観測と写真撮影を行いました。飛行コースは、下図のA~Eの5つとしました。
※https://www.flightradar24.com/
雲の形状は
・飛行機が去っても長い線状に残るL(Line)型
・飛行機の後ろに一定の長さでついているT型
・機体だけ見えて雲が発生しない0型
・フライトレーダーで記録したが眼視観測できなかったX型
の4つに分類しました。飛行機の飛んでいた時間とコースから、フライトレーダーを用いて、機種や飛行機雲発生時点での速度・高度などの情報を取得しました。また、気象データは、気象庁のホームページから青森の地上の気象データと天気図、およびワイオミング大学のホームページから、青森に近い三沢上空の気象データを取得しました。これらのデータから、地上と飛行機が飛んでいる高さの観測時の状況を推定しました。
以上のように集めたデータをもとに分析すると、下図のような結果が得られました。
観測数699回の内訳は、L型80回、T型213回、0型90回、X型316回です。また、飛行コースとの関係を見ると、真上を通るコース(先ほどのスライドではCコース)が見えやすかったです。
機体の状況と飛行機雲の関連性については、機体が大きい方が飛行機雲は発生しやすいと予想していましたが、実際には関連は見られませんでした。また、飛行機の速さと飛行機雲の発生にも関係はありませんでした。しかし、飛んでいる高さと飛行機雲の関係性を調べたところ、高度10000m以上を飛行している場合に飛行機雲が多く発生しており、高度が高い方が飛行機雲は発生しやすいという予想と一致しました。
飛行機雲の発生に、どの気象条件が影響を与えるのか
次に、気象データと飛行機雲との関連について分析すると、地上の気温と飛行機雲の発生に関連が見られることがわかりました。具体的には、気温が低いとT型の飛行機雲が発生しやすいようです。また、湿度との関係性については、湿度が高い方が飛行機雲は発生しやすいという予想と概ね一致したデータが得られましたが、湿度70%での発生確率が50%・60%の場合より小さいため、関係性があるとは言い切れませんでした。
飛行機が飛んでいる高度での気象状況と飛行機雲との関連を調べると、気温が低いと飛行機雲が発生しやすいことや、風速と飛行機雲の発生には関連がないことがわかりました。しかし、湿度についてはマイナス40℃以下の測定データが気象庁のホームページにないため、分析できませんでした。
また、飛行機雲の長さと気温の関係について、気温が低い方が飛行機雲は長くなると予想し、実際に観察しました。すると、予想の通り関係性が見られる日と、そうでない日が半数ずつありました。
以上の結果をもとに、飛行機雲の発生条件について考察します。
飛行機雲が発生する条件とはすなわち、飛行機が燃料を燃やすことによって出る水蒸気と熱が周囲の空気と混合して水蒸気が飽和し、液体の水となる条件を指します。
そこで、飛行機の燃料1Lが燃焼することにより発生する熱量、水蒸気、推進距離をそれぞれ文献から求め、飛行機が通過した後の湿度H’を求める式を立てました。
上図の式におけるH’が100%以上になるとき、飛行機雲が発生すると考えられます。
このことから、H’の最大値が100%となる気温tと気圧pの組み合わせを、もとの湿度Hが0%の場合と100%の場合にわけて求めました。
その結果、下図の結果が得られました。
グラフの実線の左側が、湿度0%でも飛行機雲が発生する領域(Always)、実線と破線の間が湿度によって発生する領域(Possible)、破線の右側が過飽和である場合を除き発生しない領域(Never)です。L型はAlwaysとPossibleの領域に、T型はほとんどがAlwaysの領域に、0型はPossibleとNeverの領域に発生しています。
飛行機雲はいつ発生しやすいのか
次に、ここまで求められた条件をもとに、飛行機雲の発生しやすい日や季節について分析します。飛行機雲がどれだけ出現したかについて出現指数を下図のように定めました。
そして、観測開始から低気圧が近づいて曇るまでの時間と出現指数の関係を調べたところ、6月から9月までは、曇るまでの時間が27時間以内ではl型の飛行機雲が、27~33時間ではT型の飛行機雲が発生しますが、33時間以上曇らない場合は飛行機雲が発生しませんでした。他の時期では、このような関係は見られませんでした。
そこで、関連性が見られた6月~9月について、低気圧が近づいて曇ってくるまでの時間と低気圧の移動速度から低気圧との距離を求め、L型が発生しやすいL型エリア・T型が発生しやすいT型エリア・どちらも発生しないO型エリアに分類しました。
その結果、L型エリアの幅は約900kmで、T型エリアの幅は約200kmであることがわかりました。それぞれのエリアについて、先述の気象条件によって分類し、発生する飛行機雲をまとめると、気象条件がPossibleの領域で低気圧からの距離がL型エリアの時はL型が発生しますが、同じく気象条件がPossibeであっても0型エリアの時は飛行機雲は発生しません。一方、曇るまでの時間が10時間以内(=低気圧が近づいている)だと、気象条件がNeverの領域であってもL型の飛行機雲が発生しています。
次に、飛行機雲が発生しやすい季節について分析します。
高層の気圧と気温の平均から、1年間を「6~10月」「4・5・11月」「12~3月」に分類できることがわかりました。そして、6~10月は気象条件がNeverの領域に入りやすいため、飛行機雲があまり発生しないことがわかりました。
考察
まず飛行機雲の発生には、高層の気温と気圧が大きく関係することがわかりました。
気象条件がNeverの領域でも飛行機雲の発生が見られますが、これについては氷に対する飽和を考えると説明がつくとの論文があります(※)。ただし、氷に対する飽和を考えると、今度はAlwaysの領域に0型が入ってしまうため、水に対する飽和を考えることにします。
また、機体の大きさや飛行機の速度によって飛行機が放出する熱や水蒸気の量が変わるため、発生条件の領域も変わるはずなので、これらを交えたさらなる検証が必要であると考えています。
※「飛行機雲の偏波ライダー観測」播磨屋敏生・本間晃・梶川正弘
飛行機雲の形については、もとの湿度が100%以上の過飽和状態である場合は、通過後も湿度100%以上の状態が続くため、飛行機が長く残るL型になるのではないかと考えました。ただし、飛行機から放出されるエアロゾル(微粒子)が雲の核となり、湿度100%未満でもL型の飛行機雲を形成する可能性があります。
T型の飛行機雲の長さについては、気温と関係がある日が半数でしたが、これは気温ではなく湿度が関係しているからではないかと考えました。このデータを用いれば、気象庁にデータがないマイナス40℃以下での湿度も求めることが可能かもしれません。
最後に、飛行機雲の発生しやすい日・季節を分析します。
夏は気温と気圧の関係上、飛行機雲は発生しにくいですが、低気圧の東側では暖かい湿った空気が上昇して過飽和となるため、L型の飛行機雲が発生します。
春・秋は飛行機雲が最も発生しやすい季節であり、冬は湿度が高いと発生します。
今後は、機体の状況に関する別のデータを用いて発生状況を見直すほか、飛行機雲を用いた高層の湿度の測定や、二点観測による飛行機雲の立体的な観測、それに加えて高層の風の様子の分析なども行いたいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
この「飛行機雲の研究」をする前に、「夕焼けの明るさ」について研究をしていました。夕焼け空の観測をしているときに飛行機雲を見る機会が何度もあり、ずっと残るものやすぐ消えるものがあることに疑問を持ったので、この研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
天候に左右されますが、週に2~3回程度の観測を行い、そのデータ処理の時間なども考慮すると、週4日、2時間程度(休日は4時間程度)で約1年間です。
■今回の研究で苦労したことは?
飛行機雲の発生条件に大きく関わってくると思われる「湿度」のデータが得られず、「湿度」を使わない新たな方法を考えることに苦労しました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
発生条件のところで、気温と気圧を試行錯誤しながら求めたことが非常に大変だったので、見てほしい部分です。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
「飛行機雲の偏波ライダー観測」播磨屋敏生・本間晃・梶川正弘(北海道大学地球物理学研究報告,2003)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
後輩がこれからも継続して研究を進めていきます。今回は飛行機雲の発生条件ということを主にして研究をしてきましたが、今後は発生時の飛行機雲の変化について詳しく研究していってほしいです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
自然科学部は3つの班からなり、「飛行機雲の研究」は天文気象班で行っています。飛行機雲の観測とデータ処理がほとんどですが、日食や月食があると、他の班も含めて合宿を行い、観測をします。また、8月にはペルセウス流星群の観測を行います。さらに、学校の文化祭で研究内容をポスター等で展示したり、「スライム作り」や「ダイラタンシー現象の体験」などができるコーナーを設置したりしています。今年は液体窒素を用いた実験も行いました。他の班では、「雪のpHの研究」や「コイルが作る磁界」について研究を行っています。
■総文祭に参加して
全国総文祭という場で、「飛行機雲の研究」が奨励賞をいただいたことを本当にうれしく思います。地区大会よりはるかに高いレベルの発表がたくさんあり、全国総文祭に出場することができたこと自体がとても貴重な経験となりました。自分が今まで積み重ねてきたことを、大勢の人の前で、限られた時間の中で発表するということはなかなかないことであり、自然科学という分野で、ふだん得ることができないものをたくさん得られたと思います。この全国総文祭で得たこと、感じたことをしっかりと後輩に伝え、後輩にはさらに上を目指して研究を進めてほしいです。
※青森南高校の発表は、地学部門の奨励賞を受賞しました
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