(2016年7月取材)
■部員数
47人(うち1年生14人・2年生17人・3年生16人)
■答えてくれた人
早瀬加奈子さん(3年)
スペースデブリ(宇宙ごみ)の除去を容易にしたい
私たちは、スペースデブリの形状と回転の様子をライトカーブ(対象天体が反射した光の量を示すグラフ)から求める研究を行いました。
スペースデブリとは、運営が終了した人工衛星やそれらが衝突したことによる破片など、宇宙空間に存在するごみのことを指します。これらは年々増えており、衝突事故を招くため、除去技術の開発が求められています。私たちはスペースデブリの形状と回転の様子がわかれば除去が容易になると考えました。
小惑星のライトカーブからスペースデブリの形状と回転を観測する
スペースデブリの形状と回転の様子を突き止めるうえで、昨年まで行っていた小惑星の形状と回転を決定する研究を応用しました。
左のように、小惑星のライトカーブを観測から求め、その特徴から形状を決定するというものです。ライトカーブとは、対象となる天体が反射した光の量を表すグラフのことです。
また、左記の式から自転軸の傾きも求めることができます。
次に、ライトカーブから求めた特徴をもとに、粘土モデルを作成し、形状を変えながら小惑星の形状を求めていきます。これにより、実際に観測された小惑星のライトカーブと最も近いライトカーブを描く粘土モデルが、実際の小惑星に近い形状であるとわかります。
以上の手法をスペースデブリに応用しようと思い、まずは天頂付近をランダムに写真撮影しました。すると、どの天体を撮影したのかわからず、同一天体を複数回観察できないことや、写真では細かい光度変化が得られず、きれいなライトカーブを作成できないことが問題として浮上しました。
軌道要素を入力することで、デブリの出現を予測できるプログラムを開発
そのため、まずは特定の観測対象に対して、8つの軌道要素を入力することで軌道を予測するプログラムを作成しました。そして、軌道が判明しているデブリを用いてプログラムの検証を行ったところ、高い精度で実際の軌道と一致することがわかり、このプログラムを用いることにしました。
また、これによりデブリの出現を予測できるようになったので、特定の観測対象に対してビデオ観察を行うことで細かい光度変化を得られるようにしました。
その上で、改めて観測したところ、53個のデブリについてライトカーブを作成することができました。
その中で、光度変化があったのは3個でした。今回はこの中のMeteor1-28というデブリに着目し、モデル実験を行いました。
もと人工衛星だったデブリMeteor1-28 から得た研究結果
Meteor1-28は人工衛星であったため、運営中の形状がわかっています。そのため、運営中の形状をもとにモデルを作成し、自転軸を変えてライトカーブを作成してみました。
しかし、いずれも実際に観測されたライトカーブと一致しませんでした。すなわち、衝突によりすでに元の形状をとどめていないものと考えられます。
そこで、ライトカーブから形状の予測を行いました。ライトカーブから見られた特徴は下図のとおりです。このようなライトカーブを描くモデルを作成することを考えます。ライトカーブに影響を与える要素は、形状・自転軸の傾き・素材・色の4つが考えられます。
はじめに形状について様々なモデルを作成し実験を行ったところ、台形のライトカーブが最も近くなりました。
次に、自転軸の傾きを10度ずつ変えながら実験を行いました。すると、20度傾けた時がもっとも実際のライトカーブに近くなりました。
素材は、アルミ箔を貼り付けてライトカーブを作成したところ、図のように一部のみ大きな光度変化が見られました。
最後に、長方形の一部に赤・黒・グレーの3色を付けて実験を行ったところ、グレーが最も近くなり、図のようになりました。
以上の結果を比較したのが下図です。
このことから、形状が台形で、自転軸の傾きが20度である場合が最も実際のライトカーブに近くなると考え、モデルを作成して比較しました。
デブリとなった日本の人工衛星「ひとみ」の回転と形状を決定したい
今後は表面の色を考慮し、極小値の光度差についても一致させたいと考えています。
この手法は実際に事故が起きた時にも活用できます。例えば先日デブリとなった日本の人工衛星「ひとみ」について、インターネット上で得られたライトカーブをもとに自転軸を特定することができました。
さらに、今回の実験により、粘土モデルを用いてスペースデブリの形状と回転の様子を決定できることがわかりました。
今後は、Meteor1-28について現在推定している形状と自転軸の傾きに加えて、表面の色を考慮し、観測を続けてライトカーブをより詳細に描くことで、詳細部分の決定を行います。また、「ひとみ」についても粘土モデルを作成し、正確な形状と自転軸の傾きを決定したいと考えています。
■研究を始めた理由・経緯は?
宇宙開発に伴ってスペースデブリの数が年々増加しており、衝突の危険性が高いと知りました。そこで、除去をするためにはその形状と回転の様子を知る必要があると思ったからです。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
1日あたり3時間で2年間(2014年から)
■今回の研究で苦労したことは?
観測で得たライトカーブから特徴を読み取り、粘土モデルの形状を少しずつ変えながら、何回も繰り返し再現実験を行ったことです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
自分たちでスペースデブリの観測・解析を行い、粘土モデルで形状と回転の様子を決定する手法を確立した点です。発表では説明用のモデルを、バケツなどを用いて作成しました。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
先輩方の研究「小惑星のライトカーブより形状を求める手法の確立」(平成17年度から)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
Meteor1-28(今回観測対象としたスペースデブリ)の回転の様子・形状をより詳しく決定していきたいです。また、今推定している粘土モデルの形状を少しずつ変えながら、再現実験を行っていきます。
■ふだんの活動では何をしていますか?
この研究以外に、天文の研究が2件、物理の研究が2件、化学の研究が1件、ロボットの研究が1件あります。日々の研究以外には、祝日や夏休みを利用して、科学館などの公共施設や市民センターで子どもたちを対象とした科学実験教室を行っています。
■総文祭に参加して
2年間の研究の成果を全国大会という大きな場で披露できたことを、とても誇らしく思っています。今回の大会では結果を出せずに悔しい思いもありますが、研究発表や巡検を通して様々な体験をすることができ、充実した3日間を過ごすことができました。
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