(2016年7月取材)
■部員数
9人(うち1年生3人・2年生6人)
■答えてくれた人
二戸梨沙さん(2年)、富樫優衣さん(2年)
長距離飛べる大きな飛行機、小さなトンボは?
私たちは航空工学を学んでいるときに、機体が小さければ遠い距離を飛べないと知りました。では、小さな虫はどのようなメカニズムで飛んでいるのか、疑問を抱きました。そこでトンボの飛行メカニズムに着目し、トンボは遠距離飛行を実現するために熱上昇気流に乗っているのではないか、また羽ばたかずに滑空しているのではないかと考えました。
これらを検証するためにトンボの浮く性能(沈下率)と遠くに飛ぶ性能(滑空比)を模型によって調べました。
「沈下率」とは、単位時間当たりの落下高度のことです。落下した高度を落下時間で割ることで求められます。低いほど良い値となります。
「滑空比」とは、単位高度当たりに滑空できる水平距離のことです。水平距離を落下高度で割ることで求められます。高いほど良い値となります。
また、翼の効率の有利・不利の指標となる値を「レイノルズ数」と言います。飛行機の速度、翼弦(翼の前後方向の幅)、空気の動粘性係数の逆数、の三つの積で与えられます。このレイノルズ数が大きいほど、同じ翼でも効率が良くなる傾向があります。
トンボのレイノルズ数は約1000であり、ほかの航空機と比べるとトンボの翼は不利な条件にあることがわかります。
0.29gのトンボの模型を製作
次に、トンボの飛行性能の測定のために模型を製作しました。生きたアキアカネの質量を測定したところ0.29gであったので模型の質量は0.29gに統一しました。
また、アキアカネの翼面積を1020mm² と測定し、模型の翼面積もこれに倣いました。素材などは下図の通りです。
また、平均翼弦とアスペクト比(翼の左右方向の長さと前後方向の長さの比)をアキアカネから測定し、これに倣った模型を標準モデルとしました。
そのような発射システムを設計するために、まずは標準モデルを手投げで飛行させ、滑空時間、水平変位と垂直変位を得ました。
これらのデータから下記の通り滑空角を11.9°、滑空速度を2.88m/sと算出しました。
力学的エネルギー保存則から、位置エネルギーmghすべてが運動エネルギー1/2mv²へと変換される場合、mgh=1/2mv²よりh= v²/2gとなります(m:質量 g:重力加速度 h:高度 v:速度)。これから滑空速度2.88m/sを得るための斜面の高さは0.420mと算出できました。
斜面の角度は先ほど算出した滑空角度の11.9°としたので、高さ0.420mの斜面の長さは2.05mとなります。
実際には摩擦や空気抵抗があり、また発射後の失速を防ぐためにも、余裕をもって滑走距離を3.00mとしました。
実験してみると滑走時間が1.64秒となったので、等加速度直線運動を仮定すると発射速度vは3.63m/sとなり、先ほどの滑空速度の26%増で打ち出せたので、この規格で実験することとしました。
実際にこの発射システムを使った模型の飛行の動画です。
熱上昇気流にトンボは乗るのか?
実験1です。
「沈下率が小さければ、熱上昇気流に乗ることで疲労することなく浮いていられるのではないか」との仮説を試すために、標準モデルの沈下率と滑空比を測定しました。
「熱上昇気流」とは、温かい空気の方が軽く、冷たい空気より上へ上がろうとすることで発生する気流のことです。
結果、沈下率は0.71m/sであり、パラグライダーの沈下率よりも良いことがわかります。よって、0.71m/s以上の上昇気流があれば、トンボは浮いていられると考えられます。
また、滑空比は4.27と、パラグライダーの8.0や実機グライダーの40~60よりもかなり悪いことがわかりました。
次に実験2です。
4枚翅の効率を測定するために、翼の間隔を1㎜単位でずらした模型を使ってそれぞれの沈下率と滑空比を測定しました。もしトンボの翅が沈下率を優先しているなら、熱上昇気流の利用によって飛行し、滑空比を優先しているなら自力で飛んでいると考えました。
まず沈下率の結果です。
スリット幅が増えても変動が少なく、前後の翅の隙間は沈下率にあまり影響しないと考えられます。
次に滑空比の結果です。
スリット幅が増すと滑空比は落ちています。したがって四枚翅は滑空比で劣っていると考えられます。
実験3です。
模型のアスペクト比を変えつつ沈下率と滑空比を測定し、トンボの翅のアスペクト比はどのような特性を持つのか調べました。
測定した沈下率について結果をまとめたグラフが下図です。それぞれのアスペクト比について平均値と最小値をグラフで表しています。アスペクト比が5のときに、沈下率が最良となりました。これは、トンボのアスペクト比に近い値です。
したがってトンボの翅は浮くことに適したアスペクト比であることがわかりました。
次に、滑空比について結果をまとめたのが下のグラフです。それぞれのアスペクト比について平均値と最大値を表しています。トンボの翅のアスペクト比付近が最良の滑空比となりました。
したがってトンボの翅のアスペクト比は沈下率、滑空比どちらにおいても最適であると考えました。
トンボが浮いていられる秘密の結論
結論です。トンボの翅は、特に沈下率に優れていることがわかりました。しかし滑空比が悪く、自力では遠くに行くことはできないと考えられます。そこで熱上昇気流を利用して、羽ばたかずに浮いていられるのではないかと考えました。また前後の翅が近いことは滑空比のさらなる悪化を防いでいます。
最後に、トンボのアスペクト比が実機グライダーのように高くない理由は、トンボのような低レイノルズ係数では滑空比が悪くなってしまうためと考えました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2015年の7月頃から始めました。
■今回の研究で苦労したことは?
沈下率と滑空比の記録をとる際、トンボの模型の機体の調整ができていないときちんと真直ぐに飛ばないため、調整をするのが難しかったです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
グラフもわかりやすくまとめたので、そこから導いた結果と照らし合わせながら見てほしいです!!
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
『模型飛行機の科学―フリーフライト機の理論と設計』和栗雄太郎(養賢堂)
『学研の図鑑LIVE「昆虫」 』 植村好延[「トンボ」項目監修・執筆](学習研究社)
『飛ぶ そのしくみと流体力学』 飯田誠一(オーム社/テクノライフ選書)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
出来る限りこれからも続けていきたいと考えています。今はメガネウラの羽根の研究を始めています。
■ふだんの活動では何をしていますか?
1年生はメガネウラの研究、2年生の天文班は天体観測や星についての学習をしています。また、月に1度放射線を測り記録しています。
■総文祭に参加して
全国の科学関係の研究を見ることができ、交流もできて、とても楽しい時間でした。また、このような場で発表する機会はなかなかないので、自分たち自身としても良い経験になったと思います。
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