2016ひろしま総文 自然科学部門

数式やグラフを駆使して「書く」とはどんなことかに迫る。物理がぐっと身近になる!

【物理】川崎市立川崎高校科学部

(2016年7月取材)

 左から 倭文龍騎くん(2年)、田辺晴希くん(2年)
左から 倭文龍騎くん(2年)、田辺晴希くん(2年)

■部員数

6人(うち2年生3人・3年生3人)

■記入者

倭文(しどり)龍騎くん(2年)

 

書くということ

チョークを使って1グラムあたりで書ける線の長さを調べてみる

私たちが日常的に行っている「紙に文字を書く」という行為について、科学的な分析を加えてみようと思い、今回の研究を始めました。

 

初めに、人の筆圧の個人差によって書くことのできる長さに違いが生じることを確認しました。実験では、複数の被験者に任意の筆圧で6メートルの線をチョークで引いてもらい、その後のチョークの質量差を測定することで、1gあたりで書ける線の長さを求めようとしました。

結果がこちらです。それぞれの被験者に同じ操作を30回繰り返してもらい、その試行数を横軸、前後のチョークの質量差を縦軸にとりました。また同じ色のマーカーは同じ被験者を表します。

 

6mの直線を書くのに使用するチョークの質量のほとんどが0.1~0.6gの間に集中しています。つまり、チョークは、1m当たりで0.016~0.1g消費されていました。また、同じ長さの線を書くときのチョークの使用量に約6倍の個人差が生じることも発見しました。またチョーク全体の質量が11gなので、1本のチョークで書くことのできる線の長さは約174mであることが判明しました。

シャープペンシルは書き手による個人差が大きい

次に同じ実験をシャープペンシルでも行いました。シャープペンシルを使用することによって、前後で生じる芯の質量差はさらに小さくなると予想されたので、今度は18mの線を書いた前後の質量差、全長差を測ることにしました。また4B・2B・HBと硬さの異なる3種類で実験しました。

実験結果がこちらです。

 

グラフから、被験者が同じであれば、使用する芯の濃さが異なっても、ある程度一定の筆圧で線を書くことがわかりました。また被験者が異なると、筆圧の個人差が明瞭に認められました。シャープペンシルの芯の質量・長さの減少の個人差は最大2~3倍程度でした。また、使用する芯の濃さが増加すると芯の消費量が上がることもわかりました。

以上の2つの実験より、人間はチョークやシャープペンシルで書く際にその消費量にかなりの個人差があることがわかったので、今後の実験に人間を使ってこれらの筆記具を試すのは相応しくないと判断しました。

 

4Hの芯は4Bの2000倍の長さの線が書ける!?

そこで次の実験では筆圧一定で書く装置を使い、芯の濃さと書ける長さの関係について調べました。紙はレジで使用するロール紙を使い、シャープペンシルは動かさずにロール紙を移動させ、シャープペンシルの自重がもたらす圧力で線を描きました。

ここでシャープペンシルの芯1mmを使用して書くことのできる線の長さで、4Bの濃さの芯を1としたときのそれぞれの濃さの芯が書いた線の長さを軌跡比と定義しました。この軌跡比の平均値を用いて実験結果をまとめたのが下のグラフです。

 

濃さを順に並べると、軌跡比は指数関数のような増加の仕方をしています。1mmの芯を使用して描くことのできるで書ける線の長さは、4BからHBまでの濃さで2~27mですが、Hから4Hまでの濃さでぐっと増加して370~3700m程であることが分かりました。4Hの芯は4Bの芯の約2000倍の長さの線を描くことができ、市販されている芯1本(全長約60mm)で、東京から静岡まで直線が引ける計算になります。 

筆圧が強く、芯の濃度が濃いほど書ける長さは短くなる

次に、筆圧の違いと書くことのできる長さの関係を濃さごとに調べようとしました。シャープペンシルへの「筆圧」が120gと80gになるようにおもりを調整して実験しました。実験に使用した装置などは、前の実験と同様です。

結果、芯の濃度が濃くなる程、また筆圧が強いほど書くことができる長さは短くなりました。4Hの濃度では、筆圧が80gと120gで書ける長さに約4500mも差が出ました。

紙の滑らかさによって書ける長さはどう変わるのか

次に、「書く」ということを、「紙によって筆記用具が削られている」というふうに見方を転換しました。その視点に基づき、様々な紙の摩擦係数を調べました。

 

これは、ふつうの紙には容易に線が引ける鉛筆でも、表面が滑らかなポスターやカレンダーには書きづらい、という経験から生まれた観点です。

 

実験方法は、下図のように様々な種類の実験用紙とおもりを斜面上に置き、斜面の角度θを増加させて重りが滑り出す角度を調べました。

実験結果です。ポスターや厚紙など、手触りがツルツルしている紙の摩擦係数は、グラフの赤枠で囲ったように意外に高いことがわかりました。

 

私たちは、紙の摩擦係数が高いほど濃い線が書けると予想していましたが、ポスターや厚紙は、より摩擦係数が低い紙よりも薄い線しか書けません。そこで、この実験系自体に問題があるのかもしれないと考え、別の条件下で摩擦係数を測定することにしました。

次の実験は図のように紙の上に乗せたおもりをバネばかりで引くことで摩擦係数を測定することにしました。

結果です。普段使われる紙と紙やすりの間では大きな差が表われ、ポスターやカレンダーも先ほどほどの大きな値は示しませんでした。

 

しかし、紙の摩擦係数をよく見ると、筆圧が高いほうが摩擦係数は低くなる、と一見矛盾した結果となりました。先ほどの実験で、筆圧が高いほうが芯は削られやすいことが分かっているので、摩擦係数も高くなるはずです。ここで私たちは、おもりを乗せた箱の紙との接触面積が大きかったために、アイロンがシャツのシワを伸ばすように、箱が紙の凸凹を伸ばしてしまったのではないかと考えました。そうであれば、筆圧が高いほどアイロン効果が顕著に表れ、摩擦係数が低くなることが説明できます。

そこで私たちは、接触面積がより小さい条件での実験を行いました。図のようにシャープペンシル側は固定して、紙におもりを加えていく装置を使用しました。

今度は予想通り、濃い線が書ける色画用紙の摩擦係数が最大で、薄い線しか書けないPPC原稿用紙の摩擦係数が最小になるという結果になりました。ただし、カレンダーの紙とロール紙の摩擦係数と滑らかさの関係は、矛盾したものとなっていました。

そこで、「シャープペンシルの芯がよく削れるほど濃い線が書ける」というもともとの仮説を検証するために、おもりの重さではなく、300cmの線を書くために使用した芯の長さを測定しました。

 

結果、紙の滑らかさ順に芯が削れた長さが大きくなっていました。また、削れた芯の長さは、最も線が濃くなる紙と最も薄くなる紙で約10倍もの差がありました。

芯の濃さを数学的に表現してみる

次に、シャープペンシルの芯の濃さを数学的に表現するために照度計による測定実験を行いました。図のようにシャープペンシルで書いた線に光を当てた時、濃い線の方が多く光を吸収するので反射光が少なくなります。このことを利用して、様々な濃さのシャープペンシルの芯の照度値を調べました。

結果を、照度測定の平均値に対する倍率として表しました。予想通り薄めのHなどの芯の方が、濃いBなどの芯に対する反射光よりも照度が高くなりました。また紙と照度計の距離が大きくなるにつれ、芯の違いによる照度の違いは縮まりました。

 

しかし薄い芯では、4HよりもHのほうが照度は高くなるなど、予想に反した結果も見られました。

そこで、今度は紙の反射光ではなく、通過光を測定することにしました。反射光と同じく線が濃いほど光を吸収するので通過光は小さくなると予想しました。

 

その結果、芯の濃さが上がると通過光の照度も一定の割合で下がるという、一次関数的なデータが得られました。よって芯の濃さをlx(ルクス、照度の単位)で表すことに成功しました。 

描線の濃さはグラファイトの粉の紙への吸着度合いによるものだった

最後にシャープペンシルが引いた線の痕跡と光の関係について調べました。実際に顕微鏡で線を拡大してみると、グラファイトの粉は紙に均一に付着しているわけではないことがわかりました。そこで書いた線の1.0×0.6mmの区間を小さなマスに分けて、黒いマスを数えることでその線の遮光率を算出しました。これを様々な濃さの芯で繰り返しました。

その結果、遮光率と芯の濃度も一次関数的な関係にあることがわかりました。また、最も濃い4Bの線であっても遮光率はわずか44%となりました。このことから、芯の濃さはグラファイトの粉の黒さではなく、粉の紙への吸着度合いによって決まると考えました。

日常的な「筆記用具で書く」ということを、筆圧や摩擦係数、照度などの物理単位で科学的に表せないかと思い、様々な条件で実験をしました。実験条件の設定を細かく変えることによって、仮説を裏付けることに成功しました。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

学校生活の中の身近な題材に注目して研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

1日2時間あたりで、約1年半続けています

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

測定データの精度を向上させることがたいへんでした。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

パワーポイントの図に特に力を入れました。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

この研究のみに時間を使っています。

 

■総文祭に参加して

 

他の学校の優秀な作品を見ることができて有意義でした。

 

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