(2016年7月取材)
■部員数
17人(うち1年生5人・2年生5人・3年生7人)
■答えてくれた人
近藤大泰くん(3年)
球体が転がって描く「サイクロイド曲線」の特徴
私たちは球体のサイクロイド曲線上の運動を研究テーマとしました。
興味を持ったきっかけは、数学の授業でサイクロイド曲線(円を転がした時の円周上の1点が動く軌跡)を習ったときに、この曲線が最速降下曲線(曲線に沿って物を転がしたときに,物が一番速く転がり落ちる曲線)であることを教わったことです。
この曲線上を物体が転がるときに、二つの特徴が現れます。一つは「等時性」(曲面上のどこに球を置いても末端に到達するまでの時間が同じということ)です。これについては昨年すでに検証しました。
もう一つはこれが「最速降下曲線」であるということです。つまり、ある高所の点Aに静止している物体が低所の点Bまで、重力のみを使って移動する際に最も早くBに到達できる曲線です。
これに関しても昨年度実験しましたが、ある問題が生じました。それは実際にスロープを制作してみるとサイクロイド曲線のスロープ上よりも、楕円のスロープ上の鉄球の方が早く降下できたことです。これは空気抵抗や動摩擦力の影響ではないかと思い、それらを考慮した上で再計算しましたが、やはりサイクロイド曲線が楕円よりも早く降下できる計算になり、実験と矛盾した結果となりました。
昨年の課題「理論と実験結果の不一致」を今年こそリベンジしたい!
そこで今年度は鉄球の回転運動に着目し、これに関する実験から矛盾を解消しようと試みました。
そのために昨年度と比べて、回転運動がより顕著に表れる半径の大きい鉄球を採用しました。またスロープも昨年度よりも支点を増やし、より正確で滑らかなものとしました。こちらが今年作成した楕円とサイクロイド曲線となります。
まずは新しい装置で空気抵抗が影響するのか確かめるために、真空ポンプで真空状態にした斜面と普通の斜面での降下時間を比べたところ、空気抵抗の影響は極めて小さく、無視してよいことがわかりました。
続いて、この曲線でも昨年度と同じく楕円の方が降下時間で優れるのか調べました。降下開始には電源装置とコントローラーを用いて、降下時間の測定はハイスピードカメラを用いて人為的な誤差が最小限になるように努めました。こちらが実験の様子です。
このような動作を300回繰り返した結果の平均値がこちらです。やはり楕円のほうが降下時間は短いことがわかりました。
また回転運動を考慮した場合とそうでない場合の計算結果と実験値を比べました。
すると両曲線ともに曲線をすべて転がる場合と滑る場合の計算値の中間に実験値が収まりました。
そこで私たちは、曲線上を降下する鉄球の運動は「転がる運動と滑る運動が混在している」と考えました。
傾斜角度を20度から36度まで1度ごとに調節する詳細な実験からわかったこと
続いて鉄球の転がる運動と滑る運動の境界を調べるために実験を行いました。このような実験装置を用いて、傾斜を20度から36度まで1度ごと調節し、終端での鉄球の速度を100回ずつ測定しました。
結果をまとめたグラフです。後に計算結果と比べやすくするために100回の平均値を結んだグラフとなっています。
物体が斜面を降下する際、その位置エネルギーは以下のように5/7が並進運動エネルギー、2/7が回転の運動エネルギーへと変換されます。このことから、鉄球が回転する場合と滑る場合の理論値が算出できます。
しかし今回、鉄球はレール上を運動しています。そのため、図のように鉄球の半径と運動の回転半径が一致しません。
そこで先ほどの文献の値を補正した位置エネルギーの分配比が下図となります。
この位置エネルギーの分配比と、力学的エネルギー保存則(すなわち並進運動と回転運動のエネルギーの和は元の位置エネルギーに等しい)の連立方程式から、理論的な終端速度が算出できます。
これが左の通りとなりました。
この理論値を先ほどのグラフに追加すると、かなり実験値と近いことがわかります。
また、理論値から実験値を引いたものをグラフにしたのが下図です。30度を境に実験値の方が大幅に大きくなっています。つまり、理論上よりも速くなっています。これは物体が回転することなく斜面を降りたため、回転運動エネルギーに行くはずだった位置エネルギーも並進運動エネルギーへと変換されたためと考えました。
したがって先ほどの楕円・サイクロイド曲線でも31度~36度の範囲では滑り、それまでの角度では回転している、と仮定しました。
また滑っている範囲のデータから鉄球とレールの動摩擦係数も算出しました。それぞれの角度でほとんど変化がなかったのでこれらの平均値を鉄球とレールの動摩擦係数としました。
まとめると、今回測定した鉄球のサイクロイド曲線のスロープの降下時間と、各種理論値がこちらです。
また先ほどの実験で算出した動摩擦係数を考慮した理論値も加えました。
さらに、先ほどの実験結果から30度で転がり始めると仮定した場合の理論値も算出しました。
このように実験値と完全に一致させることはできなかったものの、様々な条件を考慮することによって理論値を徐々に近づけることに成功しました。
こちらは楕円の実験値と各種理論値です。こちらも条件を付けくわえることによって実験値に近づいていることがわかります。
また30度で滑り始めると仮定した場合の理論的な降下時間は、楕円とサイクロイドで一致しています。このことは「日常的な設定では必ずしもサイクロイドの降下時間が最も短くなるとは限らない」ことを示しています。
結論です。
鉄球の運動は転がる運動と滑る運動が混在しており、ある傾斜角度以下では転がる運動が優位となります。また30度を境に滑る運動と転がる運動を切り替えたと仮定して理論値を計算すると実験値に近づけることができます。
今後の展望として、鉄球は転がる運動と滑る運動を同時に行っていると考えられるので、それについても研究したいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
サイクロイド曲線は数IIIで扱われますが、このサイクロイド曲線について学んだ際に、これが最速降下曲線であることを知り、検証してみようというのが発端でした。
しかし、実際に模型でサイクロイド楕円や直線、二次や三次関数を作って比較してみたところ、いくら試行を重ねても、楕円の方が早く降下してしまう現象が見られました。シミュレーションを行ってみると、サイクロイドの方が早く降下するのでシミュレーションと実験に矛盾が生じてしまいました。これを解決するために、この矛盾を引き起こしている原因を調べようとしたのが、その後のきっかけです。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
私たちの代になってからは、1年ですが、それまでに少なくとも4年間は続けていました。
■今回の研究で苦労したことは?
今回の着眼点でもある「転がる」と「滑る」という2つの現象を、どのように数値的な違いで表現するのかということです。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
20°~36°までの斜面で鉄球を転がした実験結果が、理論的に算出した理論値とほぼ一致していたことです。30°以上の斜面では鉄球が滑って運動していることを考慮すると、サイクロイド曲線が最速降下曲線とは断言できない傾向がみられたことです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
『しっかり身につく基礎から学ぶ力学』竹内秀夫(現代数学社)
■今回の研究は今後も続けていきますか?
私たちは今年卒業なので、2年生・1年生に続けてもらうかどうかを判断してもらっているところです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
「物理宇宙部」という名前なので、宇宙に関することも行っていて、小学生対象の出前授業や天体観測会を実施したり、冬場には星の見やすい所で天体観測や天体写真の撮影を行ったりしています。物理は一つのテーマに絞って研究を行い、それ以外は、自主的に実験器具を製作し実験を行っています。
■総文祭に参加して
初めての総文祭でしたが、他の研究を見て、研究内容だけでなくプレゼンの方法も学べるところがたくさんありました。理系の道に進んで研究を行えば、それを人前で報告することはあると思うので、これからの人生にも役に立ついい経験だったと思います。何よりも、緊張することなく楽しく発表できて、ベストが出せたことが一番よかったです。
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