2016ひろしま総文 自然科学部門

四季があり自然豊かな日本だからこそ、「雨」をエネルギーに変える!

【物理】東京都立戸山高等学校SSH物理コース

(2016年7月取材)

左から 高久智妃さん(3年)、小野美史さん(2年)
左から 高久智妃さん(3年)、小野美史さん(2年)

■部員数

39人 (うち1年生15人・2年生21人・3年生3人)

■記入者

小野美史さん(2年)

 

雨滴発電

普段は無駄になっている微小な自然エネルギーを収集する「エネルギーハーベスティング」

近年、地球温暖化などの問題に対応するために再生可能エネルギーの需要が高まっています。しかし、それらを利用した発電の多くは、コストが高いことや発電設備の設置が困難であることなどから、十分に需要に答えられていません。

 

そこで私たちは、エネルギーハーベスティングというコンセプトに注目しました。エネルギーハーベスティングとは、普段無駄になっている微小な自然エネルギーを収集して電力へ変換することです。四季があり、自然豊かな日本には、このような自然エネルギーが豊富であると考えたからです。その中でも私たちは「雨のエネルギー」に着目しました。

 

具体的には、雨粒が地面に当たる時の運動エネルギーを圧電素子によって電気エネルギーに変換し発電する、という新しい発電方法です。この発電方法を実証し、雨のエネルギーを効率よく電気エネルギーに変換する方法を検討することを目標に実験しました。

 


圧電素子(※)とは、加えられた力を電圧に変換する圧電効果を利用した素子です。

 

圧電素子の性質として、取り出せる表面電荷は加えられた圧力に比例して増加することがわかっています。

 

※圧電素子について

「力で電気を生み出す仕掛け −身の周りにある圧電効果−」

(TDKテクノマガジンサイトへ)

 


これまでの実験では、市販のシャワーヘッドで高所から降雨を再現し、地面に設置した圧電素子の発電量を測定していました。この実験により発電が可能であることが確認できたものの、1分間でおよそ0.3mVと微量でした。

雨滴エネルギー増加のための仮説と実験 ~面積は狭く、土台は軟らかく?

よって仮説として、素子の上に置く物体と素子の接触面積を小さくすることで圧力が上がるのではないかと考えました。そこで圧電素子との接触面積が大きいものと小さいものとを比べることにもしました。

 


第二の仮説として、素子を設置する土台が硬いか軟らかいかによって、圧電素子の歪みの大小に差が生じると考えました。

 

素子を設置する土台が軟らかい方が圧電素子は大きくゆがみ、発電効率が上がると考えました。

 


そこで、素子と力を加えるものを仲介する物体として、素子との接触面積が大きい「角材」と小さい「半球」の二種類を選びました。素子の土台は、硬いアクリル板と柔らかいスポンジと二種類選びました。この2×2の4通りの組み合わせでそれぞれ生じた電圧を測定しました。

具体的には、図のように回路を組み、一定の力を加える装置で素子に力を加える操作を500回繰り返しました。作業をやめた直後の電位差の値を結果として用いました。

 


結果、最も電位差が大きかったのが半球とスポンジを使ったものでした。また、電位差がもっとも小さかったのが角材とアクリルを使ったものでした。これは私たちの予想通りでした。

 


したがって、仮説の通り、素子との接触面積が小さい半球を乗せることと、素子の土台として柔らかいゴム製スポンジを用いることでより効率よく雨のエネルギーを回収できると結論づけました。

 


課題をクリアして、より実用化に向けた実験を繰り返す

さらに一定の力を与える装置ではなく雨に模した水滴によって力を与えてこの実験を行おうとしましたが、発電装置が水没してうまくデータが取れませんでした。

当初の高所からシャワーヘッドで降雨を模した実験では素子の上の物体は接触面積が大きく、土台も硬い物体でした。したがって、今回の実験で発見した最適な発電装置を使えば、さらに多くの発電量を見込めると考えられます。また、当初の実験方法では風などの外的要因を排除しきれずに正確に測定できなかったので、室内で実験を行いました。ところが実験装置が水没してしまい、データが取れませんでした。

 

今後は室内で水没せずに測定できる実験系を作りたいと思います。また実用化の際にも水没が問題になると考えられるので、水没を防ぐ設置条件も考えていこうと思っています。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

最初は、ただ「発電したい」という単純な思いからでした。世界中で電力問題が騒がれる中、振動を利用した発電方法はあまり発展していないことを知ったのです。最近は、音を利用した振動発電が徐々に研究され始め、実用化に近づいています。しかし、決して音に限ったことではないのではないかと疑問を抱きました。

 

しかし、他に利用されていない振動を探すにも、なかなか見つかりません。ある日、本校の実験室で考えていた時、ふと外を見ると雨が降っていたのです。このような些細なきっかけから、雨粒が地面に落ちたときのエネルギーを利用することに決めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

連休や休みの日を使って1日7時間を半年くらいです。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

「雨で発電」というテーマからもわかるように、実験には水と電気が混在します。回路の部分に微量の水滴が付着するだけで、放電してしまいます。回路を防水加工にしなければならず、また蓄電部に欠陥が生じやすかったために、発電した電気を正確に測定することに最も苦労しました。しかし、今回の実験でこのような苦労があったからこそ、次の実験をする時に活用していきたいと思っています。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

今回の実験の中で最も工夫したのは、圧電素子に毎回同じ力を加えることができる装置です。今までは手動で力を加えていましたが、この装置を作成したことで、より正確な実験を行うことができました。

 

また何より、この研究のテーマである「雨で発電」という点に注目してほしいです。これからも雨滴発電の研究続けていくので、ぜひ今後に期待してください!!

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

『圧電バイモルフ型素子の発電応用について』日新電機株式会社電子デバイス事業推進部

『「振動力発電」のすべて』速水浩平(日本実業出版社)

『JR東日本ニュースリリース』(JR東日本2008)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今後は、発電機としての性能を高めることに重点を置こうと考えています。例えば、実際に雨で発電するときに、落下した雨が圧電素子の上に溜まってしまい、発電量が落ちることがわかっているので、発電機の表面の疎水性に注目して研究を進めていきたいと思っています。また、その他にも回路の単純化や蓄電方法の改善も含めて行いたいと考えています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

地域の小中学校で子ども向けに実験教室を行ったり、本校の文化祭でペットボトルロケット教室を開催したりしています。他にも、毎年物理チャレンジに挑戦したり、物理系の講義を受けたりと自ら物理の学習にも取り組んでいます。

 

■総文祭に参加して

 

率直にとても良い経験になりました。というのも、ただ単に楽しかったのではなく、たくさんの貴重な経験ができたからです。他者の研究発表を聞いたり、広島大学内の研究施設を巡ったり、他にも他校の生徒との交流や長沼毅教授の記念講演など、とても興味深いものばかりでした。自身の研究発表では全国というレベルの高さを実感し、これからさらに研究に熱意を注ぎたいと思うことができました。研究発表を受けて様々な方から質問やアドバイスを頂くことができ、今後の研究に大いに役立てていこうと思います。

 

最後に、ここまでこの研究を続けることができたのも、先生や先輩方を始め、家族や友人など多くの方の支えがあったからです。この総文祭に参加できたのも多くの方のおかげです。本当にありがとうございました。

 

2016ひろしま総文の他の発表をみる <2016ひろしま総文のページへ> 

 

河合塾
キミのミライ発見
わくわくキャッチ!