(2016年7月取材)
■部員数
20人(うち1年生7人・2年生6人・3年生7人)
■答えてくれた人
菊池耕太郎くん(3年)
リングキャッチャーの成功の秘訣は、回転と紐のしなりだ!
動画のようにリングの中に紐(ひも)を通し、リングを落下させると、リングと紐が結びついているわけでもないのに、リングは落ちずにそのまま紐に絡まることがあります。この不思議な現象はリングキャッチャーと呼ばれています。
一般に、落下時にリングが90度回転していると成功すると言われていますが、実際に試してみるとただ90度回転させるだけでは絡まらない時も多々ありました。そこで、リングキャッチャーの成功につながる要因と成功率を上げる条件を見つけるために、研究を行いました。
実験のために、スライドのような落下装置を作成しました。
この装置ではリングを巻き数の異なる電磁石で支えています。ここで電磁石に流す電流を弱めていくと、巻き数の少ない電磁石から順に磁力が弱まり、リングは巻き数の少ない電磁石に支えられていた部分から先に落ちます。これによって、安定的にリングに回転をかけながら落下させることができます。
実験には、写真の三つの落下装置、1号・2号・3号を用いました。
まずリングキャッチャーの成功に回転が必要なのかを調べるために、リングを回転させた場合とそうでない場合の成功率を調べる実験をしました。結果、回転がなかった場合は全く成功しませんでした。さらに、成功した場合の様子を観察したところ、紐の末端部が図のようにしなっていました。
以上によって、リングキャッチャーの成功にはリングの回転と、それによって発生する紐のしなりが必要であると考えました。
紐のしなりはリングが発生させていた
ここでリングがどのようにして紐に絡まるのかを考察しました。
床に水平な状態から回転しつつ落とされたリングは、垂直状態になるときにリングの下部が紐にあたります。このとき紐がしなり、末端部がリングの中に入ります。
このようにしてリングは紐に絡まります。また、リングがどのように紐をしならせるかについても考察しました。
図はリングキャッチャーを横から見たときの断面図です。リングは回転しながら落ちるので、リングの下部は斜め下方向に紐を直撃します。そして紐を「く」の字型に曲げつつ落下することで、大きなしなりが発生すると考えました。
このしなりの発生モデルを計算しようとしましたが、とても複雑になったので、Matter.jsという物理シミュレーションソフトで再現することにしました。
すると、落下しながら衝撃を与える物体によって紐にしなりが発生していることが確かめられます。今後はこのしなり発生モデルを使って他の計算もしていきたいと思っています。
しなりと紐の長さに関係はあるのか
3つめの実験は、紐の長さとしなりの長さについての関係を調べました。紐の全長を変えたときと、リングの下部(円柱)が紐に当たる位置を変えたときのしなりの長さをそれぞれ測定しました。その結果、リングの下部が紐に当たった位置から紐の末端までの長さが長いと、発生する紐のしなりも長くなることがわかりました。
そこで、リングの下部が紐に当たる位置から紐の末端までの長さを「しなり決定長」と呼ぶことにします。
次に、リングキャッチャーの中でリングがどのような動きをしているかを調べるために、時間ごとのリングの回転角度の推移を測定しました。実験方法は、リングキャッチャーの様子を420FPS(1秒当たりの撮影コマ数420コマ)の動画で撮影し、動画中のリングの回転角度を一コマずつ調べました。時間順にまとめると、下のようなグラフになりました。
リングの下部が紐に衝突する前のグラフの傾き(=リングの角速度)がほぼ一定であるのに対し、衝突後の50~100コマ目あたりは傾きが緩やかになっています。つまり、リングの角速度が減少しています。これは、リングの下部が紐に衝突した後は、リングが紐から力を受けているためと考えられます。また、100コマ目からは傾きが急になったり緩やかになったりしています。これは紐がリングの一端にゆるく絡みつき、そこを支点にリングが振り子の様な運動をすることで、角速度が上がったり下がったりしたものであると考えられます。
さらにリングキャッチャーは、紐の全長がどれくらいであれば成功しやすいのか調べました。紐の全長を変えつつ成功率を調べ、同時にリングの様子をハイスピードカメラで観察しました。その際に、「終端回転角度」というものを定義し、これに着目して考察を行いました。
図は、リングキャッチャーの様子とそれを横から見たものです。リングの下部が紐の終端に達した時の図の角度を終端回転角度と定義しました。
リングの重さによって差は出るか
結果です。100回試した時の成功率の推移をグラフにまとめたものが下図です。丸い点は7.1グラムの軽リング、三角の点は17.0グラムの重リングでの成功率です。
まず軽リングでは、(1)の範囲(40~90㎝)では成功率の上昇率が見られました。この区間の終端回転角度は90~180度でした。
右の図は、この時のリングと紐の様子を横から見て模式図化したものです。
(2)の範囲(90㎝以上)では成功率は下降傾向がみられました。終端回転角度はリングが逆回転し、90度未満になることもありました。
重リングでは、(1)の範囲(40~90㎝)で成功率が上がる部分があったものの、すぐに下がりました。終端回転角度は90~180度でした。
(2)の範囲(60~120㎝)では成功率はほぼ0%で終端回転角度は180~270度でした。
(3)の範囲(120㎝以上)では成功率が上昇傾向を示し、終端回転角度は270~360度でした。
実験結果を整理すると、終端回転角度が90~180度までと270~360度までの時、リングキャッチャーはよく成功しました。また180度から270度までの間ではしなりが移動してリングに入りづらいため、成功率が下がると考えられます。
さらに軽リングでは、紐の全長が長い時に逆回転という現象が見られました。これはリングが紐から力を受ける時間が長くなり、力積が大きくなるからであると考えました。
リングの中に紐がはいりやすくなる条件はこれだ!
まとめです。リングキャッチャーの成功するメカニズムを実験とシミュレーションで解明しました。また、その成功率を上げる要因として、リングの下端部が紐に衝突する位置である「しなり決定長」というものを定義しました。これが長ければしなりも長くなるので、リングの中にしなりが入りやすくなります。また終端回転角度を90~180度、あるいは270~360度にすることによってもリングの中にしなりが入りやすくなり、リングキャッチャーに成功率を上げることも発見しました。
今後は、複雑に影響を及ぼしあっているリングキャッチャーの成功要因のうち、最も成功率が高い理想の環境を見つけたいと思っています。
■研究を始めた理由・経緯は?
我々が新入生だった時の歓迎会で、先輩がこの「リングキャッチャー」を見せてくれました。そこでこの発生の原因に興味を持ち、研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
2014年4月から週4~5日、3時間程度の研究を2016年5月頃まで行いました。
■今回の研究で苦労したことは?
・リングの回転の様子を一定にするための装置の改良すること
・実験データをとるために、リングを何度も落とすこと
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
リングに一定の回転を加えるために、装置を作製したので、そこを見ていただけたら嬉しいです。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
先行研究において、リングキャッチャーは90°のリングの回転により起こるとされており、そこ以外の原因があるだろうと、研究を始めています。
・『リングキャッチャーをマスターしよう』
http://www.jss.or.jp/fukyu/kagaku/data/614.html
・『リングキャッチャー キャッチング術』舩田優(季刊『理科の探検』2014春号)
・Matter.js-a 2D rigid body JavaScript physics engine
・『リングキャッチャーを百発百中に 第3報』伊藤潤平、菊池耕太郎(第12回物理学会Jrセッション論文)
■ふだんの活動では何をしていますか?
ふだんは研究を主に行っていますが、それ以外にも、校外で理科の楽しさを伝えるため、理科的な原理を含んだおもちゃを子どもたちと共に作る、というような活動も行っています。
■総文祭に参加して
どこの高校の発表も非常にレベルが高く、我々が約2年半取り組み続けた研究も、未熟な点が多々あったと痛感する結果ともなりました。後輩たちに総文祭で学んだことを伝え、物理化学部として、より高い研究を目指していきたいと思います。
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