(2016年7月取材)
第40回全国高等学校総合文化祭(2016ひろしま総文)が、広島県で開催されました(7月30日(土)~8月3日(水))。県下9つの市で、25部門に約2万人の高校生が集まりました。「文科系のインターハイ」と呼ばれる総文祭では、日ごろの成果を発表し、技を競うとともに、同じ活動に取り組む全国の仲間達と交流を深めることも大きな目的となっています。
みらいぶでは、東広島市の広島大学総合科学部で行われた自然科学部門の発表を取材しました。7月30日・31日の2日間で、「物理」「化学」「生物」「地学」「ポスター(パネル)」の5部門でのべ169件の研究成果の発表が行われました。また、2日目の7月31日には記念講演と生徒交流会、3日目は広島大学や東広島市内の研究施設見学などのコースに分かれた巡検研修が行われました。
[2016ひろしま総文ホームページ]
http://www.hiroshima-soubun.jp/
■研究発表
自然科学部門の研究発表は、生物35校、化学32校、物理31校、地学33校が出場しました。
1校あたり持ち時間12分以内の発表と、その後4分以内の質疑応答で行われます。審査は発表前に提出された研究発表論文による事前審査(計10点)と、発表会場での当日審査(計30点)によって行われます。今年は各部門が2会場に分かれ、同じ時間帯に同時進行で発表が行われました。
昨年の研究をさらに発展させるために複雑な数式と日夜格闘! メトロノームの同期現象の数理モデル化Part 2
「二次元方向でのメトロノームの同期~多数物体での回転運動を探る」
貝化石が語る太古の海面変動のプロセスを明らかに!
「小出川(こいでがわ)貝化石の謎を追え!~貝化石群集の磨耗度・捕食孔から探る堆積環境」
ソフトテニスボールの回転の仕方を、4年にわたって徹底分析!
「バウンド時のボールの回転の変化について」
大空を仰いで得た観測データを、フライトレーダーと気象データから徹底解明!
「飛行機雲の研究~出現する条件と形~」
絶滅寸前のカスミサンショウウオの保護に取り組んで10年。緻密な生態調査が実を結んだ!
「守れ!ふるさとのカスミサンショウウオVII~保護活動の推進と生殖活動の解析~」
鹿児島の象徴 桜島の「火山雷」の発生メカニズムを火山灰から解き明かす
「火山灰の帯電状態に起因する火山雷」
個体別の行動調査に向けて アカハライモリ 1641匹を徹底比較!
「アカハライモリの個体識別と食性」
学校の名前のついた小惑星「sandashounkan」を国際ネットワークで追跡!
「小惑星sandashounkanの観測」
比熱の公式を使った実験で『化学便覧』の誤植を発見!
「自作のシェイカーで水溶液の比熱測定に挑戦」
「滑る」と「転がる」はどう違う? ~斜面を転がる球体が描く「サイクロイド曲線」のメカニズムを追え!
「最速降下曲線」
新入生歓迎会で先輩が見せてくれた「リングキャッチャー」の謎を2年間追い続けた!
「リングキャッチャーを百発百中に」
水田の整備で生息地を奪われるアリアケスジシマドジョウを守れ!
「アリアケスジシマドジョウの保護に向けて4~個体数調査と人工繁殖に関する研究~」
数式やグラフを駆使して「書く」とはどんなことかに迫る。物理がぐっと身近になる!
「書くということ」
四季があり自然豊かな日本だからこそ、「雨」をエネルギーに変える!
「雨滴発電」
スペースデブリ(宇宙ごみ)一掃大作戦!
「スペースデブリの除去をめざして~ライトカーブを用いた回転の様子と形状の決定~」
上空にゆらめくオーロラが、南極の夜空の明るさを支配する!
「SQMを用いた南極・昭和基地における夜空の明るさ観測」
山形の大地は今も動き続けている! ~岩盤の観察から見えてきた東日本大震災の影響
「大沼浮島の探求2015~断層形成の観察~」
水溶液が作る「蜃気楼」のメカニズムに迫る!
「屈折率勾配を持つ溶液に等価なレンズの導出」
最強生物と呼ばれるクマムシ、その肢のヒミツ
「クマムシ/肢ポンプ仮説」
クレーターが語る月の歴史を地上から読み解く
「クレーターの年代推定と分析」
毎日使うセッケン、泡立ちや汚れ落ちに影響を与えるものは?
「セッケンの性質」
かつて地元にあった「山梨の海」に思いを馳せるロマンの研究
「岩殿山を構成する岩殿山礫岩層の礫の方向性から古流向を探る」
小さなトンボはどのようにして長距離を飛ぶのか?航空工学の視点から解析!
『トンボの滑空』―トンボは滑空できるのか?―
長距離飛行できないはずの日本一小さなトンボが山を越えた!?
「ハッチョウトンボの分散に関する研究~トンボはどのようにして山を越えたのか~」
コイルガンを使ってエネルギー変換効率の限界を見究める
「高性能なコイルガンを目指して」
太古の微化石が天然のキューブ「黄鉄鉱」を作るまで
「微化石の黄鉄鉱化について」
通説は本当か?! 大河アマゾンの白と黒の支流の水が混ざらず流れ続ける「ワケ」に迫る
「並行する水流の混合要因」
従来よりも早く・安く・詳細な酸濃度の測定法を紹介します!
「酸濃度の簡易測定方法~ガラス繊維濾紙を展開する酸溶液~」
1535回にわたる実験から脂肪酸分子の動きを解明!
「脂肪酸分子の単分子膜中における挙動」
地元の名産品、焼酎から作る「酢」で過疎化の進む町を元気にしたい!
「焼酎から酢は作れるか 第2報」
年間1万匹のカイコを育てる最適な人工飼料とは?
「クワの葉を使わないカイコの人工飼料の研究」
岩手に春の訪れを告げるサクラソウ。絶滅させないために、最適な土壌水分量とその管理方法を解明する!
「サクラソウの人工繁殖に関する研究」
食虫植物「タヌキモ」が生育する「ため池」の水質はどこが違う?
「ため池の水質調査」
花から採った酵母で沖縄の酒・泡盛の香りと風味をゆたかに!
「花酵母の探索II~アルコール発酵能の測定~」
忍者顔負け?! 石垣のホウライシダの生き残り戦略
「別府市街地の石垣植生の研究II~石垣に適応したホウライシダの形態~」
立ちはだかる壁と戦う!新しい再生可能エネルギー
「セルロースからのエタノール生産に関する研究」
流れに身を任せているように見えるウキクサは、自分の意志で動いている?!
「踊るウキクサ 大調査せん?」
■ポスター(パネル)発表
「ポスター(パネル)発表」は、のべ38件の出展がありました。
研究内容や研究成果を縦120cm×横180cmまでのサイズの用紙にまとめて掲示し、実験器具なども展示。来場者がブースを訪れるとプレゼンし、質疑応答や意見交換を行います。 審査は、研究発表と同様、発表前に提出されたポスター(パネル)発表論文(10点)と発表会場での当日審査(30点)で行われます。さらに、ポスター(パネル)部門は、参加校からの投票(自分の学校以外)も加点されます。今回は会場が6つの教室に分かれ、各教室は地域も発表内容も異なる多様な発表が並びました。
なぜ今までなかった?! 多彩な発色が期待できる「銅箔」の色調のメカニズムを探る
「銅箔の色調変化の研究」
ろ過実験の時間を短縮するろ紙の折り方を、科学的に解明する!
「なぜひだ折りろ紙のろ過時間は短いのか~ひだの数から探る~」
花崗岩が語る大昔のマグマの活動から、似島の形成プロセスを明らかにする
「広島市似島に分布する広島花崗岩類の形成」
ツクツクボウシに方言があった?! 7300年前の大火砕流が生態系におよぼした影響を探る
「屋久島方言で鳴くツクツクボウシの正体を探る~大隅諸島の昆虫相に今も残る幸屋火砕流の爪痕?~」
「副実像」研究に新たな展開! 生物の眼で副実像は見えるのか?
「凸レンズに関する研究」
三葉虫のくぼみは本当に採食のためにあるのか―先行研究の検証と新たな仮説の提唱
「三葉虫の濾過採食機能の検証」
生育に有利な種子を、風に乗せてより遠く
「ケヤキの上部にできる種子の優位性」
オーロラの光の謎に、流星から迫る! ―高感度デジタルカメラを用いた、流星痕の測定
「流星が酸素を光らせる?~高感度撮影による流星痕の写真観測2」
■講評 ~研究姿勢を忘れずに
閉会式では、審査結果の発表の後、各部門の審査結果について、審査委員長からの講評がありました。
研究に取り組む姿勢について、とても参考になるお話がありましたので、要旨を紹介します。
[要旨(論文集)のまとめ方]
・論文集に書かれた要旨は、審査の参考になります。2ページしかないので目的をきっちり書くのは難しいかもしれませんが、「〇〇ということに興味を持ったので調べました」で終わってしまっているため、自分達だけでなく、他の人にも「こんなおもしろいことがありますよ」ということを伝えようとする観点が欠けているものがありました。また、図や表が間違っているものもありました。必ずしっかりチェックしてから提出しましょう。
[発表に際して]
・パワーポイントはかなり水準が高く、わかり易かったのですが、図や表の説明の時に、いきなり前に使った図表の番号を言われても、聞いている方はわかりません。一言でいいので説明するか、スライドの中に前に出てきたものとの異同を書いておくようにしましょう。
・発表に際して原稿を覚えてくる人がほとんどでしたが、間違えた時に言い直しをするのは、聞いている方はつらいです。聞いている人は原稿を知らないので、間違えても気が付きません。訂正するのでなく、言いたいことを自分の言葉で伝えましょう。言いづらいことはスライドに書いておく、というのも一つのテクニックです。
・また、ポスター発表では、丁寧に作ってあるものの、説明を全部聞かないと内容がわからないものがありました。ぱっと見た時に研究の内容がわかりやすくまとめられているか、ということが重要です。
そのためには、上の方に目的と結論を目立つように書き、詳細は下の方にまとめておく、というのがわかりやすいと思います。また、目的や解釈は合理的に書かれていることはもちろん、実験装置やサンプルなどの実物があると、よりイメージがつかみやすいと思います。
[研究の姿勢として気を付けなければならないこと]
・実験結果の信頼性に疑問があるものがありました。これは研究の根幹の問題です。1回だけ、あるいは2-3回の結果で結論を言い切ってしまう信頼性はあるのでしょうか。
実験では、必ず再現性を確かめてください。自然現象が相手のものは難しいですが、生のデータに向かい合いことが大事です。断定できなくてもかまいません。こういうふうに考えて、ここまで来たということでいいのです。
結果がばらつく時には統計処理をきちんとして、「変なデータ」も捨てないで、データときちんと向き合ってください。
・レベルの高い発表だった一方で、どこまでが今までにある研究の成果を活かしたもので、どこからが自分達のオリジナルの研究なのか、わからないものが見られました。
自分達が参考にした図や研究を引用する場合、参考文献などをあげるのは当然のことですが、特に継続研究の場合、先輩達がやってきたことと、今回の研究はどこが・どのように違うかを明らかにするのが基本中の基本です。
研究というのは、仮説を立てて実験あるいは観察し、検証してもうまくいかないことの繰り返しと言ってよいかもしれません。うまくいかなくても謙虚にデータと向き合い、「なぜそうなったのか」を考えることが大事です。成果を出すことだけを目的にしようとしないでください。
←自然科学部門スタッフを務めた広島県の高校生の皆さん(閉会式)
■みらいぶ特派員 取材後記
今回の研究発表・ポスター部門の取材も、みらいぶの大学生特派員が行いました。各部門の取材を終えて、発表への感想、思いを語ってもらいました。左から 高島崚輔くん(ハーバード大学)、山田修平くん(京都大学)、小坂真琴くん(東京大学)、登阪亮哉くん(東京大学)、猪股大輝くん(早稲田大学)
■来年は宮城県で会いましょう!
来年の総文祭「みやぎ総文2017」は、宮城県を会場として、2017年7月31日(月)~8月4日(金)の5日間、23の部門で開催されます。自然科学部門は、石巻市で8月2日(水)~4日(金)の3日間です。
来年もぜひ、宮城県で会いましょう!
■広島案内
みらいぶ大学特派員の猪股大輝くん(早稲田大学教育学部2年)が広島の街を歩きました。