森脇 優くん(2年)、丸小野成輝くん(2年)
高水高校(山口県) 担当国:イラン
(2020年11月取材)
■担当国を希望した理由を教えてください。
国連会議における大使とは、自国の国益の死守を徹底するのが本来の姿です。そのような原点に立ち返って「国益の主張に徹する戦略」という結論にたどり着きました。さらに突っ込んで考えてみたところ、「制裁による宇宙開発の禁止だけは避けたい」という主張をするイランが今回の私たちの戦略に一番合致していると思えたので、今回の担当国の希望をイランにしました。
イランが強硬な姿勢をとっているため、今回の私たちは国益の死守に焦点を当て、国益として4つの柱を立てました。その4つの柱とは、
・制裁による宇宙利用の禁止の回避
・民間企業の台頭を認めず、国家主導で利用を行っていく
・(イランは未だ宇宙利用の恩恵を十分に受けることができていないので)スペースデブリ削減・低減は20世紀に恩恵を受けていた国家が全面的に責任を負う
・国家機密公開義務の免除の明示
といったものです。これらが決議案に含まれないDRには、やむを得ず反対の意向を示すという、これぞイランの大使の模擬だと自信を持って言えるような戦法をとりました。
■準備の段階で苦労したことや、工夫したことがあれば教えてください。
議題に関する準備
イランという国の特殊性に着目して独特な国益を見出し、交渉のために「国益の柱」を立てて理論づけをすることによって、会議での議論が有利になるよう図りました。
イランは実際、国家機密等の事情もあり、踏み込んだ情報は全くと言っていいほど出てきませんでした。したがって、似た立場の国家や私たちが知りうる限りの情報からその立場を推測することで、会議においてその国益が保たれるように工夫しました。
オンライン会議に関する準備
幾度かペアでZoomを用いて準備を行い、その機能の理解を深めました。通信環境ができるだけ安定するよう、中継器を購入しました。さらに、グーグルドキュメントなどの一通りの機能を試してみました。
■大会当日は、どのようなことに気を付けながら会議に臨みましたか。
「国益重視」の姿勢をとるので、国益を含んだDRを事前に作成しました。
また、会議の傾向としてコンセンサスが望ましいと事前通達があったため、どのグループもコンセンサスを得ることに尽力しており、会議は極力融和的な姿勢をとるという雰囲気で進みました。そのため、本当の国連の雰囲気とは少し異なっていたように思います。
イランのスタンスや国家の特徴を踏まえ、交渉・コンバイン・投票の時には、国益を建前に反対することを徹底しました。私たちイランも国益の3つの柱が守られるようであれば、コンセンサスに協力するつもりでしたが、実際に通った中間国のグループのDRはイランの要求つまり国益を取り入れたものとはいえなかったので、仕方なくコンセンサスボートに反対しました。(森脇くん)
初動で遅れを取り、会議の主導権を取り逃がしてしまわないよう、特色を生かした武器である「国益」を多少強硬に主張することでイランの存在感を示し、各国がイランに配慮するように誘導しました。大まかに陣営の特色を意識しつつ、各グループの相互関係を整理して交渉のための情報に不足がないように立ち回りました。
中間国と先進国の対立は不測の事態でしたが、状況が一変した際には判断を迅速に行い、これまでの構想に執着しすぎないように心掛けました。中間国と先進国でコンセンサスのための決議案を出し、途上国は自国の国益が濃い決議案を出そうと画策していました。しかし、私たちはその案に拘泥することなく、すぐに中間国との個別交渉、先進国とのグループ間交渉に方針を転じる判断をし、その点は我ながらよい判断であったように思います。
他国にまるめこまれて国益を損なうことがないよう、毅然とした態度を徹底しました。ただし国益が保持された後のグループ内では、心証をよくするために適度にフランクに接するよう心掛けました。(丸小野くん)
■あなたが感じた、オンラインの模擬国連とリアルの模擬国連の、それぞれの長所・短所を教えてください。
オンライン模擬国連
[長所]
会場に向かうまでの移動に要する時間を省ける点がよかったです。(森脇くん)
対面ではないので話をもちかける心理的ハードルが低いことと、慣れた家に滞在できるので、睡眠に支障をきたさなかったことです。(丸小野くん)
[短所]
第一に、もともと所属していたルームを抜けて戻ってきたときには、どこまで話し合いが進んでいるのか見当がつかず、その度にパートナーや他の大使に聞かなければならず、個人にとっても全体にとっても手間がかかってしまう点。第二に、例年ならパートナーの横に着席しているため、その場で話し合えること(例えば、モーションで賛成するのか否か・どちらがプラカードをあげるか等)を決めるのに、無駄な時間を割かなければならない点。第三に、大会終了後、他の高校との交流の時間を一切設けることができない点。第四に、通信システムの不具合により、Zoomから退出してしまう恐れがある点です。(森脇くん)
家庭の事情や学校のネットインフラの整備状況といったものに通信環境が左右されやすく、会議の際の障害となりうるために、不公平が生じかねない点があります。また、ほかの参加者との会議後の交流や、その後の連絡の手段がなかった点、Working Memoを複数国に回す際も、一国一国に逐一コピー&ペーストして送る必要があり、事前に印刷しておくことで準備しておけるリアルの会議に比べて利便性に欠けた点、Google Documentの動作が重く、非常に扱いにくかった点などです。(丸小野くん)
リアルの模擬国連
[長所]
大会終了後、全国から集まった優秀な高校生と交流することができ、今まで自分が見ていた世界がいかに狭いものだったのかを思い知らされ自己研磨に励めると感じた点、外交として他のグループと交渉する手間があまりかからず、限られた時間の中で有意義な議論を議場全体で交わすことができる点などです。(森脇くん)
ほかの参加者と交流が対面でできる点、議場の緊張感を実際に体験し克服するという貴重な経験を得られる点、出身地からの距離の差はあれども、同様の環境下で会議を行うのでその点において公平である点です。(丸小野くん)
[短所]
その場の雰囲気に圧倒されて萎縮してしまい、全く発言できない大使が存在してしまう点です。(森脇くん)
これを克服するのも成長につながるので一概に短所とは言えませんが、慣れない環境での体調不良が懸念される点です。(丸小野くん)
■2日間の感想を教えてください。
私とペアの丸小野は2年連続全日本模擬国連大会に参加しており、昨年は別ペアでの参加となりました。昨年の私のチームは、モーションを当てていただき全体の会議の進行における重要な役の1国にはなれましたが、発言の場における積極性の欠如が響き、入賞することはできませんでした。しかし、どこをどう改善すればよいのか、それぞれのチームにとって異なる発見がありました。対面でのディベートにおける得策を手に入れることができたため、昨年の大会での経験を生かし、他校を上回れるのではないかと考えていました。
ところが、オンラインという例年にないパターンでの会議となり、昨年出場したことによるアドバンテージが減ってしまいました。ただ、そのような状況でもオンラインならではのチャット機能などを活用した個別の話し合いを進めることができたという点で、オンラインの特性を生かせたのではないかと思っています。
会議中の行動については、慎重派の私の性格が露わになり、積極的な発言ができない場面もありましたが、「今回でこの大会に参加できるのは最後なんだ」と気持ちを入れ替え、2日目以降は国益を守るのを念頭に主張を繰り返したことで、少しではありますが会議におけるプレゼンスを示せたので達成感を得られました。もちろん、もう少し積極性をもって行動する重要性も学べたので、結果的には一挙両得です。
元々、中1の時から「全日での入賞」を何となく目標として設定していました。その夢を今年叶え、私にとってのゴール地点を迎えることができました。しかし、まだ私の模擬国連は終わっていません。NY大会が控えています。今年は「海外への渡航制限全解除」・「派遣が安全とみなされる」の条件が満たされなければ、NY派遣が保留になるという非常に厳しい条件となっています。ですが、自分の全力を尽くし準備に専念する所存です。 (森脇くん)
感想というよりは反省の色が濃くなりますが、今回の会議において、イラン大使としての政策立案、国益の整理、交渉の方針作成や本番でのグループ内での交渉であるところのいわゆる内政や采配は私が主に行いました。その点において、本番での状況に応じた行動と準備段階での考察は十分ではあったのですが、私は、ペアがちゃんと理解しているかを確認することを怠ったという失態を犯していました。
私は、相手が何も言わなければ完全に理解していると思い込み、ワンマンプレイに走ってしまうという悪癖を持っていたのを、今回のペアとの協力が真に重要である模擬国連で痛感しました。これが結果として、恐らく他の参加者には気取られなかったものの、ペア間での齟齬が生じ、動きに混乱が生じてしまっていました。
自分の問題点として、文章化、図などによる視覚化を行わず口頭のみの説明で済ませていたために、中間国との交渉の際に並行してペア間の確認を必要としてしまったことがあります。ペアの森脇くんが、交渉前にきちんと確認してくれたのでその誤りに気付けはしましたが、これは実際予防できたことなので、今後、他人と協力して活動する際にはしっかりと意思疎通を行い、確認をすることに留意します。
また、私には無視しがたいほどの怠け癖があることも事実です。私は自らに大きな能力が備わっていることを自覚しているがゆえに、日常の環境に慣れてしまうと努力を促すある種の焦燥感を得られなくなります。したがって、模擬国連というのは私から傲慢を剥がし、努力へと駆り立ててくれる数少ない経験であると思っています。
理想としてはこの感覚を忘れないよう、定期的に全国の優秀な高校生が集まるような白熱した知的競技に参加したいものですが、感染症予防が叫ばれるこのご時世と、私が地方の高校生であるということもあり、実際には難しいものがあります。よって、このアンケートも含め、模擬国連を中心とした経験の反省によってこのモチベーションの維持に取り組んでいきます。 (丸小野くん)