第14回全日本高校模擬国連大会

オンラインの特徴を活かして、一緒にDRを出したいと思えるグループにすることを目指す

江口花音さん(1年)、高槻俊輔くん(1年)

渋谷教育学園渋谷高校(東京都) 担当国:ナイジェリア 

(2020年11月取材)

 

■担当国を希望した理由を教えてください。

 

自分たちの特性や目標とする会議行動を考え、それに適する国を探し、消去法で絞り込みました。その過程で、大国、主張が孤立することが予想される国、対立が大きい国、特定の大国に頼りすぎている国などを削除しました。

 

宇宙利用という議題では、各国の発展度合いが非常に異なり、デブリの責任問題などもあるため、普段の会議以上に「先進国」と「途上国」の対立が深まると予想しました。しかし、宇宙という公共空間の議題では、特にコンセンサスが重要になるため、どの立場からコンセンサスを目指すかを考えました。そこで極端な主張を持たず、途上国、先進国双方と協力しやすい中小国が良いと考えました。また、ナイジェリアは世界的には途上国ですが、アフリカ内では他国に支援をしている上、現在急激な経済成長が見られていることから、近い将来支援される側から支援する側に移行する可能性に注目しました。

 

また、国連の会議ではできるだけ国益と国際益が近い国が良いと考えました。多国間協力に力を入れているナイジェリアは、国際益を重視していると考えました。イギリス、ロシアなどの大国とも協力している一方、アフリカでの地域間協力も行っています。そのため、会議でのグループも作りやすいと考えました。

 

さらに、リサーチのしやすさも考慮しました。ナイジェリアは宇宙機関の情報もオンラインで検索可能で、英語が公用語という点で、情報収集のしやすさに注目しました。

 

 

■準備の段階で苦労したことや、工夫したことがあれば教えてください。

 

議題に関する準備 

 

今会議では、まず議題を理解することに苦労しました。「宇宙」というのは、私たちにとってはあまり馴染みがなく、普段の生活で意識を向ける機会が少ない空間です。そこでの活動についての議論だったため、多様な書籍を読み込み幅広く知識をつけたうえで、現実的な問題として捉えるために想像力を働かせる必要がありました。その際、偏見や先入観なく「事実」と「大使としての意見」を明確に区別することに難儀しました。

 

例を挙げると、現在のスペースデブリの発生・分散状況を表した図として、地球がデブリに覆われている画像がよく使用されます。一見すると宇宙空間にもう余裕はないかのように思われる画像であり、私たちも見た当初は「デブリ問題に今すぐ対処しなければ」と考えていました。しかし実際は、デブリの縮尺と地球の縮尺が一致しておらず、必要以上に危機感を煽るようなものでした。この経験は、盲目的にデブリ除去の必要性を訴え、除去の手段や責任に注目がいくあまり、現実的な抑制策が疎かになりがちなデブリ問題を考え直すきっかけとなりました。それだけではなく、視覚情報も批判的な眼で捉え、活用する必要性があるのだということも痛感しました。

 

そして何より、民生技術がいとも簡単に軍事技術に転用できるという性質、また明らかに国益に影響する議論のため、保守的・内向的な主張になりやすいことが予測されました。コンセンサスを目指すナイジェリアとしては、どのような政策を提示したら妥協してもらえるのかを考えるのに苦労しました。

 

政策を立案する際、ナイジェリアとしての国益を反映するのは勿論ですが、常に立場の違う他国の目線でも政策を評価することを意識しました。

 

 

オンライン会議に関する準備 

 

オンライン会議での経験が浅く、どのように議論を進めていくか、外交を展開していくかを考えることは、雲をつかむようなものに感じました。しかし、オンラインでの経験が少ないのは多くの参加者に共通したことであり、オンラインに対しての準備を重点的に進めることで、会議を主導できるのではないかと考えました。

 

この考えのもと、画面共有の効果的な使い方やペアとの連携、どのタイミングで外交に行くかなど、細かい点まで確認をしました。また、大会1週間前にオンラインで開催された練習会に参加し、実際に確認事項を試したことで、オンラインという慣れない環境でも自信を持って参加できました。

 

 

■大会当日は、どのようなことに気を付けながら会議に臨みましたか。

 

この会議は、宇宙という公共空間についての議題だったため、特にコンセンサスが重要で、それを常に目指すようにしました。また、会議の中では、自分の大使としての長所、得意なことをしっかりと生かすこと、そして何もしていない時間がないようにすることを2日間のゴールとしました。

 

グループディスカッションでは、雰囲気を良くすることを心がけました。同じグループの全大使が発展途上国だからという理由ではなく、本当にそのグループが自国の意見を反映していると感じ、一緒にDRを出したいと思えるグループにすることを目指しました。各国の意見を重視し、「ここは〇〇大使さんの提案をいれました。これで大丈夫ですか?」などと確認を取るようにしました。常にペアと次の進め方を確認・相談しあって連携を取ることも意識しました。

 

初日のWP提出までの時間が非常に少なく、議論があまり進まなかったことを踏まえ、二日目は特にDR提出までの限られた時間のタイムマネージメントを考えました。一日目にあまりナイジェリア大使としての主張が文言に入れられていなかったので、二日目は自国の文言も入れようと交渉しました。コンバインを目指していく中で、グループとしてのボトムラインをしっかりと決めてから外交をすることに気をつけました。他のグループと交渉する中でも独りよがりにならずに、すべての国の合意が取れるような成果文章を作ることを常に目標としました。(江口さん)

 

 

後で詳述しますが、今会議はオンライン開催だったため、マイクの関係上一度に拾える音声が1つ、つまり一人しか喋ることができませんでした。そのため、体感的に議論のスピードが対面での会議よりも遅く感じられ、より効率的な議論が求められました。もちろんたくさん意見が出るのは良いことではありますが、同時にそれは議論の停滞や、進度の遅れに直結します。「コンセンサス」「グループとのコンバイン」「話しあう論点」など段階的な目標に沿ったタイムラインと優先順位を意識したうえで、グループ内で確認し、議論が脇道にそれることの無いよう注意しました。

 

また、会議全体の流れを常に気にかけるようにしました。全ての大使に共通した目標はコンセンサスであり、そのためには当然ですが全加盟国が同意できる内容の決議を作らなければなりません。途上国のグループでは、どうしても途上国側のメリットが強くなり、先進国の合意が難しい政策が出てくることもしばしばでした。そのような時は、外交に回っていたペアから共有してもらった情報をもとに、途上国以外の視点で考え、あらかじめ交渉の際に妥協できる点をグループ内で統一しました。

 

結局他グループとのコンバイン、コンセンサスによる採択は叶わなかったものの、幅広い支持を受け、提出した決議が採択された背景には、この意識があったのだと思います。(高槻くん)

 

 

■あなたが感じた、オンラインの模擬国連とリアルの模擬国連の、それぞれの長所・短所を教えてください。

 

オンライン模擬国連

[長所]

リアルの会議ではDRの文言を書く人と議論する人に分かれてしまうことがあり、提出まで文言を見たことがない人が出てしまいますが、オンラインだと画面共有で、議論しながら同時に文言作成ができ、作成段階からみんなが文言を知ることができます。また、チャットで一斉送信できるため、DRのデータ共有なども早くできます。文言を作成する際には、このメリットがとても役に立ちました。

 

また、オンラインだと複数の人が同時に話をすることがなく、話を遮ることなくそれぞれの意見を丁寧に聞くことができると感じました。(江口さん)

 

 

最大の長所はデータ共有の容易さと早さだと思います。USBなどを介さず、クリック1つで文言データの交換ができ、圧倒的に共有が早かったです。また、画面共有など視覚情報の共有がしやすかったです。

 

加えて、会議が1つのシステムとして整理されていることで、個人チャットを用いることで、他の大使と一対一で話すことが容易であったり、Zoomのメンバー検索機能を利用することで人を探す手間がかなり省けたりと様々な面で時短に繋がりました。

 

経験数が少ないためオンラインならではの特色かは判断しかねますが、話せる人数に制約がかかり、議論のペースが落ちることで、熱くなり議論が紛糾する場面が少なかったように思えます。(高槻くん)

 

 

[短所]

オンラインでは、お互いの顔が見えないのが一番の問題だと思います。Zoomでは最大で25人の顔しか表示できず、画面共有をしている時は基本的に誰の顔も見えなくなります。そのため、みんなの反応を見ることができず、コミュニケーションが限定されます。グループ内の全員を把握できず、発言をあまりしていない大使を議論に取り込むのも難しくなってしまいます。

 

もう一つの短所としては、外交が難しいことが挙げられます。一つのブレイクアウトセッションでは一個の議論しかできないため、他のグループに入って、一人の大使に状況を少し説明してもらうことができません。そのため、外交をするときは一旦そのグループの話し合いを遮らなくてはいけなくなるのが問題だと感じました。(江口さん)

 

 

先程触れましたが、一度に一つの会話しかできないため、どうしても議論がスローダウンしてしまい、データの共有などは早くても結果的に時間的制約がリアルの会議よりも強かったように感じます。

 

自グループで議論をしている時に他グループの様子が見られなかったので、各グループの規模や議論の様子など会議の全体像の把握、言わば「議場を俯瞰する」ということが不可能に近かったことも、時間的制約を強める1つの要因だったと思います。

 

また、普段の会議だったらどんな会話がおきていても、視覚的に捉えることができますが、個人チャットは行われているかの把握が不可能だったので、水面下でコンバインなどの交渉が進みがちだったように思います。

 

何より、画面に映る面積が限られており、またマイクを通して喋ることも相まって、身振り手振りや声のトーンなど、言語以外での意思疎通が難しかったです。自分の話していることが伝わっているのか分からず、度々不安になりました。(高槻くん)

 

 

リアルの模擬国連

[長所]

リアルの模擬国連では、同時に複数の会話を行えることが一番の長所だと思います。一対一の会話ができるので、文言の詳細は各大使に個別で相談でき、全体の議論をもっと早く進められます。また、同じ場所で複数の会話が同時に交わされ、仕事の分担もできます。これで作業の同時進行が可能になると、議論にかけられる時間が増え、議論を深めることができると思います。

 

そして、みんなが議場に集まる雰囲気はリアル模擬国連ならではの長所だと思います。オンラインでは自分の家、または学校のため、臨場感が少ないです。私は、その臨場感も楽しさの一部であると考えています。(江口さん)

 

 

オンラインに比べると、お互いの顔や雰囲気が分かるため、議論についてきているか、各グループの雰囲気はどうか、どのくらいの規模か、など議場の様子が圧倒的によく分かり把握しやすいです。

 

また、グループの大まかな議論の流れを聞きつつ、他国大使と交渉するといったようなマルチタスクが可能になり、会議の効率化ができました。

 

最後に、短所にもなりますが、議論が白熱する・盛り上がるというのはリアルならではの魅力だと思います。オンラインでは白熱しないという意味では勿論ありませんが、熱量は異なる気がしました。(高槻くん)

 

[短所]

リアル模擬国連では、声が大きい人、または存在感が大きい人の意見が通りがちになってしまうことがあるような印象です。オンラインでは、物理的な存在感が出しにくいため、主張の内容がより重視されると思います。(江口さん)

 

オンラインのメリットとしても触れましたが、USBを介さなければならないなど、決議案やその他データの共有が遅いです。

 

また、グループの規模や、声質次第で、声が届かないことがしばしばあったり、視覚情報として使用されるホワイトボードが見えにくかったりと、たびたび意思疎通に難がありました。オンラインと異なり大人数でコンパクトに話を進めるのが不可能なので、グループの規模が大きくなるにつれて形がぐちゃぐちゃになり、話し合いに参加できない人が増えてしまうように感じます。(高槻くん)

 

 

■2日間の感想を教えてください。

 

本当に楽しい2日間でした。

 

準備段階から当日までの4か月を通して学んだことがたくさんありました。最初は不安が多かったのですが、リサーチを進めていく中で少しずつナイジェリア大使に近づくことができたと思います。大使としての自分を振り返るきっかけにもなりました。オンラインということで当日の交流はあまりできませんでしたが、日本各地の高校生と話し、議論する機会は非常に貴重な経験でした。この大会で得たことは、これからの模擬国連の活動に生かしていきたいです。

ここからはニューヨークに向けて頑張ります。そして、来年の5月に実際に国連の場で会議ができることを願っています。(江口さん)

 

 

2日間は本当にあっという間でした。初めはプレッシャーを感じていたものの、時間と様々な決断に追われるなかで緊張は段々とほぐれていき、最終的には純粋に会議を楽しむことができました。

 

想定していた会議行動が開始早々崩れたり、用意していた政策が通用しなかったりと会議当日だけでも様々な困難に直面しましたが、それでもパンクすることなく、冷静に大使としての姿勢を貫くことができたのは、ペアと必死に準備を進めたからこそだと思います。

 

そして何より、「国際社会をよりよくしていこう」という志を持った同世代と熱く議論を交わすというのは、何にも代えがたい経験となり、会議の中で私も大きく成長できたと感じています。本当に貴重な機会でした。 (高槻くん)

 

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