伊丹裕貴くん(2年)、一高学仁くん(1年)
灘高校(兵庫県) 担当国:日本
(2020年11月取材)
■担当国を希望した理由を教えてください。
全日本大会では、第5希望まで国割の希望を伝えることができますが、実は、私たちが担当した日本は第4希望でした。ちなみに他は、第1がベルギー、第2がドイツ、第3がフランス、第5がイギリスでした。こんな感じで、今回の会議はとにかく「国際協調」寄りのヨーロッパ狙いで国割を希望しました。
僕(伊丹くん)はこれらのような「国際協調」路線の国として戦うのが好きなのですが、ペアの一高くんはむしろ政情が不安定な国や、他を圧倒するような覇権国として戦う方が好きだといいます。模擬国連では、どういうスタイルの会議行動を取るのが好きか・どのようにリーダーシップを取りに行くかは人によってバラバラなので、国割でも結構意見の相違が生まれます。やはり、どんな国に当たるかで会議行動は大きく変わってくるので、全日に臨む上で最初に当たる非常にデリケートな問題です。
今回の会議では僕が内政を行い、一高くんが外交を行うことを先に決めていたので、内政で慣れている「国際協調」を行う方がいいだろうという判断で、最終的にこれらの国を希望することになりました。
僕が「国際協調」路線の国を好む理由は、国際連合自体の設立目的が国際協調であり、模擬国連においてもやはり、会議の根幹は国際協調を行うことにあるからです。そのため、自国が望む方向性と会議が進みたい方向性が一致しているので、議場全体に「国際協調大事だよね?」「コンセンサス目指そうね!」と声を掛けやすく、先頭に立って議論を引っ張りやすくなります。また、前提が「国際協調は大事」な国で集まることができるので、グループ内やグループ間の意見のすり合わせが融和的に行えます。自分を含め、周りの大使が自国第一主義で動いていると互いに角が立ってしまい、議論が進まないことが往々にしてあります。実際、今回の会議でもそれが原因で議論が進んでいないグループがあったように思います。
結局は日本になりましたが、日本の良かった点は、リサーチが日本語で良いので非常にやりやすく、情報も手に入れやすいことです。あらゆる情報を比較的簡単に手に入れることができました。
今回の会議のグループ分けは「先進国・中間国・途上国」の3つに分かれました。私たちもこのグループ分けを望んでいたのですが、私たちは「中間国に入ろう」と決めていました。実は、国際社会における日本の宇宙開発の立ち位置では、先進国と呼ぶべきか中間国と呼ぶべきか微妙なラインにあります。現状では先進国と言っても差し支えない程度の技術はあるのですが、国際競争力があるかと聞かれると正直微妙な立場です。しかし、会議を進めるにあたっては、先ほど述べたように「国際協調」路線を取った方が会議を進めやすいので、こうした微妙な立ち位置を逆手にとって、「力のある中間国」という位置付けで中間国グループに参加しました。こうすることで、「宇宙利用についてある程度力は持っているけれど、国際協調の必要性を理解していて、様々な立場の意思を尊重する国」として参加することができます。
実を言うと、こうした立場が一番議場全体の流れを掴みやすく、今回の会議でも、日本のこの微妙な立ち位置が大きなadvantageとなりました。会議終了後の結果発表で「日本は会議全体を掌握し」と言われたので、作戦成功ですね(笑)。
■準備の段階で苦労したことや、工夫したことがあれば教えてください。
議題に関する準備
まずはしっかり議題解説書を読むことから始まると思います。これが意外と見落としがちで、僕たちも実際そういう場面が何度もありました。まず、模擬とはいえ国際会議ですから「『何を』話し合いに行くのか」というアジェンダアイテムの正確な理解が極めて大事です。
限られた時間の中で、議題の意図からそれた話をすることは、議場全体に迷惑をかけるだけではなく、その会議で達成するべき自国の役割を果たすこともできなくなり、一国の大使としては失格だと思います。それを踏まえ、僕たちは何度も議題解説書に立ち返り、国連に今、何が求められているのかということの理解に努めました。
そのほかには、自国の各論点に関するスタンスの理解や、各論点の解決策に絡めたい国益の確保の理解に努めました。基本的にはトピックごとにいったん役割分担して、ペア間で情報共有をすることの連続でした。
今回の議題は、日本国内でもあまり議論が進んでいなかったり、情報が公開されていなかったりするようなトピックも含まれたものだったのでそれなりに苦労しました。その一方で、これまでの日本のCOPUOS(宇宙空間平和利用委員会)内の小委員会での活動などを踏まえつつ、ある程度はフレキシブルな形で進める余地があったのは新鮮でした。日本の宇宙技術の強みや、民間事業を抑制するようなことがないように注意を払いながら、先進的な条文のバックボーンを構築できたと思います。このとき、具体的な視点をもつと同時に、日本のスタンスを簡潔に言語化できたことが、ペア間でもしっかりとした共通認識を築けた要因だと思います。
準備も、実際会議に持って行く決議案を書く段階になると、これまでのリサーチの成果として得られた議題の構造の理解、日本のこれまでのスタンスと国益の理解をもとに、明確な意図のもとでしっかりとした構造のあるものが作れたと思います。結果としてはかなり長い条文のリストになったのですが、論理だった順番に整理することができていたので、会議当日も説明がスムーズにでき、賛同を得やすかったのだと思います。
オンライン会議に関する準備
今回間違いなく良かったのは、二人ともオンライン会議の経験が複数回あったことだと思います。内政と外交にいったん分かれてしまうと、別室参加の会議中は二人とも忙しくLINE等を利用してもなかなかペア間で意思疎通が取りにくいことも経験済みでした。ですから事前にある程度の会議の予定を立てておいて、それを細分化して互いの役割を明確化し、お互いがどの時間に何をしているかの大まかな予測がたつようにしていました。
ペア間の連携以外の部分では、会議で使う資料に力を入れました。条文を説明するときに使うために、「わかりやすい条文説明」というドキュメントを作っておきました。これは条文の内容一つひとつの背景、意図などを書いたものです。その内容を共有すれば簡潔に伝わり、長い条文の解説の時間を大幅に短縮でき、実際の議論や交渉に時間を割けるだろうという意図です。実際これは非常にうまく活用できたので、グループ内でもスムーズに条文作成が進められたのだと思います。
■大会当日は、どのようなことに気を付けながら会議に臨みましたか。
僕は内政担当で、中間国グループのリーダーを務めていました。昨年全日本大会に出場し、優秀賞を取った先輩が書き残してくださったメモの中に、「リーダーはならせてもらうもの」という言葉がありました。
何事においても、リーダーは自分一人でリーダーにはなれません。グループの周りの人がリーダーにふさわしいと認めてくれて初めて、リーダーになることができます。この言葉を常に忘れず、他の大使から信頼を置いてもらえるよう、今何をしているか・今本当にすべきことは何か・あまり発言できていない大使はいないか・タイムマネジメントは問題ないか、などを常に気をつけていました。こうしたことに気を配っていると、自然とグループとしてのまとまりが生まれ、会議が順調に進むようになります。実際、一つ目のWPやDRを提出したのは我々のチームだけだったので、その成果が現れたかなと思います。(伊丹くん)
僕は主に外交担当で、グループ間での交渉や他グループの国の大使との交渉をまとめていました。外交は時にかなり戦略的に動く必要もあり、決して一人の大使ではうまく行うことができないので、一緒にワーキングペーパー、決議案を作成する国の中から外交を行う大使を集めて一つのグループを作りました。そのグループとしての意見や利益に見合うよう、団結して行動する必要があると考えました。
そこで、明確な役割分担を行い、ある程度時間をかけてグループ内の情報共有を逐一行うことを大切にしました。こうすることによって、自分だけでなくグループ全体としても議場の流れをより把握しやすくなり、結果として多くの大使が積極的に発言し、方針をより良いものにしていける活発なグループになったと思います。(一高くん)
■あなたが感じた、オンラインの模擬国連とリアルの模擬国連の、それぞれの長所・短所を教えてください。
オンライン模擬国連
[長所]
オンラインでは一人しか発言できないので、グループ内で一度リーダーを取ってしまうと、そこからの会議がその人中心に回って行きやすいように思います。今回の会議では、最初のアンモデが始まった瞬間にあらゆる大使が一斉に話し出しました。当然オンラインなので、何も聞き取れず、収拾がつかないような状態です。そこを何とか上手くまとめられた数か国の大使が、結局最後までリーダーを取っていたように思います。
また、同じ理由で、腰を据えた落ち着いた議論ができるように思います。リアルだと、あらゆるところで話し合いを行えるので、一人が喋っている間、グループの他の場所で話している大使が結構います。そうした話し合いまでリーダーが把握するのは難しく、思わぬ方向に議論が進んでしまっていることもありますが、オンラインではそのような懸念がないので、着実に議論をすることができました。
それから、座ったまま会議を行えるので、単純に疲れなくて良いです(笑) 。(伊丹くん)
ブレイクアウトルームの移動が簡単で、議場を好きなときに渡り歩くことが容易になり、よりタイムリーな会議行動が可能になる点がいいと思いました。また、チャット機能により、メモよりもさらにリアルタイムでメッセージを伝えられ、スムーズな会議行動につながる点も良いですね。
もう一つ大きかったのは、オフラインと違ってアンモデ中でもほとんどの大使が座ったまま議論を行い、作業を行うところでしょうか。リアルの模擬国連では立ち上がって輪を作ったりもしますが、オンラインの場合はそうでは無くみんな着席した状態で議論を行うので、大使一人一人がより対等な立場で落ち着いて議論を行えるのではないかと感じました。リアルの会議だと声が一番大きい大使がリーダー的なポジションをとる、ということもありますが、マイク越しだとあまり大声を出しても伝わりにくいですからね。一人ずつ落ち着いて話し合いを進められる点は効率面でよいのではないかと思います。(一高くん)
[短所]
やはり、模擬国連ならではの迫力が失われてしまうことが最大の欠点です。模擬国連は何十人かの大使が一堂に会し、それぞれが国益の実現のために動くという非常にアクティブな競技です。そのように流動性が高い中で、如何にして会議を動かしていくかというのが一番の魅力と言っても良いと思いますが、オンラインではどうしても画面という小さな枠に囚われてしまいます。そのため、自ずと行動に制限がかかってしまい、予測不可能なワクワク感が薄まってしまうように思います。
また、一緒に参加した大使と交流する機会がほとんど無いのも大きな欠点です。どんな会議であっても、会議を共にした大使は「戦友」です。特に協力した大使とは、会議後も深い交流が続くこともしばしばあります。オンライン会議だと、実地で無い分その結びつきは薄れてしまいますし、直接話せないので、交流の機会すら持てないこともあります。これも大きな欠点だと思います。(伊丹くん)
議場の空気感というか、人がそこにいるんだという迫力が伝わりにくいのは大きいと思います。模擬国連の何とも言えないエレクトリックな雰囲気が少しそがれるな、という印象です。
会議中の行動では、長所で述べたようによりスムーズに移動が可能なのとは裏腹に、動き方のバラエティが減ってしまう点が短所だと思います。例えばそのグループ内の一人の大使に声をかけたいときなどでも、オンライン会議だとメモを使わない限りその特定の一人のみにメッセージを伝えることができません。そしてメモは読んでもらえるとも限りません。するといちいちそのグループの時間を少し頂いて話す必要が出てきてしまうので、スムーズな進行に多少支障が出るとは思います。ただ、こういった短所は、同時にむしろ活用できるものだとも思うので、一概に短所とは言えないかもしれませんね(笑)。「ニューノーマル」といったところでしょうか。(一高くん)
リアルの模擬国連
[長所]
切実に、リアルで模擬国連を行いたいです(笑)。リアルの模擬国連の臨場感・緊張感・迫力には、どう頑張ってもオンラインは勝つことができません。面と向かって他の大使と向き合い、交渉をするのは、本当に一世一代の大勝負をしているような感覚です。この交渉に成功すれば条文を入れられる・国益が達成される、という緊張感はリアルでなければどうしても半減してしまいます。
また、あらゆるところを動き回れるので、一対一の交渉がやりやすかったり、フレキシブルに大使を動かしたりできるのも大きな利点です。(伊丹くん)
リアルで模擬国連をやったのはもう一年前くらいでしょうか(笑)。長らくやっていないですがやはり実際に人と人が顔を合わせて対話するということは画面越しとはかなり違うものだと思います。無意識のうちに一人一人の大使から読み取る独特のオーラや、表情の微妙な変化などに気づくのは難しくなっていると思います。
オンラインに比べて、動き方の多様性は大いに勝ると思います。ホワイトボードを使って説明をしてみたり、政策をまとめたビラを配ってみたりということがオンラインだとどうしても多少制限されてしまいます。(一高くん)
[短所]
無いと言っても過言では無いです。やはりリアルに勝るものはありません。(伊丹くん)
リアルで会議をするとどうしても声が一番大きかったり勢いがあったりする大使が議論を支配してしまう傾向があります。これについては、オンラインによって解決しうる短所かもしれません。(一高くん)
■2日間の感想を教えてください。
非常に楽しい二日間でした。リーダーとして会議を引っ張らせていただけたことのありがたさ、自分たちが用意してきた条文を認めてもらえた時の嬉しさ、他の大使と一致団結できた時の感動、そして、最優秀賞をいただいた時の何とも言えない感慨深さは忘れられません。(伊丹くん)
本当に楽しく、充実した二日間でした。伊丹さんと並んで、全ての関わってくださった方々に感謝申し上げます。また、議場ではいくら意見や姿勢が食い違っても、一高校生として常にいろいろな刺激や学びを与えてくれた、全国の同世代の高校生に出会えたことに感謝したいです。(一高くん)