(2020年11月取材)
3か月の活動の集大成の場
中高生・大学生がヘルスケア課題の解決に向けたプランを競い合う課題解決プログラム
「inochi Gakusei Innovators’ Program(iGIP)」。7月26日のキックオフミーティングで本格始動した関東地区のプログラムi-GIP2020 KANTOの活動の集大成となる「関東inochi学生フォーラム」が11月8日、オンライン開催されました。
今年度のi-GIP2020 KANTOでは、書類選考とオンライン面接で選ばれた14チーム約50人の中高生が、20人の大学生のスタッフとともに約3か月のプログラムに取り組みました。今年度のテーマは、「発達障害とともに歩める社会をつくる。」。発達障害を持つ人や家族に実際に取材して、彼らが直面する不便さ、生き辛さと向き合い、それを少しでも改善するための商品や仕組みを考案し、プロトタイプを創り上げました。
今回のフォーラムでは、各チームがプランを発表して、発達障害に取り組む医療者や企業、支援団体の方による質疑応答で、審査とアドバイスを受けました。
「感覚に正解・不正解、良い・悪いはない」ということを踏まえて
今回のフォーラムの基調講演は、国立障害者リハビリセンター研究所の井手正和先生が「多様な感覚の理解が促すインクルーシブ社会」と題してお話しされました。
知覚は人それぞれであり、ものがどう見えるかは脳が複数の要素を処理した結果であるため、先行経験によって変わること。感じ方に正解・不正解や良い・悪いはないこと。神経心理学や認知神経化学では、感じ方の「マジョリティ」を座標の中心に置いているが、感覚の違いや過敏の生気のメカニズムはまだわかっていないことなど、脳の働きという視点からのお話や、ASD(自閉スペクトラム症、アスペルガー症候群)の特徴など、インクルーシブな社会を考えていく際に必要となる発達障害のとらえ方について貴重なお話をいただきました。
その後、それぞれのチームが自分たちのプランを発表しました。各チームの発表は事前に8分の動画にまとめたものをYouTubeで配信されています。当日はそれを2分の持ち時間でさらに簡潔に・わかりやすく説明し、審査員の方からの質問やアドバイスを受けます。
プランの内容は、「外食時に座っていられない子どもの注意を惹きつけ、食事に集中できるアプリ」「触覚過敏の人が結婚式のおしゃれを諦めないためのウェディング雑誌」「読みにくい文章のフォントや行間などを調節して読み易くできるアプリ」「運動会のリレーでコーナーを回って走ることができない子どものためのARゴーグル」など、柔軟な発想と、使う人へのきめ細かな配慮にあふれたものばかり。これらは、実際に発達障害や感覚過敏を抱えた人や家族、学校の先生への綿密な取材と、実際に開発にあたる企業の人との意見交換を通して練り上げたものです。
審査の結果、優秀賞に「多動の子どもの飛び出しをしゃぼん玉を使って防止する仕組み」を考案したチーム、最優秀賞に「忘れ物に悩むASDの人が、鍵やお財布などを定位置に入れることを習慣化できるようにする携帯連携型の小型ボックス」をチームが選ばれました。2つのチームは、11月29日に大阪で開催の「inochi万博フォーラム2020」に出場しました。
■「inochi万博フォーラム2020」出場チームに聞きました
○「しゃぼん玉で子どもの飛び出しを予防?! 楽しさと安全をカタチにしてみた」
チーム名:甘口がいいです
チーム名:マリーちゃんち
■大学生メンターに聞きました
代表を務めて改めて知った、中高生がGIPに参加する意味
inochi Gakusei Innovators' Program KANTO代表
中原楊さん(慶應義塾大学医学部医学科)
GIPは、「学校では得られない学び」にこだわっています。本や授業からではなく、困っている当事者やその関係者から直接話を聞き、そしてそれを知識として記憶するのではなく、すぐに行動に移していく「実践」が、何よりも大事だと考えています。
答えのない問題に正面から向き合い、考え続け行動し続けた経験は、その後の受験そして人生全般においても揺るぎない底力になります。ヘルスケアに興味があり、かつ人として一層成長したいと考えている方は、ぜひ参加を検討してみてください。
私は代表として、1年間走ってきました。高校生として本プログラムに参加した時、そして大学生プロジェクトマネージャーとして参加した時とはまた別の経験ができました。ヘルスケアの課題は、ずば抜けた天才が一人いれば解決することはなく、多くの人たちが力を合わせて、さまざまなアプローチを試し尽くして初めて希望が見えてきます。このことを、何よりも実感した1年でした。高校生として参加し、チームで課題解決に取り組んだ経験が、きっと今生きているな、と感じました。
周りを巻き込むことの大切さを知る
「甘口がいいです。」メンター
森田帆貴さん 筑波大学医学群医学類
「甘口がいいです。」のメンバーは「周りを巻き込む力」を精一杯発揮してくれたと思います。SNSを上手く利用して、たくさんの当事者の方にアンケートをとったり、企業の社長さんや発達障害の子を持つ親御さんに何度もアドバイスをもらいに行き、解決策の実験にも協力していただいたりしました。
周り、特に大人を巻き込む経験は中高生時代になかなかできるものではありません。今回の
プログラムを通して高校生たちが、自分たちのプラン実現のために、多くの人に協力を依頼する行動力を身につけてくれていたら嬉しいです。
「No one will be left behind」を体現する
今年は特に新型コロナ禍の影響で、多くの活動や作業がオンラインとなり、例年以上にプランをまとめ上げることは難しかったでしょう。その中で、どのチームもオリジナリティあふれる、すばらしいプランを紹介してくれました。
発表を聞いていて、気が付いたことがありました。
外出時に忘れ物が気になったり、読みにくい文書に難儀したりすることは、誰にもしょっちゅうあります。高齢化が進むほど、こういったことにサポートが必要な人は増えていくでしょう。また、子どもの飛び出しや、外出先での大騒ぎに肩身の狭い思いをすることも他人事ではない、という親も多いでしょう。
そう考えると、出場したチームのプランは、どれもが私たちの日常に潜むちょっとした不便や不安を取り除くものでもあり、「発達障害」と「定型発達」には明確な線引きがあるわけではないことを示してくれるものでした。
企業の商品開発では、どうしても市場規模や費用対効果、目新しさなどが重視され、「困っている人が本当に欲しいもの」が全て実現することにはなりません。その意味で、中高生が自分たちの思いを形にした今回のプランは、「発達障害と、ともに歩める社会をつくる」ために何があればよいか、という本質的な問いに答えるものであったと思います。
さらに私たちは、新型コロナ禍のもとで生まれた「新しい生活様式」で、今まで当たり前にできていたことが、突然できなくなることの不自由さを痛感してきました。「発達障害を持つ人に何かをしてあげる」のでなく、全ての人がより高いQOLを目指していくことの大切さを改めて感じた、今回の発表でした。
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