(2020年6月取材)
4月に新学期が始まってから、新型コロナウィルス感染防止のために、学校内外で様々な行事や大会、競技会などが中止になってしまいました。出場を目指して練習してきたり、他校の友達に会うのを楽しみにしてきたりしたイベントが突然なくなってしまって、がっかりしてしまった人も多いでしょう。
入学式やポスターセッションなど、様々なイベントをオンラインで代替する試みが行われていますが、やはりリアルの代替という感はぬぐえないものがあります。
そんな中で、今回ご紹介するのは、模擬国連をZoomなどのオンライン会議システムでやってみよう、というオンライン模擬国連の試みです。模擬国連と言うと、まさに「3密」の空間で多くの人と議論したり、文書をまとめたりするもの、というイメージが強いのですが、それをオンラインでやってみよう!と立ち上がった高校生たちがいます。彼らは現在可能なオンラインのシステムを駆使して、自分たちで会議のプロシージャ(ルール)を作り上げました。
2020年6月に東京と大阪で行われた二つのオンライン模擬国連をご紹介します。6月14日(日)に開催された「6月大妻オンライン会議」と、6月14日(日)・28日(日)の2回開催された「Let's Join MUN」です。
結論から言うと、オンライン模擬国連は大成功でした。これまで参加が難しかった人にも参加の道を開き、リアルの会議ではなかなかできなかった新しい議論の形を創り出すことになりました。
それぞれの大会でフロントを務めた実行委員の皆さんと、大使として参加した皆さんにお話を聞きました。
[6月大妻オンライン会議]
■開催日
6月14日(日)9時20分~16時
■議題/設定会議
「安全保障理事会の議会席拡大と衡平配分および関連事項」
国連総会本会議
■会議に使用したシステム
Zoom
・アンモデは事前にグループ割をモデで行い、フロントがアンモデの各グループ用に議場
を増設しました。
■議題解説書、プロシージャなどの配布資料の共有に使ったシステム
Google Classroom
■PPP、NPなど参加者からの文書提出に使ったシステム
PPP(Position and Policy Paper)はGoogleフォームへの回答、NP(Negotiation Paper)は
事前に設定した時間に、自由にクラスルーム内に投稿できる形にしました。
■会議中のメモ回しに使ったシステム
メモ代わりになるGoogleフォームでのアンケートを作成し、各国はメモを送りたい国の
フォームに行って内容を入力しました。
■WP・DRなどの作成・提出に使ったシステム
作成はdocumentの共有機能を使いました。
提出はフロントのメールアドレスにdocumentの形で添付送信し、フロントによるディレク
チェックが済み次第、クラスルームで共有しました。
■会議参加者数
・大使 92人 (学校数15校)
・フロント 4人 (事前参加は5人)
■当日のシステムのディレクター
会議監督と議長以外のフロント、顧問の先生方が行いました。
■6月大妻オンライン会議にした皆さんに聞きました
[フロント]
・「今ないものについて考えるときではない。今あるもので何ができるかを考えてみよう」
大妻高校(東京) :根岸里帆さん(2年) 、蜷川和夏さん(2年)、永田真悠さん(2年)
渋谷教育学園渋谷高校(東京):大森智加さん(1年)
[大使]
駒場学園東邦高校(東京):吉田伊織くん(1年)、葉山弘一くん(1年) リビア大使
豊島岡女子高校(東京):加納彩瑛さん(1年)、田栗麻衣さん(1年) アルゼンチン大使
渋谷教育学園渋谷高校(東京):上坂進之祐くん(1年) ロシア大使
・「オンライン会議であることで発言の機会が増え、自信につながった」
大妻高校(東京):阿野咲さん、山崎真矢さん(1年) フランス大使
[Letʼs Join MUN !]
■開催日
初心者会議:6月14日(日)10時~18時
経験者会議:6月28日(日)10時~18時
■議題
初心者会議:「核軍縮」
経験者会議:「水銀に関する水俣条約」
■会議に使用したシステム
・議事進行、スピーチ、モデ、出欠確認、Point of order、動議、投票:Zoom
・アンモデ:Zoomのブレークアウトルーム
・質疑応答、メモ回し:Zoomのチャット欄
■議題解説書、プロシージャなどの配布資料の共有に使ったシステム
Googleドライブ(リンク発行によるファイル共有機能を使用しました)
■PPP、NPなど参加者からの文書提出に使ったシステム
Eメール
■WP・DRなどの作成・提出に使ったシステム
Eメール
■会議参加者数
[初心者会議]
・大使34人(学校数19校)
・フロント3人
[経験者会議]
・大使22人(学校数12校)
・フロント3人
■当日のシステムのディレクター
会議監督(石川将くん)
■Letʼs Join MUN !に参加した皆さんに聞きました
[フロント]
灘高校(兵庫): 石川将くん(3年) 初心者会議・経験者会議 会議監督
・「オンラインであってもリアルの雰囲気や流れをできるだけ再現できるように」
海城高校(東京): 持田隼人くん(2年) 初心者会議秘書官
[大使]
・「1日の経験が大きく自分を成長させてくれることを実感した!」
初心者会議:えすさん(シリア大使)、さよさん(タイ王国大使)、Mさん(オーストラリア大使)、りんごさん(北朝鮮大使)
経験者会議:☆☆さん (カンボジア大使)
リアルの代替を超えて、新しい会議の形を作る
模擬国連というと、首都圏や関西地方など、もともと盛んだった地域以外では、興味があってもなかなか参加する機会がない、という人も多いと思います。
一方、部活などで模擬国連を行っている学校でも、いくつかの学校が集まって練習会をするためには、休日に学校の教室を借りたり、先生に引率していただいたりする必要があり、けっこうたいへんなのです。
オンライン模擬国連は、このような制約を一気に吹き飛ばすものでした。実際、今回の参加者の中にはハワイから参加した人もいました。まさに数千キロの空間を超えて一つの「議場」に集まることができるのは、インターネットの理想を体現したものと言えるでしょう。今まで模擬国連に参加したくても機会に恵まれなかったという人も、ぜひ一度参加してみてください。
もちろん、オンライン模擬国連が万能というわけではありません。いちばん大きな問題が、通信環境に大きく左右されることです。今回の会議でも、当日突然の不具合で会議自体に参加できなかったり、接続が急に悪くなって話し合いがうまく進まなかったり、アンモデが終わってから議場に入れなくなったり…といったトラブルもありました。また、リアルの会議では同じグループの中でいくつかの交渉を同時に進めることができますが、現在のテレビ会議システムでは、一度に一人しか話せないため、議論にどうしても時間がかかりがちだったようです。
しかし、こういったトラブルも、通信環境の改善や会議システムのバージョンアップ、さらに参加者がオンライン会議自体に慣れていくことによって改善していく部分もあるでしょう。今回、こういったトラブルがありながらも、DRを提出し、採決まで持ち込むことができた議事進行には、フロントの皆さんの柔軟かつ的確な対応がありました。心から拍手を送りたいと思いました。
近い将来、オンライン模擬国連はコロナ対策の代替会議ではなく、一つの形態として定着していくでしょう。その時、参加する人も地域も今までよりずっと大きく広がっていくことと思います。コロナでできなくなったことに屈することなく、将来につながる新しい挑戦ができることを教えてくれた、二つのイベントでした。