情報処理学会第82回全国大会中高生情報学研究コンテスト ポスターセッション発表
チーム名:AI Watch
武藤 熙麟(ひかる)くん(灘高校[兵庫] 2年)
(2020年3月取材)
「急変する持病のための連携システム:体調不調予測AIの開発による予防強化」
■発表の内容
心臓病や熱中症等は、居合わせた人に速やかに適切な措置(AED、水分補給+冷やす)をお願い出来れば、生命や後遺症等のリスクを大幅に下げられる。
昨年は、スマートウォッチとスマートフォンを連携させ持ち主の異常を検知→後は自動で、GPS位置情報を付けて119通報・家族等へ連絡・周囲の人に対処法の動画再生(救護策)+睡眠等から簡単な不調予測(予防策)、というシステムを作った。
今年は昨年の課題を改善するため、熱中症リスク予測AIを開発して体調予測の精度を上げ、リスク回避・健康向上行動を促したり意識させる工夫を加えた。べースの体調は持病悪化に密接に影響し、特に熱中症は体調に敏感に反応すると感じてきたためである。
また、本研究により、運動誘発性アナフィラキシーと熱中症のリスクを0に出来、更に他の持病も緩和できた。
本研究では、急変時の救命率と予後を良好なものにしつつ、高いQOL(持病全快)を目指す。
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■今回発表した研究を始めた理由や経緯は?
[理由]
本研究では、スマートウォッチとスマートフォンなどを連携させ、急変する持病の人の急変時の警報と予測による急変予防のシステム開発を行っています。これにより、アナフィラキシーショック時などの異常を検知し、自動で119通報したり、家族や近くにいる友達に連絡したり、居合わせた人に対処法(例:緊急用注射の打ち方)の動画を見てもらって、救命率と予後を良くできるためです。
また、熱中症予測AIにより体調不良予測を行い、予防しながらベースの体調を良好に維持できるようリスク低減行動を誘導して、持病全快を目指せるためです。
[経緯]
2016年後半か2017年初め、次の時計を買おうとして、スマートウォッチのことを知りました。本研究の原案はスマートウォッチの機能を詳しく読んでいく中で思いつきました。
ただ詳しく調べると、異常検知に最も利用したかった血圧のデータが、医療用の精度とは全く違って信頼性が低いと分かり、また血圧以外の利用できる健康スコア(心拍数や万歩計など、プラスそれらの計測値)の信頼性は当時そこまで異常検知に役立たないと判断し、その年は研究開始を見送りました。
オムロン様から、医療用レベルの血圧を搭載したスマートウォッチの発売がニュースリリースされたので、その市販を待とうと思ったためです。
ところが本研究の必要性が高まり、発売を待てなくなったので、完成間近の物を研究用として借りることができないかと考え、2018年度の「未踏ジュニア(※1)」へ応募しました。結果的に、残念ながらお借りすることはできませんでした。
「未踏ジュニア」では、血圧以外の方法による異常検知を検討し、警報システムの原型を完成させました。「未踏ジュニア」の期間は、たいへん素晴らしい環境で本当に幸せでしたが、開発時間を思うように確保できず、残念ながらバグが多いままで終えてしまいました。
また、「未踏ジュニア」の期間中にロボットの世界大会があり、そこで親しくなった他校の方と意気投合して、2018年度の本研究にリーダーとして加わってもらいました。
これは非常に楽しい経験となり、研究もブラッシュアップできました。そして、2018年度冬の「バイオハッカソン2018(※2)」に慶應義塾大学GSC(Global Science Campus)生としてポスター発表参加したのを皮切りに、日本学生科学賞で1等入選、情報処理学会全国大会の中高生ポスターセッションで優秀賞と若手奨励賞と高く評価して頂き、大変感激しました。
※2 https://biosciencedbc.jp/news/20190130-02.html
この年の共同研究者は、僕より1年上で、受験のため今年度の本研究からは離脱されたので、やはり2019年度の世界大会で親しくなった玉川学園高等部の西岡英光くんと田原剛次郎先生に共同研究をお願いしました。今回、西岡くんはこの「中高生情報学研究コンテスト」に出展されています。
西岡くんの研究は、昨年度の課題であった、異常検知手法やGPS位置情報・現状把握をドローンによって改善するものです。このドローンがあれば、近くに誰もいない場所で異常をきたしても、周囲から手助けしてくれる人を連れて来たり、リアルタイムで患者の様子を動画配信することが可能なので、より一層確実かつ迅速に救助できるようになり、救命率と予後が格段に向上します。これは急変する持病の人にとって、素晴らしい朗報です!
その上で、僕は夏の間の重要懸念である熱中症リスクの解決を目指せないか考えました。僕自身が毎年、週1~数日は熱中症でダウンし、その度に数時間~半日は寝込み、何もできなくなっていたからです。
僕の持病のアレルギーも、基礎的な体調が良いと症状が軽く済みます。特に、長期のアトピー患者は、薬の副作用で皮膚機能が低下していて体温を発汗で放熱できにくいため、普通の人より非常にリスクが大きく、基礎的な体調に敏感に反応していると感じてきました。
体調が良い状態を維持できれば、熱中症もアレルギーもリスクを下げられます。この良好な状態を長期間維持できれば、毎日、さらに毎夏のQOL(Quality of Life)が上がるだけでなく、持病の全快も目指せます。そして、それはほんの少し正しく気をつけたら可能であると考えました。
そのため、今年度は普通の人用の熱中症予想AIより、熱中症がハイリスクとなる持病を持つ人の個人の体調によりフィットした体調予測AIの開発を行いました。
さらに、運動誘発性アナフィラキシーショックと熱中症は発症ゼロを目指せるため、それも意識した体調予測にして、かつ、リスク低減行動を誘導させたり意識させたりすることで、より良好な健康状態で過ごし、その蓄積により持病全快を目指しました。
まだまだ課題が山積の上、取り組みたいことも数多くありますので、今後も精一杯頑張っていくつもりです。
■今回の研究にかかった時間は?
本年度については、8か月くらいです。
■今回の研究で苦労したことは?
熱中症予測AIの精度を上げることです。
最初は、数値を上げることで信頼性を高めようとこだわっていましたが、今年度は、技術的に厳しかったことと、実際に役立つ手法を優先させるために、予測を1日に複数回行うことで予測精度を上げることにしました。
これにより、ハイリスク時に複数回システムを自動起動させて分析させることで、その度にハイリスク通知やリスク低減行動を誘導できるようになり、実際の効果はより上がった、と考えています。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
急変する持病があり、普通の人の日常生活とは少し違う生活を送ってきた経験を全て本研究に詰め込んで、実際の効果(発症リスク低減、発症時の救命率アップ、発症後の良好な予後)を重視した点です。
■オンラインの発表と実際の会場での発表のどちらがよかったでしょうか?
僕は持病があり(アレルギーがあるため、飲食物は全て持込)、来月から高3なのでオンライン発表は負担が軽くて済み、助かりました。
ただ、僕が高2でなければ、持病対応が大変であっても、宿泊してリアル参加したかったです。どれだけ勉強できるかわからないものの、その年の課題のほとんどは、大会やイベントで来場者の方に質問することで、ヒントをいただいたり問題が解決できたりしたからです。
長期間悩んだ課題もあっさり解決できたり、先生方や他の高校生達と親しくなったり、自分の研究を知ってもらったりすることは、本当に貴重で、楽しすぎる時間です。
■今後「こんなものを作ってみたい!」「こんな研究をしてみたい」と思うことは?
今は、この研究関連しかありません。
誰でも、普段の生活で「こうできるといいな」と思うことの多くは、工夫次第で本質部分は出来ることが多くなってきていると思います。高度なIT社会になって、既に中高生にも先端技術(グーグルホーム、スマートウォッチ、ドローンなど)は身近だからです。
なので、ここまで読んでくださった人は、ぜひ挑戦してほしいと思います。
※「AI Watch」の研究は、中高生研究賞奨励賞を受賞しました。
第82回情報処理学会全国大会中高生情報学研究コンテスト ポスター発表より