第13回全日本高校模擬国連大会

各国の国益だけでなく、この会議の先にある国際益を視野に入れて

大妻高等学校[東京都] 担当国:ケニア

西部陽菜さん、丹後向日葵さん(2年)

(2019年11月取材)

 

■担当国を希望した理由をお教えください。特に、今回の議題の「死刑モラトリアム」については、担当国のどのような点に注目されましたか。

 

私たちはまず、全日の出場が決まってすぐに希望国を決めるためのリサーチを始めました。その際、イスラームのように死刑と宗教が密接に関わっておらず、かつ死刑を停止または廃止している国に絞りました。その中でもケニアは、死刑囚や死刑判決は未だ存在するものの、執行は近年行われておらず、2017年12月に絶対的法定刑としての死刑を違憲として死刑制度を見直した国であるということがわかりました。そのため、今回の議題である死刑モラトリアムを議論する上で、現在死刑を執行している国・していない国のいずれとも議論でき、死刑モラトリアムという点において世界全体を牽引するであろうと考え、ケニアを希望しました。

 

■準備の段階で苦労したことや、工夫したことがあれば教えてください。

 

議題が人権に関連することだったので、数値だけで各国の状況を把握することができない点が苦労しました。そのため、各国のプロフィール帳のようなものを作成し、一覧にすることで各国のモラトリアムに対する立場をわかりやすくしました。また、作った政策の背景をわかりやすくするために、画用紙にまとめました。(西部さん)

 

 

参加が決まってからすぐに、ペアと協力して国連加盟国すべての死刑についての情報を表にまとめたのですが、私はまず過去に行われた計7回の死刑モラトリアムの議論における加盟国の投票記録を調べました。それにより、早い段階から各国が死刑モラトリアムにおいてどのような立場なのかが大まかに把握でき、会議当日にはお互いに参加国すべての情報が頭に入っていたため、他国との交渉もスムーズにできたと思います。(丹後さん)

 

 

■大会当日は、どのようなことに気をつけながら会議に臨みましたか。特に、立場が異なる国と交渉する際に気をつけたことを教えてください。

 

一番の目標にしていたことは、外交としてできるだけ多くの国と議論し、死刑モラトリアムの議論において二項対立で終わらせず新たな結論に帰着させることです。結果的には対立で終わってしまいましたが、多くの国と議論するために、自分が話しやすい人かつ話しかけやすい人になることを意識しました。初歩的なことですが、話すときは相手の目を見る、笑顔でしゃべるなどです。立場が違う国とも冷静に議論することを心がけました。(西部さん)

 

 

私は内政としてグループ内の意見をまとめたり、自分たちがこの会議においてどのような方向性で議論するべきかを提示したりしていました。その際に心がけていたことが、各国の国益だけではなく、国際益やこの会議の先にあるものを見据えた上でグループの意見を固めていくことです。

 

今会議の議題である「死刑モラトリアム」において、ケニアが所属していた中間国グループとしてどう動くべきで、それはどのように未来へとつながっていくのかを主張しました。また、他国の大使と話す際には、相手の目を見て、相手の意見に対し質問も交えつつしっかり耳を傾けるという真摯な姿勢でいることに努めました。一見当たり前のことに思われますが、これが内政において非常に重要なものだと私は考えていて、実際にグループで信用してもらえるきっかけの一つになったと思います。(丹後さん)

 

 

■会議を進める上で一番大変だったことを教えてください。それをどのような工夫や努力で乗り越えましたか。

 

1日目のはじめのアンモデで、自分たちが予定していた会議プランがすべて崩れたことです。当初は、モラトリアムをしている国のグループを作成し、ワーキングペーパーを作成する予定でした。しかしモラトリアム国の大半が存置国グループに行ってしまったため、私たちは議場で浮いてしまいました。このことが一番大変だったことです。しかし、外交として廃止国側のグループと交渉をすることで自分たちの国益を守りぬくことができました。また、2日目には存置と廃止、対立する2グループの議論がなされないまま会議が終わらないように、外交として両グループのリーダーと交渉しモデの提案を行いました。(西部さん)

 

 

最初のモデレーテッド・コーカスで、ケニアとしての意見を思った通りに伝えることができず、直後のアンモデレーテッド・コーカスにおいて、事前のシミュレーションとは全く違ったグループが形成されてしまったことで、ケニアは議場で孤立してしまいました。当時は非常に不安でしたが、途中から中南米を中心としたグループに参加し、ホワイトボードを用いて各国の意見をまとめて議場におけるそのグループの立ち位置を確認することで、自然と存在感が出たように感じます。(丹後さん)

 

 

■皆さん自身は、「死刑モラトリアム」についてどのような考えを持っていますか。また、それは今回の担当国の立場とどのような点が同じ(あるいは違う)でしたか。

 

リサーチをする前までは、死刑制度存置派でした。それは、今まで自分が生命権というものについて深く考えたことがなかったからだと思います。今会議に参加し、生命権について理解し、世界全体の死刑制度の存廃の流れを知るうちに死刑執行に反対するようになりました。日本が国際的潮流に逆らわないためにも、モラトリアムをすべきなのではないかと思っています。

 

ケニアは、死刑の執行はしないという意思を表明しているモラトリアム国です。国は死刑は生命権の侵害であるとし、将来的な廃止を目指しているので、その点では日本もとりあえずモラトリアムをすべきなのではないか、という意見とは異なる点であると思います。(西部さん)

 

 

会議に参加する前の私は、死刑制度に賛成の立場でした。ですが、リサーチをしていく中で、国際的には死刑廃止が主流になってきていること、そして死刑存置の根拠には正当性があまりないとされているものも多いことを知り、担当国のケニアが死刑を停止している国であったことも相まって、日本をはじめとする存置国は、終身刑を導入した上で死刑を停止するのが良い選択なのかもしれない、と思うようになりました。しかし、死刑についての考え方には正解はないので、難しい問題だと思います。(丹後さん)

 

 

■最後に2日間の感想をお願いします。

 

私たちはリーダーシップを取れたり、抜きん出たディベート力があったりするわけではなかったので、とにかくたくさんの大使と議論し、円滑かつ活発な議論が行われる議場づくりを心がけました。その結果、たくさんの大使にお世話になりながらも優秀賞をいただくことができました。模擬国連を始めてからずっと憧れていた全日という舞台で賞をいただけたことを、とても嬉しく思います。また、各国がそれぞれの意見を主張し、ぶつかり合う中でもみんなでより良い決議案を作ろうという共通意識のもと議論することができ、とても充実した、有意義で忘れられない2日間になりました。A議場の皆さんありがとうございました。模擬国連を始めてからずっと指導してくれた顧問の先生、ともに頑張ってきた同輩のみんなには感謝してもしきれません。国際大会でも悔いの残らぬよう、邁進してまいります。(西部さん)

 

 

序盤は苦しい場面もありましたが、全体を通してとても面白い会議でした。どの大使もしっかりした意見を持って、活発に議論を繰り広げており、議場全体の雰囲気が非常に良かったです。個人的な反省点は多くありますが、ケニア大使としてこの会議を全うすることができ、目標であった優秀賞をいただくことができたことを嬉しく思います。国際大会は、さらにハイレベルな交渉力や英語力が不可欠となりますが、世界中から大使が集まって議論する貴重な機会ですので、自分自身成長できるよう、全力を尽くして参ります。ありがとうございました。(丹後さん)

 

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