マジョリティーを占める国が一方的に押し付ける決議案では真の合意は生まれない
(2019年11月取材)
■担当国を希望した理由をお教えください。特に、今回の議題の「死刑モラトリアム」については、担当国のどのような点に注目されましたか。
メキシコは死刑廃止国の一つで、その中でもほとんどの国が死刑を廃止している中南米に位置する国であったため、前年の国連では決議案を共同提出するなど、廃止に向けて行動してきた印象でした。しかし、それと同時に国連の議事録などを読んでいく中で、メキシコなどの南米諸国は、EUのように理念としての死刑廃止を求めているわけではなく、例えば隣国のアメリカでの自国民の死刑判決などの実際の問題を踏まえて死刑廃止を求めていることが特徴的だとわかりました。
そこで僕たちは今回、これまでの国連決議のどこに問題があり、未だすべての国が死刑廃止に至っていないのかを考えました。そこで大きな問題として浮上したのが、国連における議論の紛糾でした。毎年賛成多数で決議されている死刑廃止は、一見良いように見えます。しかしよく見てみると、それらの決議は現在マジョリティーを占めている廃止国が一方的に存置国に主張を押し付ける形になっており、この合意のない決議はとても効力があるとは思えませんでした。
そのため、このような現状を踏まえて、メキシコとしては現在よりも論理的で効果のある会議成果を目指しました。特に、会議では廃止国のみが固まり、存置国との議論が行われないことを防ぐためにその中間を取り持つ立場を堅持しました。
■準備の段階で苦労したことや、工夫したことがあれば教えてください。
今回の死刑モラトリアムという議題は、各国とも明確な立場があるとはいえ、例えばモラトリアムを行っている国でも、廃止に向かっているのか存置に向かっているのかで立場は大きく変わってきます。そうした中で、そのような立場は各国の声明や国連での議事録を読まなくてはわからず、その膨大な量の資料を読み込むことに苦労しました。また、立場がそう簡単に変えられる議題でもないため、模擬国連において重要な「妥協点を見つける」という準備が大変でした。(楜澤くん)
特に論点1でフロント側が求めていることがよくわからず、どのように議論が進むかの予測が難しかったです。(湯山くん)
■大会当日は、どのようなことに気をつけながら会議に臨みましたか。特に、立場が異なる国と交渉する際に気をつけたことを教えてください。
当日は、自国の立場がまず実際の国際会議においてそこまで主流ではないため、その説明をいかにわかりやすくするかということに注意しながら臨みました。しかし、会議に行ってみると意外と同じような考えを持つ大使の方々が多く、協力できて良かったです。また今回中間の立場を取ったことで、存置国・廃止国のどちらとも多くの交渉を行わなくてはいけなかったため、その作業が外交の中心となりました。その際、会議におけるゴールがコンセンサスの大使も、そうではない大使もいる中で、自分の国益を損なわずに様々な形の落とし所を見つけていくということが大変でした。しかし、会議前にある程度ほとんどの国に対する譲歩案を想定していったため、スムーズに進めていくことができました。(楜澤くん)
中立国という立場を崩さずに、最後までその立場を保つことです。グループのみんなの意見を丁寧に聞くことを心がけました。(湯山くん)
■会議を進める上で一番大変だったことを教えてください。それをどのような工夫や努力で乗り越えましたか。
やはり、賞が設定されている全日ということで、自分も含めほとんどの大使がそれを意識していました。しかし今回の議題ほど、違う立場の大使同士の話し合いが必要なものはなく、賞を意識しすぎて本質を見失っている議論もありました。その時には、自分たちはこの場に一大使として来ていて、国の何千万という国民の未来を背負っているのだということを皆で意識するようにしました。
その他にも、今会議では異例ともいえる1日目にWPを2枚提出しなくてはいけないという会議細則がありました。時間が足りない中、政策を詰めてグループ同士ですり合わせを行い、WPを提出することは最も難しいことでした。実際僕たちのグループは、1日目は他グループとの協力がうまくいかず、WPを提出せずに終わりました。しかし2日目は、逆に前日自グループすべての国がその国益を妥協してWP提出に固執するということがなかったため、質の高いDRを作成することができました。最終的には、他グループとのコンバインの際に、自グループの利益が損なわれる形となってしまったため、提出したDRを撤回することになりましたが、同時に廃止国のみのDRも可決されず、完璧とは言えませんが自分たちのスタンスは最後まで貫けたと思います。(楜澤くん)
他のグループとの歩調がなかなか合わず、目指していたことが達成できなかったことです。自分は、グループ内の国の人たちと丁寧にコミュニケーションを取り、見解を固めていくことに注力しました。(湯山くん)
■皆さん自身は、「死刑モラトリアム」についてどのような考えを持っていますか。また、それは今回の担当国の立場とどのような点が同じ(あるいは違う)でしたか。
これまで死刑というテーマは、自分にはあまり関わりがなく、深く考えたことがありませんでした。しかし今回リサーチしていく中で、自分の常識とは全く合わないことも世界にはあるのだということに気がつきました。例えば、ある国では同性愛が死刑の対象になる一方、ある国では同性愛は法律で認められています。このように、各国で文化や価値観は大きく異なっています。そのような中で、個人的には、この文化の壁というのは、一方的な死刑廃止国からのモラトリアム・廃止の要求だけでは越えられるものではないと思いました。しかし逆に死刑存置国も、このような世界的潮流の中で、死刑廃止を行うことはなくとも死刑制度の見直しのために死刑モラトリアムを行うということは必要であり、国際社会の一員としての義務なのではないかと考えました。この僕の立場は、担当国のメキシコとは、死刑廃止が必ずしも必要だとは考えていない点では違いますが、方向性としては似ていると思います。(楜澤くん)
冤罪がなければ、死刑制度はあってもいいと思います。現時点では、「死刑モラトリアム」に反対です。(湯山くん)
■最後に2日間の感想をお願いします。
模擬国連において、毎回僕の目標は楽しむことというのが一番でした。この2日間はこれまでのどんな会議よりも体力的にも精神的にも大変な会議でした。しかし初めてのことがとても多く、困惑することも多かったですが、最終的には楽しめた会議になったと思います。そして、どんな会議でもそうなのですが、模擬国連を楽しめるのは共に参加している大使の方々のおかげであり、参加した大使の方々には感謝しています。またそれに加えて、これまで様々な練習会に参加して来ましたが、そこで関わってくださったすべての方々やこれまでのペア、顧問の先生や他校の顧問の先生方のおかげで今回このような結果になることができました。この場をお借りしてお礼申し上げます。(楜澤くん)
最終的に、自分たちに賛同してくれる国の人たちが結構いたことはよかったと思います。
(湯山くん)