グループ全員の意見を引き出し、全世界で死刑を廃止させることを目指して
(2019年11月取材)
■担当国を希望した理由をお教えください。特に、今回の議題の「死刑モラトリアム」については、担当国のどのような点に注目されましたか。
オーストラリアを選んだ理由は2つありました。1つ目はオーストラリアがEU加盟国ではない死刑廃止国であるという理由であり、2つ目は、オセアニアは倍率が低くて当たりやすいのではないかという安易な理由でした。
なぜ意図的にEUを外したかというと、オーストラリアは死刑廃止を義務付けているEU加盟国よりも自由な立場で議論ができるからです。この立場を生かせば、今までの廃止国と存置国の二項対立をなくせるのではないかと思いました。
高校生はアメリカ合衆国や中国といった、大国の大使を演じてみたい人が多いと思います。今回、どうしても新しい死刑廃止への潮流を作りたかったため、廃止国の中でも倍率があまり高くないと思ったオーストラリアを選びました。
また、オーストラリアを担当するにあたり、『全世界で死刑を廃止させる』という外交目標に注目しました。オーストラリアは死刑モラトリアムの経験を共有することや死刑の不可逆性について二国間交渉をするなど、精力的に活動しています。オーストラリアが率先して死刑を廃止させて行きたいという強い意志を感じ、自分たちの中にも取りこみました。
■準備の段階で苦労したことや、工夫したことがあれば教えてください。
準備の段階では今までの決議を翻訳し、会議の変遷を辿り今回の会議でどのような成果を残さなければならないのかを考えた後その成果に対して自国がどのように貢献できるのかを調べました。また死刑存置国と廃止国両方の意見を調べ、何故自国が廃止の立場を取っているのかなど徹底的に深掘りしました。自国の歴史を調べると自国の立場が明確になっていくのでお勧めします。辛いですけど…。
(大久保くん)
オーストラリアとして、会議でどんなことを主張するべきなのか、どんな政策を持ってくるのが正しいのか考えるのがとても大変でした。日本に住む人として、死刑が存在することが当たり前だったので、いまいち死刑廃止国としての立場がわからなかったからだと思います。そのため、オーストラリアに歴史や現状について、死刑だけに限らずとことん調べることによって、オーストラリアの人々が持っている価値観を理解して、自国の政策を作り上げました。(渡辺くん)
■大会当日は、どのようなことに気をつけながら会議に臨みましたか。
「大使になりきる」ということを心がけました。大使になりきることは、相手を大使として扱い、尊重する事にもつながります。本当の国連の場で自国の意見を主張しない、話し相手を侮辱するなどの行為は絶対にしてはいけない事です。しかし、高校生が会議を行うのでそのようなことが起きやすいと思ったため、気をつけました。また立場の違う国に対しては門前払いをするのではなく、相手の話を聞いた上で自分たちの意見とどこが違うかを明確に提示し、折衷案を提示する事を心がけました。(大久保くん)
自分だけで会議を進めず、グループにいる大使全員を議論に巻き込むことに、とても気を遣いました。調べれば調べるほど、自分の意見が正しいという絶対的な自信がつき、つい自分の意見を強く主張し他人の意見を軽視してしまうような事態が起きてしまいます。でも、それは模擬国連のあるべき姿ではありません。相手との対話の中で、より良いものを作り上げる、それが本当に必要な信念だと考えています。だからこそ、全員の意見を引き出し、それを軽視せずに真摯に向き合うことを心がけました。立場が異なる国との交渉の中でも、それは変わりません。相手を論破するのではなく、双方が合意できる道を探すことに力を注ぎました。(渡辺くん)
■会議を進める上で一番大変だったことを教えてください。それをどのような工夫や努力で乗り越えましたか。
一番大変だった事は議場全体の焦りを収めることです。会議にとって一番の敵は、議場全体が焦ってしまうことです。焦ると周りが見えなくなり、思うようにことが運ばなくなります。また今議題は、全体で合意点を見つけるのがとても難しく、そこが見つからないと、『決議案が出せないのでは無いか』、『もう話し合いなどしている暇はない』と大使全員が焦り始める場面が何度もありました。そこで私は焦りが全体に伝導しないように焦り始めている人を見つけては「一回落ち着こう」「まだ余裕があるよ」と声かけをしました。自分が焦らないというのが一番必要だと思います。焦らず周りを見渡す。これに尽きるのでは無いでしょうか。
(大久保くん)
一番大変だったのは、時間との戦いです。我々のグループでは、死刑廃止国と死刑存置国が両方存在したために、非常に議論が活発でした。ですが、そのせいで成果文書に至るまでのスケジュールが、当初考えていたものからどんどん遅れていってしまいました。今までであれば焦るところなのですが、今回、私は遅れてもいいから議論を深めることを決断しました。これにより、会議からは一歩遅れた形にはなってしまいましたが、結果的にはグループとして強い信念を持った政策を作ることができ、より良い決議案を作り出すことができました。会議の中で本当に成し遂げたいことは何なのか、それを忘れずに臨機応変に行動することが大切だと思います。(渡辺くん)
■皆さん自身は、「死刑モラトリアム」についてどのような考えを持っていますか。また、それは今回の担当国の立場とどのような点が同じ(あるいは違う)でしたか。
私は死刑モラトリアムには賛成です。なぜなら、死刑は国家による不可逆性を持つ殺人だからです。しかし、今の日本の現状を鑑みると、早急なモラトリアムへの移行というのは返って世論の反発を生んでしまう可能性がある為一歩が踏み出せない現状です。死刑をなくすためにもオーストラリアのように生命権を含む人権についての教育に力を入れ、国民の意識から改革していく必要があると思います。私も人権の普及に対してできることを全力で取り組みたいと思います。(大久保くん)
私自身、もともとは死刑モラトリアムという考え方を知りませんでした。そして、死刑があることが当たり前だと考えていました。しかし、今議題を調べるにあたって、日本など死刑存置国は一刻も早く死刑モラトリアムを行うべきだと思うようになりました。生命権という、全ての人間が持つ一番尊重されるべき権利を、こうも簡単に奪ってよいものなのか。これはオーストラリアの持つ、「死刑は、生命権の例外ではない」という考えと同じだと思います。死刑モラトリアムをいち早く実施するためにも、何か自分にできることがあれば積極的に取り組んでいきたいです。(渡辺くん)
■2日間の感想をお願いします!
本当に楽しい2日間でした!同世代のいろいろな価値観を持った人たちと各国政府代表という立場で話し合うことはとても新鮮でした。また、昼休みなどに高校生としていろいろな人と話をし、友達を作ることができたのがうれしかったです。特にいろいろな地域の「地元話」がとても印象に残っています。
今会議に向けてたくさん準備してきました。時には辛くなり、投げ出してしまいそうになったときもありました。それでも投げ出さず前に進んで来られたのは、いつも励ましてくださったペアの渡辺先輩、応援してくださった先生方、一緒に会議を作り上げてくださった大使の皆さんのお陰です。改めてお礼を申し上げます。(大久保くん)
非常に貴重で、何物にも代え難い経験を得られた2日間でした。難しい議題の中、私自身、準備段階でも会議中でも、何回もうまくいかず動揺したり焦ったりしてしまいました。ここまで来られたのは、周りの人たちの協力あってこそだと思います。時に厳しく、時に優しく励ましてくれた先生方、応援してくれた同級生、いつも支えてくれたペアの大久保、一緒に会議を作り上げてくれた大使の方々、数えればきりがないです。
今回の受賞を本当に嬉しく思うとともに、全ての応援、協力してくれた方々に感謝しています。そしてこの経験を活かし、自分だけでなく、ほかの仲間たちにもいい影響を与えられるようにこれからも努力します!(渡辺くん)