2019さが総文

手作り素材で流体力学に挑む! 過密空間で流体を効率よく輸送する方法は・・・

【ポスター/物理】福岡県立香住丘高校 物理部

(2019年7月取材)

左から 渡邉海斗くん、村上雄大くん(3年)
左から 渡邉海斗くん、村上雄大くん(3年)

■部員数 10人(うち1年生2人・2年生3人・3年生5人)

■答えてくれた人 村上雄大くん(3年)

 

流体摩擦の低減効果に関する研究

表面の凹凸の違いによる流体摩擦を低減効果を調べる

 

私たちは流体摩擦を低減し、流体の輸送効率を向上させることを目的に研究を行いました。

 

※クリックすると拡大します 

 

ゴルフボールは、ディンブルという表面の凹凸をつけることで飛距離が伸びることがわかっています。また、競泳用の水着は、水中ではサメ肌の模倣であるリブレットという構造が、乱流における流体摩擦を低減させることがわかっています。サメ肌の構造から、私たちは新たに直線形リブレットとらせん形リブレットを考案しました。

 

これらをパイプ内に再現することで、パイプ内の流体摩擦の低減効果を観察しました。

 

まず、リブレットの作製方法を説明します。未加工の塩化ビニール製パイプと、ビニールテープで径を調節したアルミ棒に紙やすりを巻きつけたものを用意します。アルミ棒をパイプにまっすぐ挿入すると、直線形リブレットができます。また、回転させながら挿入することで、溝に傾きをつけ、これをらせん形リブレットとします。

 

 

実験では、摩擦損失係数とレイノルズ数の関係を調べるために、左図のような装置を作り、摩擦損失係数とレイノルズ数(Re:※)の関係を調べました。

 

※流体力学において慣性力と粘性力との比で定義される無次元量

 

 

実験の結果、以下のようなグラフが得られました。

 

 

この結果から、レイノルズ数Re=2500〜22500においては摩擦損失係数の差は見られず、Re=500〜1000においては「加工なし」に比べて「らせん形リブレット」の方が摩擦損失係数が小さいことがわかりました。

  

次に、らせん形リブレットのらせん一周の幅(らせんピッチ)を変化させて、摩擦損失係数との関係を調べました。らせんピッチを変えた状態がこちらの図です。結果は下のようなグラフが得られました。

 

 

この結果から、Re=500〜1000において、らせんピッチが最も小さい1.0cmのときは摩擦損失係数が他に比べて大幅に小さいことがわかりました。

 

流体摩擦低減のメカニズムを風洞実験で解析する

 

このように摩擦損失係数が小さくなった、すなわち流体摩擦が低減されたことについて、メカニズムを解明するために風洞実験で可視化する試みを行いました。

 

まず、その前提としてレイノルズ相似則を説明します。非圧縮粘性流体にはナヴィエ・ストークス方程式が与えられます。外力f=0として無次元化し、流速の時間変化がないという前提で、遅い流れゆえの圧力変化を無視すれば、レイノルズ数が等しい時に流れの場は同等となります。

 

すなわち、幾何学的に相似な形状の模型で、各流れのレイノルズ数が等しい時、物体の周りの流れは相似になります。このことから、異なる流体でも流れの様子は互いに拡大・縮小して解析することが可能になります。

 

よって私たちは小さなリブレットのはたらきを、拡大模型によって可視化することができました。

 

 

これをもとに下図のような実験装置を作りました。模型の上流から線香の煙を流し、模型の周りの煙の流れの様子をカメラで撮影しました。このとき、風速を調整してレイノルズ数を400にしました。

 

 

その結果が下の写真です。

 

加工なしの模型では、管壁から離れて煙が流れていたのに対し、リブレット模型では、管壁近くに煙が流れていました。これは、加工なしの場合は層流境界層ができ、リブレット模型では乱流境界層ができたためと考えられます。

 

 

リブレット模型では管壁近くの流れが乱れることによって流体摩擦が低減された

 

この考察から、管に働く流体摩擦についてより詳しく調べました。管中心から距離r離れた面に働く摩擦力は、左の式で求められます。

 

 

これに、加工なしとリブレット模型の結果をそれぞれ当てはめたのが、左のグラフです。らせん形リブレットの方が摩擦力が小さいことがわかります。

 

 

これは、加工なしの場合は管との摩擦から管壁近くの速度が遅くなり、層流境界層が形成され、中心付近の速度層と交わらないことが原因と考えられます。

 

らせん形リブレットでは、管壁近くの流れが乱れ、中心付近の速度層と混じることで管壁近くの速度が比較的大きくなり、流体摩擦が低減されたものと考えられます。

 

 

結論として、従来のリブレットが乱流において最大8%の摩擦低減効果を確認されているのに対し、私たちの研究ではらせんピッチ1.0cm、Re=600において、60%程度の低減効果を確認することができました。今後はこのメカニズムをより詳しく解明し、リブレットの最適化を進めたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

物理部の先輩の研究から流体力学に興味を持ち、流体に関する研究を始めました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

今回の仮説・検証は、1週間あたり10時間を2年間続けました。全部で800時間ほどです。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

専門的な内容を自学して、レイノルズ相似法則を使った可視化実験などを行った点です。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

何度も改良を重ねた実験装置を見てほしいです。精密に水平を測る器具など工夫しています。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

・「トコトンやさしい流体力学の本」久保田浪之介 (日刊工業新聞社(2007))

・「絵とき水理学 改訂4版」栗律清蔵 國澤正和 西田秀行 福山和夫(オーム社(2018))

・「カラー図解 物理学辞典」Hans Breuer (共立出版(2009))

・Australian Museum

 https://australianmuseum.net.au/

・「壁面乱流の知的能動制御」鈴木雄二 笠木伸英 (東京大学 大学院工学系研究科)

   http://thtlab.jp/Doc/Yamatake00.pdf

・「第2版 流体力学ハンドブック」鈴木信夫(丸善株式会社(1998))

・「理科年表 平成29年」国立天文台編 (丸善出版)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

「らせん形リブレット」の流体摩擦の低減効果だけでなく、伝熱促進効果について研究していきたいです。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

物理チャレンジへの参加や、文化祭での物理に関する実験・展示などを行っています。

 

■総文祭に参加して

 

巡検研修での海洋エネルギー研究センターでは、自分たちの研究とつながるところがあり、大変興味深く、有意義な経験となりました。

 

⇒他の高校の研究もみてみよう 

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