2019さが総文
(2019年7月取材)
■部員数 20人(うち1年生11人・2年生9人)
ダンゴムシの飼育ケースにはカビが発生しない
私は小学校1年生からダンゴムシの研究をしていました。そして4年生のころ、ダンゴムシに野菜などの腐りやすい餌を与えても、飼育ケースにカビが発生しないことに気づきました。このことから、ダンゴムシの何かに抗カビ効果があるのではないかと考え、調べてみました。
その後、ダンゴムシのフンに抗カビ効果があり、それは加熱で低下してしまうことがわかりました。本研究では、加熱で効果が下がるということはフンの中の細菌などの微生物が抗カビ効果を持つのではないかと考え、実験によって確かめました。
まず、ダンゴムシのフンから3種の培地を用いて39株の細菌を単離しました。そして、単離した菌株を培養した培地にカビ胞子を塗布し、カビの生育が抑制されるかどうかを観察しました。
すると、H4株において、シャーレ全体でカビの発芽が抑制されていました。
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インド洋の深海から単離された放線菌に近縁?!
次に、この株の菌種の同定を試みました。
rRNA遺伝子の相同性から種を絞り、培養性状・生化学性状などを比較することで、この株がBrevibacterium属の放線菌であるとわかりました。その中でも特にB.sediminisに最も近縁です。
B.sediminisという菌についての先行研究は1本しかなく、しかもそれはインド洋の深海から単離されたものだそうで、まだほとんど何もわかっていません。
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抗カビ物質は揮発性
H4株の特徴として、遠いところのカビも抑制することが挙げられます。液体培養を行っても、液中に抗カビ物質を生産しないにもかかわらず、シャーレ全体のカビ発生が抑制されていました。
このことから、H4株は揮発性の抗カビ物質を生産していると考えました。
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それを確かめるために、二分割シャーレを使用しました。壁によって分断された培地のカビを抑制するならば、揮発性の抗カビ物質が空中を移動してカビの発生を抑えたことになります。
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実験の結果、二分割シャーレにおいてもカビがほぼ完全に抑制されました。このことから、抗カビ物質は揮発性であることが考えられ、さらに効果が非常に高いことがわかります。
次に、H4株のカビ発芽抑制効果を確かめました。
カビの胞子を接種した培地に対して、H4株を培養した培地と対照群をそれぞれ近づけ、数日後に取り外してその後のカビの発生を観察しました。
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その結果、発芽前にH4処理を行った群は、カビが生えませんでした。H4培地を取り外してからもほぼ成長せず、形質異常が見られました。このことから、何らかの抗カビ効果が持続していることが考えられます。
次に、H4処理を成長後に行いました。すると、処理期間には成長が停止しました。そして取り外すと再び成長が開始しましたが、形質異常が生じました。ゆえに、H4株生産物質はカビの発芽を抑制し、成長を止め、直接の作用を止めても形質への影響が持続することがわかりました。
遺伝的に近縁な放線菌にも抗カビ効果が!
また、H4株と遺伝的に近縁な放線菌でも抗カビ効果が見られるかについても調べました。
遺伝的な近縁種はやはり揮発性の抗カビ効果を有しており、先行研究でこれらの菌の揮発性の抗カビ効果は指摘されていないので、こちらも重要なデータです。
最後に、培地組成と抗カビ効果の関係について調べました。
H4株はLB寒天培地(トリプトン・酵母エキス・NaCl・寒天・蒸留水)で培養しましたが、ここから寒天と蒸留水以外の材料をそれぞれ抜くことで、抗カビ効果にどのような変化が見られるかを調べました。
この結果、トリプトンを抜いた場合のみ抗カビ効果の低下が見られました。ゆえに、H4株の抗カビ効果にはトリプトンが何らかの役割を担っている可能性が高いことがわかりました。
今後は抗カビ物質そのものを解析し、新たな抗カビ薬の開発につないでいきたいと思います。
■研究を始めた理由・経緯は?
小学1年のときに、夏休みの宿題でダンゴムシの自由研究を始めたのがきっかけで、それからずっとダンゴムシの研究を続けてきました。小学4年生のとき、ダンゴムシを飼育していたケースにカビが生えづらいということにふと気づきました。調べていくと、ダンゴムシのフンに抗カビ効果があるということがわかり、今回は、フンの中で微生物が抗カビ物質を生産しているのではないかと考えて、研究を始めました。
■今回の研究にかかった時間はどのくらい?
前述のとおり、ダンゴムシを始めたのは小1です。それから抗カビ効果を調べ始めたのが小学4~5年です。今回出品した作品は、高校に入ってからの内容で、計1年と3か月くらいでしょうか。平日は1日に2~3時間、休みの日は多い日で8時間、少ない日で3時間研究していました。
■今回の研究で苦労したことは?
専門的な知識や経験・技術が足りないというのが一番苦労しました。大学の先生にお願いをして、研究室で計4週間ほどレクチャーを受けました。
■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?
「2分割シャーレ」という特殊なシャーレを使用して、放線菌が揮発性の抗カビ物質を生産していることを明らかにした点です。
■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究
1) 「Brevibacterium sediminis sp. nov. ,isolated from deep-sea sediments from the Carlaberg and Southwest Indian Ridges」Ping Chen, Limin Zhang, Jian Wang, Jisheng Ruan, Xiqiu Han & Ying Huang(International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology, Vol.66 No.12, pp.5268–5274 (2016))
2) 「Characterization of an antibacterial peptide produced by Brevibacterium linens」A.S.Motta & A.Brandelli , (Journal of Applied Microbiology, Vol.92 No.1, pp.63-70 (2002) )
3) 「放線菌の分離と抗生物質の探索」乙黒 美彩,中島 琢自,宮道 慎二(『生物工学会誌』 Vol.90 No.8 pp.493–498 (2012))
4) 「微生物のスクリーニング法Ⅰ-Ⅰ抗生物質及び生理活性物質」新井守, 岡崎浩(『化学と生物』 Vol.5 No.5 pp.294-303 (1967))
5) 「細胞の増殖を捉える―計測法から比速度算出まで―」小西 正朗, 堀内 淳一( 『生物工学会誌』 Vol.93 No.3 pp.149-152 (2015))
6) 「ワラジムシ目の体内に生息する共生微生物の多様性と機能」陰山大輔(『Edaphologia』 Vol.95 pp.7-14 (2014))
7)「Investigation of the freely-available easy-to-use software “EZR” (Easy R) for medical statistics.」 Y.Kanda & Bone Marrow(Transplantaion, Vol.48 pp.452-458 (2013))
■今回の研究は今後も続けていきますか?
続けていくつもりでいます。目標は、一つ目は今回見つかった抗カビ物質生産菌とダンゴムシの共生関係を解明すること、二つ目は、抗カビ物質を有効利用できる形にすることです。
■ふだんの活動では何をしていますか?
僕はこの研究以外では、科学に関するイベントや講演会に参加したりしています。他の部員も、それぞれ興味のあるテーマで個人研究やグループ研究をしています。
■総文祭に参加して
研究をしている全国の高校生と交流できる機会は貴重だし、佐賀ならではの巡検研修や、著名な科学者の講演会などもあって、とても楽しかったです。
※出雲高校の発表は、ポスター・パネル発表部門の文部科学大臣賞を受賞しました。