2019さが総文

持続的な打ち水効果で、オリンピックの東京を冷やす!

【ポスター/化学】東京都立桜修館中等教育学校 科学部

(2019年7月取材)

■部員数 4人(うち1(4)年生1人・2(5)年生3人)

■答えてくれた人 足立萌さん、高橋輝さん

 

持続的な打ち水効果で都市を冷やせ!~温度応答性高分子材料の開発と保水性物質への応用~

砂漠緑化への可能性を示したPNIPAMを道路の保水性舗装へ

 

私たちは、「2020年オリンピック・パラリンピック東京大会に向けた都市空間の良好な熱環境の実現」という環境省の提言を受け、本研究を始めました。来年のオリンピック期間に、競技会場や東京近郊の都市圏のヒートアイランド現象の解消と、良好な大気・水循環の実現を目指すものです。

 

今回私たちが取り組んだのは、昨年度より物性を評価してきた「ポリイソプロピルアクリルアミド」(以下PNIPAM:ポリナイパム)という物質を、道路の保水性舗装に利用できないかという研究です。

 

PNIPAMは主に水素結合による分子間力と分子の熱運動のせめぎあいによって、およそ32℃を境に、水分子の保持と放出、つまり水を掴んだり離したりします。それによって「温度応答性」という性質が示されます。

 

PNIPAMには、そのほかにも非イオン性や生体適合性という特徴があります。

 

これらの性質を踏まえて、昨年度は砂漠の緑化をテーマとして研究を行ってきました。

 

 

今年度、私たちは新たに、PNIPAMチップをセメントに混合して保水性の舗装モデルを作成しました。

 

その際に、PNIPAMの温度応答性と非イオン性を利用して、雨が降っているときはPNIPAMが効果的に保水して、晴天時には温度が高くなるのでその雨水を放水すれば、水の蒸発に伴う気化熱によって、熱環境課の路面温度を下げられるのではないかと考えました。これを「打ち水効果」と定義しました。

 

そこからPNIPAMチップの最適化と、「打ち水効果」の検証を行いました。

 

 

最適な保水力を示す架橋剤の割合を求める

 

PNIPAMは架橋剤を共重合させることで網目状の構造をとり、保水力が向上します。しかし、最適な架橋率については先行研究がなかったので、まず私たちはPNIPAMの架橋剤「MBA」の量と保水力の関係について調べました。

 

結果は架橋率5%が最も保水に優れていました。その理由を以下のように考察しました。

 

・MBAを加えないと、水への可溶性は高いものの、水を内部に閉じ込めることができないので、保水力は向上しない。

 

・逆にMBAを過剰に加えると、発達した網目構造で硬さが増し、そもそも水が浸透しないために保水力が向上しなかった。

 

 

PNIPAMはセメントの中でも保水効果を発揮、打ち水効果もあり!

 

この実験によりPNIPAMチップを最適化することができたので、次に架橋率5%のPNIPAMを実際にセメントに混ぜて、保水による「打ち水効果」を検証しました。

 

PNIPAMの比較対象として、すでに保水性舗装などに利用されているPAS(ポリアクリル酸ナトリウム)を用いました。

 

下図のMRIを用いたセメント内部の水分イメージングでは、白い部分が水を示しています。保水材を加えた2つのモデルの水分量増加が確認できました。

 

 

また、水につけたセメントがどのように保水するかを調べるため、重量の変化を測定したところ、セメントはPNIPAMの含有量にほぼ比例して保水を示しました。

 

この2つの実験の結果により、PNIPAMはセメントの中でも保水効果を発揮することが確認できました。

 

 

そして次の実験では、保水させたモデルを電球で熱照射し、セメントの表面温度を測定して、「打ち水効果」の検証を行いました。

 

結果は、PNIPAMを加えたモデルはいずれも20分を超えたあたりから温度上昇が抑えられ、80分時点ではコントロールよりも約7℃も温度が低くなるという結果になりました。

 

 

既存の保水剤よりも長い持続効果

 

さらに、PNIPAMと既存の保水剤PASの連続使用に対する耐久性を比較しました。

 

結果は水の吸収、熱照射のサイクルを7回繰り返したPASモデルはコントロールよりも大きな温度上昇を示しています。吸水と熱照射を7回繰り返したPNIPAMモデルは1~3回サイクルを繰り返した結果とほぼ同じ温度上昇を示しています。

 

この結果からPNIPAM連続使用による耐久性は、既存の保水剤よりも高いことがわかりました。

 

 

実用化を目指して物理的耐久性の検証も視野に

 

今回の研究で、最適化したPNIPAMチップをセメントに混ぜて保水性舗装モデルを作成し、本研究の狙いである「打ち水効果」を引き出すことに成功しました。

 

また、PNIPAM混合セメントは連続使用に対する耐久性が既存の保水材よりも高いことが確認されました。

 

屋外使用を想定したモデルの評価は現在実験中であり、日照効果においても、PNIPAMは同様の「打ち水効果」が確認されました。

 

今後の展望として、実用性を見据えて、物理的な耐久性においても評価を行っていきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

先輩方が研究していたPNIPAMの使い道を考えていた際、環境省の提言(2020 年オリンピック・パラリンピック東京大会を契機とした都市空間の良好な熱環境の実現)が目に留まり、温度応答性高分子であるPNIPAMを道路の保水性舗装に利用できないかと考えました。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

平日は1日2時間(平日)で11か月です。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

研究結果をいかに定量化して数値としてデータに説得力をもたせるかということです。屋外の照射実験で、気象条件がなかなか整わなかったことにも苦労しました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

PNIPAMの合成やセメントへの混合を自分たちで行いました。多くの実験装置は手作りです。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

Advanced Materials誌に掲載された元の論文

「Thermoresponsive Polymer Induced Sweating Surfaces as an Efficient Way to Passively Cool Buildings. 」

Rotzetter,A. C. C. Schumacher,C. M.、 Bubenhofer. S. B、Grass, R. N.、Gerber,L. C.

 Zeltner,M. and Stark, W. J.( Advanced Materials  24: 5352–5356. (2012))

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

続けます。今回の研究では、外から見た結果的なものを評価しましたが、今後は構造や性質を細かく分けて考えていきたいと思います。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

各々の研究活動に加え、先生が持ち込んだ実験や生き物・ビオトープ・芝生の管理などを行っています。

 

■総文祭に参加して

 

興味深い研究が多く、いろいろな学校の凄みを感じました。研究活動が好きで集まった生徒に意見をもらったりするのがとても楽しかったです。

 

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