2019さが総文

体細胞分裂に使う試料の採取はなぜ午前10時? 1000枚以上のプレパラートの観察から考察した

【ポスター/生物】兵庫県立篠山鳳鳴高校 自然科学部

(2019年7月取材)

左から 藤林尚也くん(3年)、降矢大智くん(3年)
左から 藤林尚也くん(3年)、降矢大智くん(3年)

■部員数 10人(うち1年生3人・2年生1人・3年生6人)

■答えてくれた人 降矢大智くん(3年)

 

「体細胞分裂の観察は午前10時」の検証

「午前10時」は「日没(午後6時)から16時間後」を表す

 

タマネギなどの根端細胞による体細胞分裂の観察では、午前10時に試料を採取すると分裂指数が高いという文献があります。また、晴天が続いた時には特に分裂指数が高くなるとも記載されています。しかし、その理由については述べられていません。私たちは、光が体細胞分裂に関係すると考え、その詳細を明らかにしようと研究を始めました。

 

昨年の研究では、午前10時を「夜明け(午前6時)から4時間経ったとき」と、「日没(午後6時)から16時間経ったとき」の2通りに解釈し、それぞれのモデルで全細胞数に対する分裂期(M期)の細胞数の割合(分裂指数)を計測し、完全暗黒下での対照群と比較しました。その結果が表1です。

 

この結果から、夜明け後4時間のモデルでは対照区と有意差がなく、日没後16時間のモデルではt検定5%水準で有意差が見られました。

 

 

そこで私たちは、「光照射によって、M期の一定時間前のステージで細胞周期が停止する。光照射をやめると細胞周期の進行が再開し、一定時間後にM期に入るため、分裂指数が上昇する」という仮説を立てました。

 

この仮説に従えば、

1.光照射終了後に細胞周期を再開した細胞が、約16時間後にM期に入り分裂指数が増加する

2.光照射を始めて16時間後には、分裂指数が減少する

の二つが考えられます。

 

このうち、1については昨年の研究で確認されていますが、本研究では1の再検証と2の検証を行い、さらにそれがどのような波長の光の影響によるものなのかも調べました。

 

細胞周期を停止させるのは青色光 

実験では、タマネギ種子の根端を採取し、光を照射しつつ試料を採取して細胞数を計数し、分裂指数を計測しました。詳しい実験の方法がこちらです。

 


 

下図1および表2が白色光照射による分裂指数の変化です。

 

このグラフから、光照射を行ったものでは光照射の16時間後から(図中 区間2)分裂指数が低下しており、光照射を終えた16時間後から(同 区間4)細胞分裂が盛んになっていることがわかります。

 

 

次に、光の波長の違いによる分裂指数の変化の測定を行いました。

 

結果が下図です。対照区との有意差があるのは白色光と青色光のみで、細胞周期を停止させるのは実験で用いた3種類の中では青色光(450nm)であることがわかります。

 

 

分裂期の16時間前は、細胞がDNAの複製をチェックするポイント?

 

今回の実験から、光照射によって、分裂期の16時間前のステージで細胞周期が停止することがわかりました。細胞周期が22時間だとすると、分裂期の16時間前のステージは、細胞がDNAの複製をチェックするG1チェックポイントの可能性があります。

 

※クリックすると拡大します

光照射によって図2の赤線の時点で細胞周期の進行が停滞します。そして、光が照射されてから16時間後には図3のように細胞周期が進行する細胞の減少がM期に到達し、分裂指数が下がります。照射をやめると、停止していた細胞も細胞周期を再開し、16時間後にまとめてM期に到達するため、分裂指数が高くなります。

 

このようにメカニズムが説明できる一方で、参考文献ではG1期の終わりからM期までの時間が10時間あるいは7時間となっており、私たちの実験結果と矛盾するため、今後検証を行う必要があります。

 

また、図1の区間3において、私たちの理論では分裂指数が低いまま推移するはずなのですが、実際は対照区と同程度の大きさになっています。なぜこのような結果になったのかについても研究が必要だと考えています。

 

この実験では観察試料ごとの偏差も大きいため、より多くの観察数をこなすことも必要です。

今後はこれらの点を課題として研究を進めていきたいと思います。

 

■研究を始めた理由・経緯は?

 

「体細胞分裂に使う試料の採取を午前10時にやりなさい」と記載された実験書が多数あるのに、その理由が書かれておらず、そこを解明したかったからです。

 

■今回の研究にかかった時間はどのくらい?

 

2017年の夏にこのテーマに取り組みました。最初は1年だけで終わるつもりでしたが、非常に手間のかかる実験で、2018年にようやく口頭発表できるデータが揃いました。またその後は全国大会に向けて、再度追試に明け暮れました。その間に、他のフィールド系のテーマにも取り組んでいます。おおむね1週間あたり4~5時間程度かけています。

 

■今回の研究で苦労したことは?

 

もともとばらつきの多いデータであるのに加えて、プレパラート作成にはある程度技術がいるので、なかなか安定した結果が出せませんでした。元データは非常にばらつきの多いもので不安でしたが、統計処理をしてみると使えるデータであることがわかりました。

 

■「ココは工夫した!」「ココを見てほしい」という点は?

 

ばらつきの多い観察結果なので、数も勝負をしなければならず、作成して観察したプレパラートの枚数が、ボツになったものも含めると1000枚以上になります。単純作業の繰り返しですが、大変な手間と時間がかかったことを察していただきたいと思います。

 

■今回の研究にあたって、参考にした本や先行研究

 

先行研究はいくつか見つかったのですが、私たちの結果とは少し異なっていました。実験方法は次の論文を参考にしています。

「体細胞観察実験への細胞周期同調手法の導入」佐野史 (群馬大学教育実践研究第29,pp51-55(2013))

[その他]

「体細胞分裂に関するアンケート結果報告」兵庫県理化学会理科実習教員研修会運営委員会(2019)

「理科実習助手のための実験準備マニュアル」(2004年度版) 10 体細胞分裂の観察

・第41回兵庫県高等学校総合文化祭自然科学部発表会2017パネル発表論文集

 県立篠山鳳鳴高校「体細胞分裂の測定値は正確か?」

・「七訂版スクエア最新図説生物neo」(第一学習社)

 

■今回の研究は今後も続けていきますか?

 

今回の細胞周期の長さまで調べられていなかったので、後輩たちにその部分をお願いしたいと思っています。

 

■ふだんの活動では何をしていますか?

 

実は、本来はフィールド系の部活動で、現在、大学の先生方とニホンザルやシカなどの獣害対策についてフィールドワークに取り組んでいます。

 

■総文祭に参加して

 

全国大会に出場して発表すると、多くの方々から思いもよらない質問やアドバイスをいただき、大いに参考になりました。また他校の研究は非常に興味深いものが多く、またそれに費やした労力や時間は半端ないもので圧倒されました。

 

⇒他の高校の研究もみてみよう

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